コラム

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阻まれたFMの進化〜行き過ぎたコンプライアンス〜

■団地自治会の悩み
 最近、団地の自治会が急に亡くなる独居老人に困っている、という新聞記事を読みました。名簿記載を拒む住民が個人情報保護法以来増えていて、自治会名簿にも情報がなく、普段から動向がつかめないのだそうです。普段はそれでよいのかもしれませんが、何か事があったときに「誰に」「どうやって」状況を伝えるのか、その手段がないのでは、自治会の運営自体にも影響をきたし、困るのは自治会の人たちなのです。


■FMベンチマーク(経営管理手法)
 先ほどの団地自治会と同様に、企業もコンプライアンス(法令遵守)が重要視されるようになってから、情報管理が厳しくなりました。その反動がFMの進化をも阻(はば)んでいます。
「施設運営費が総経費の10%を越すと、企業経営に赤信号が灯る」
「施設運営費を下げるために家賃が安いところを選ぶより、働き方を変えるほうが効果がある」などの理論は、FMベンチマーク活動から生み出されたものです。

 日本ファシリティマネジメント推進協会(JFMA)は、毎年「FMベンチマーク調査報告書」を発行していました。
 ひとりあたりのオフィス面積、平米あたりの施設運営費、平米あたりのオフィス作りのコスト、企業売上や経費に対する施設運営費%など、数字データから、経営者の施設への関心事、FM理念など、企業のFMに関する取り組みまで、幅広い調査データ満載の貴重なFM資料です。
 しかし、この報告書も2006年で発行されなくなりました。最初は数百社もの企業からデータ提供がありましたが、コンプライアンスが声高に叫ばれるようになってから、データが急に集まらなくなり、活動中止に至ったのです。

 また、JFMAの活動と並行して、私が在籍していた業界のソニー、パナソニックや日本IBM、富士通など家電、コンピュータの企業10社で、ハイテクベンチマークというコンソーシアム活動も行われていました。
 ただ単にデータを比較するだけでなく、各企業を訪問し、オフィス見学をしてFMの課題などを議論しました。
 そのベンチマークでわかったことは、先に述べたように「施設運営費を下げるために家賃が安いところを選ぶより、働き方を変えるほうが効果がある」でした。


■異業種に広がるFMベンチマーク
 FMベンチマーク活動は広がり、製薬業界の数社でも行われるようになりました。また異業種では何に違いがあるかと、保険、出版、食品、商業、コンピュータなど、いろいろな業態の企業が集まって活動したこともあります。このときの結果も、数字データは違うものの、「施設運営費を下げるために家賃が安いところを選ぶより、働き方を変えるほうが効果がある」という傾向はハイテクベンチマークと同じでした。
 その結果をJFMAセミナーなどで発表し、フリーアドレスやモバイルオフィスなど、ワークプレイス変革に取り組む企業が多く現れるきっかけの一つになったような気がしています。企業のFMの進化を後押しするデータや理論を、ベンチマーク活動は提供したのです。


■終焉を迎えたFMベンチマーク
 そのようなFMベンチマーク活動もコンプライアンスやCSR(企業の行動規範)の隆盛に伴い、やりにくくなりました。結果としては5年ほど前に最後の活動となった金融業界のFMベンチマークコンソーシアムも、日本企業はどこも参加せず、外資系企業数社だけでやることになりました。
 しかしそれも、機密保持契約をどうするかで揉め、何とかクリアして面積データ比較までは行ったものの、コスト比較でデータを出せない企業が続出し、「これ以上やっても意味がない」とサジを投げた苦い経験で、FMベンチマークは終焉を迎えたようでした。


■FMデータは企業秘密か?
 FM関連のデータが企業の機密データにあたるかというと、不動産を商売としてやっている企業はともかく、ほとんどの業界の企業にとっては機密にあたらないと思います。
 最初の頃は「集めたデータを社外に公開するときは企業名を特定しない」という紳士協定でスタートして、それで十分でしたし、コンソーシアム参加企業はもちろんですが、その話を聞いた他の会社にとっても、非常に有益な情報を得ることができました。FMが進化していくのに役立つ活動でした。発表されたデータが問題を起こしたということもありません。
 コンプライアンス重視の傾向によって、データの機密性の高低を吟味もせず、すべてを囲い込み、外に出さない方向にどの企業も向かってしまったようです。これは、PC持ち出し禁止でモバイルワークを実質的に行えない日本企業が多くあることにも通じる、日本の会社の愚行だと思います。

 団地の個人情報しかり、企業のコンプライアンスしかり、日本人はひとたび方向を指示されると、疑問を持たず、後のことも考えず、右へならえとするきらいがあります。
 困ったことに、これによって我々が関係するFMの進化も滞ることになり、この点でも日本の地盤は着実に低下していくのは目に見えていることです。

小田 毘古
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