コラム

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物語で要求条件をつたえる方法

前回、プロジェクトを進める上で大切なことは、そのプロジェクトの明確な目標やコンセプトを作成し、設計者や関係者に示すこと。そして、その方法はプログラミング・ブリーフィングと称し、作成するのは発注者側、多くはファシリティマネジャーの役目であると述べました。

さまざまな方法がありますが、今回は物語で要求条件を伝える方法をご紹介します。
まずは実際の物語をご覧いただきましょう。
脳性まひの二十歳の女性のための住宅の要求条件です。

■「私の住みたい家」―生きることを楽しむ家―
私は二十歳。
自分で何でもやりたいし、ほんの少し補助があれば何でもできる。
母は62歳。とても明るく元気だけれど、昔のような力仕事はきつそう。
若いころ無理したせいか、腰を痛めてしまっている。
私の将来のために、私が自立できるよう、庭に小さな家をつくってくれるという。
うれしくれうれしくて、私の思いをパソコンでつづってみた。

私は車いす利用。
車いすのスタイルをとても大切にしていて、外用と室内用を使い分けている。
玄関はそれを収納できるようになっている。
住まいは、清潔感があって、外から帰ってきた時ホッとする感じがとても大切。
庭の草木がいっぱいあるので、居間からも浴室からも庭の緑を楽しみたい。
段差や手すりなどバリアフリー対応なんか当たり前。
ユニバーサルデザインで、自然な感じで、さらに楽しさや環境にも配慮した家がいい。
家の中にはサンサンと陽が入り、気持ちよく、四季が楽しめる家がいい。
私はとても臭いを気にする方だし、一気に換気もできるといい。
ベッドもテラスに干したい。

エアコンを切った時、すぐに寒くなったり暑くなったりしない家がいい。
なるべく余分なエネルギーを使わなくて、自然に暮らしたい。
ランニングコストもできるだけ抑えられる工夫をしてほしい。

部屋にはトイレや浴室以外、間仕切りはなくオープンな感じで空間を楽しみたい。
でも、ベッド周りだけ、ちょっと仕切れると安心。
ベッドの隣に、直接行ける小さな畳スペースがあると便利。

私は料理が好きだから、友達とみんなで一緒に楽しみながら料理ができて、
気楽ホームパーティなんかできたら最高。
でも、さくらちゃんはとても背が高いから、カウンターの高さが調整できるといい。
テーブルの脚は車いすをぶつけるので、ない方がいい。
そうそう、洗濯機は浴室の近くで、キッチンからも近いと便利。
ただし、普通の洗濯機は底まで手が届かないから、横型の洗濯機がいい。
車いすの車輪がぶつからないような工夫もお忘れなく。

トイレとバスルームはゆったり入りたいし、一体でもいい。
むしろ一体の方がいい。
明るく小さなサンルームって感じで。
私はお風呂が大好き。
体もいい感じになるし。生きているって感じになる。
お風呂から庭も楽しみたい。
トイレから、浴槽までトランスファーで簡単に移動できたり、
横ずさりしながら移動できたりできるといい。
浴槽で母に介助してもらう時も、母が腰を痛めないようにしたい。

それに、台風の時や夜の防犯対策に雨戸も必要。
でも、自分では大変なので、できれば電動のシャッターが楽で安心。
自然換気が好きなので、換気のことも忘れずに。
設計の方には、車いすに乗って、私の目線で見てほしい。
・・・・

以上は、私が25年以上前にモデル住宅を設計した時の要求条件として作った詩(物語)をアレンジしたものです。
私は脳性まひの経験がないので、どのような設計をすればいいのかわからず悩みました。そこで、専門のドクターや関係者にヒアリングをして、結果を上記のような詩にして、何度か繰り返し、それらを設計条件にして、「脳性まひの二十歳の女性のための住宅」を設計しました。その時、自ら経験してない世界のものを設計するむずかしさ、利用者の声(ニーズ)をいかに設計に結び付けるかということ、法規や基準やスタンダードは、制約条件にはなるが、設計の道しるべにはあまりならないということを感じました。
そして、単に面積基準などを付した要求条件(プログラム/ブリーフ)は、十分に発注者の意思を伝えないということも感じました。

制約条件だけではなく、本当の要求条件を伝える方法はないか考えていた時、このような物語や詩による方法を思いつきました。図面を書くのはプロでないと難しいかもしれませんが、文章は誰でも気軽に書けます。図面や絵でないと表現できないものもありますが、文章でないと表現できないものもあります。訂正も簡単です。図面や絵はソリューション方法としては重要な手段ですが、要求条件としては、文章の方が適していると思います。文章は、図面では表現しづらい感覚的な思い、季節感、雰囲気、時間、温度等の環境条件、行動、サービス等々が、容易に表現することができます。そして何より、関係者で容易に情報共有できます。これらをベースに合意形成することも容易です。
このプロセスをスムーズに進めるには、前回もご説明しましたステップで、まず個別インタビューなどで利用者のニーズを正確に把握し、次に現状を把握して、そして方向付けとして、今回ご紹介した「物語による要求条件書」を作成することです。

インタビューは個別で、「物語による要求条件書」は関係者でグループ・ディスカッションなどにより進められるとよろしいでしょう。物語のベースは、インタビュー結果から作成し、パワーポイントなどで画面に映しながら関係者で作り上げていく方法がよいと思います。その時のコツは、あまり文学的にならないことです。要求条件を淡々と素直にまとめることをお勧めします。これからできるものの要求条件をまとめるのは、夢があり楽しいものです。それらを関係者とディスカッションしながら行うことは、目標(ゴール)を明確化するだけでなく、意識や情報を共有することができ、プロジェクトもスムーズに進めることもできます。
是非皆さんもトライしてみてください。

成田 一郎
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