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「同一労働同一賃金」への対応【その1】法制化対応に早く取り組むべき理由とは

2018年05月15日

 2018年4月6日に「働き方改革関連法案」が閣議決定し、国会に提出されました。私はこの「働き方改革関連法案」が成立した場合、企業にとって、もっとも広範囲に大きな影響を及ぼすのは「同一労働同一賃金」と考えています。なぜなら企業財務と人材確保に直接影響を及ぼす可能性が高いからです。

 具体的には個別の企業の現状により異なるでしょうが、場合によっては、賃上げや人員計画、設備投資といった点にも影響する可能性があります。今すぐアクションを求められているわけではありませんが、「どんな影響が想定されるか」をできるだけ早く把握することは非常に重要です。本稿ではその理由を説明していきます。

■非正規労働者の賃金アップを目的にしている

 第3次安倍内閣は「ニッポン一億総活躍プラン」の中で「働き方改革」を最大のチャレンジとし、中でも「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」を第一の課題と位置付けました(注1)。

 特に賃金については、欧米の主な国で非正規労働者の賃金が、正規労働者の賃金の7割から9割近くに達しているのに対し、日本の場合は6割に満たないという統計結果(注2)が問題視されています。このことから、働き方改革の目的の第一は非正規労働者の賃金を上げることであり、万が一賃金が上がらない場合、それは、安倍内閣の政策失敗を意味することになります。

 裏を返せば、企業に対しては賃上げ圧力が高まることを意味し、それは同時に増加する賃金原資をどうするかという厳しい問題が伴います。

■待遇改善の対象となる非正規労働者の範囲が広がる

 今回の改正法では、パート労働者、有期契約労働者、派遣労働者のすべてが対象になります。「同一労働同一賃金」という名称から「正規労働者と同一の仕事をしている非正規労働者だけが対象」という誤解をしている方が見受けられます。しかし、今回の法案では、均等・均衡の両方の確保、すなわち、バランスも求められるのです。正規労働者と非正規労働者の待遇に違いがあってもよいが、すべての非正規労働者について不合理な格差があってはならないのです。

 さらに、司法による救済がより可能となるように根拠規定が設けられ、行政(労働局)が介入する範囲も広がります。つまり、企業が適切な対応を怠ると非正規労働者の待遇をめぐるトラブルに巻き込まれる可能性が従来以上に高くなるのです。

■法改正に対応するには時間がかかる

 法案が成立した場合、その対応には時間を要します。法案成立後に「同一労働同一賃金ガイドライン案」について労働政策審議会にて審議が始まります。2016年12月に公表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、有識者で構成された会議の中間報告を基に作成した案であり、正式な決定版ではありません。労働者代表や使用者代表が参加する労働政策審議会で再度審議し、最終版が確定する予定です。そのあとに政令、省令など具体的な運用が示されます。

 そこから各企業が非正規労働者の待遇を見直すとすると、その後に経費アップを試算し、それをどう吸収するか検討し、組合との交渉や社内制度の見直し、規程類の整備やシステムの変更、そして従業員への周知といったアクションを取ることになります。正規労働者の制度も見直す必要があれば、賃金制度の変更や経過措置等も必要です。経団連が改正法施行を待たずに労使で話し合いをするよう要請した(注3)のは対応に相当な時間が必要であること表しています。

■対象となる待遇は賃金だけでなく広範囲に及ぶ

 「同一労働同一賃金」という名称から賃金のみが対象であると誤解する方がいます。確かに賃金は最重要項目ですが、この法案では賃金を含むすべての待遇が対象になります。具体的には基本給、賞与、諸手当を含む賃金に加え、教育訓練、福利厚生(食堂、休憩室・更衣室、転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、有給保障、病気休職、法定外年休、休暇等)安全管理、災害補償、服務規律、付随義務など(注4)であり、対応すべき項目は少なくありません。

 そして、特に中小企業にとってもっとも重要なのは5番目の理由ですが、これについては次回説明します。

【注1】2016年6月2日閣議決定「ニッポン一億総活躍プラン」
【注2】2016年4月13日「第二回同一労働同一賃金の実現にむけた検討会」における厚生労働省の資料によれば、フルタイム労働者の賃金を100とした場合、パート労働者の時間当たり賃金は、英71.4%、独79.3%、仏89.1%、伊70.8%、蘭78.8%、デンマーク70.0%、スウェーデン83.1%に対し、日本は56.6%。
【注3】経団連会長の榊原定征さんは2018年1月22日の労使フォーラムにて「改正法の施行を待たずに労使で徹底的に話し合いを重ねてほしい」と強調したと報じられている。
【注4】平24・8・10基発0810第2号第5の6(2)イ、平26・7・24基発0724第2号等第3の3(4)

川畑 潤
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