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「同一労働同一賃金」への対応【その2】法制化対応に早く取り組むべき理由とは(2)

2018年06月07日

 前回は「同一労働同一賃金」法制化にできるだけ早く取り組むべき理由を4つ挙げました。今回はもっとも重要な5番目の理由を説明します。

■非正規労働者の待遇において企業間格差が顕在化し採用市場等に影響が出る

 現在の非正規労働者の待遇を見ると、賞与、退職金、昇給などはなく、あってもわずかなものです。そして時給についてはほとんどが職種と地元の相場で決まります。この点は、大企業でも中小企業でも大差ありません。

 しかし、「同一労働同一賃金」法案が成立すると、大企業の非正規労働者は、同じ企業内の正規労働者との均等・均衡が実現することになります。法案は同一雇用主の下での正規・非正規の均等・均衡を求めていますが(注1)、その結果、非正規労働者における大企業と中小企業の格差や、待遇改善できる企業とできない企業の格差が顕在化する可能性が高くなります。それは採用条件にも反映されますので、ただでさえ人材確保に苦慮している企業は非正規労働者の採用・定着でも今以上に劣勢に立たされるでしょう。正規労働者と異なり転職への意識のハードルが低い非正規労働者の場合、より良い待遇を求めて移動する可能性も一層高くなります。そうすると採用市場から雇用市場全体に波及するかもしれませんし、その対策を考えなければならないのです。

■違法、適法という視点のみでは不十分

 違法か適法かという視点はもちろん重要ですし、違法性があればそれを解消しなければならないのですが、それだけでは十分ではありません。仮に法律の専門家に相談して自社の非正規労働者の待遇を見直し、正規・非正規間の不合理な格差を解消したとしても、その結果もたらされた待遇が、他社に比べて見劣りする水準なら求職者からは見向きもされないでしょう。また、現在雇っている非正規労働者が会社を去っていくかもしれません。そのときに「うちの非正規労働者の待遇は適法です」「うちの会社では正規・非正規の不合理な格差はありません」といくら説明しても、待遇そのものが低いのであれば非正規労働者にとっては興味のない話です。

■中小企業は労働市場の動向が重要

 経団連の調査(注2)によれば、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を受けて6割以上がなんらかの対応が必要と回答しており、そのうちの4割以上が「賞与」、3割以上が「基本給」の対応を挙げています。おそらく法律成立後は、この割合がもっと増えると思われます。経団連の会員企業は多くが大企業ですから中小企業に比べて賃金アップの余力もありますし、正規労働者の賃金水準も中小企業より高い水準になっています。大企業では法施行(現在の予定では2020年4月)に向けて、正規労働者との不合理な格差を解消すべく非正規労働者の待遇改善や賃金改善を進めるでしょう。現下の人手不足もその後押しとなります。

 ところが、中小企業の法施行日は大企業より1年あとの2021年4月の予定です。そうすると、2020年の4月時点では、多くの大企業の非正規労働者の時給は上がり、賞与・手当あり、昇給ありといった条件に改善されているかもしれません。一方、中小企業の非正規労働者の待遇は従来のままの可能性が高いと思われます。違法か適法かという観点でいえば、中小企業の法適用は猶予されているので違法ではありません。しかし、非正規労働者側にとって、それは関係ないことです。より待遇の良い企業で働きたいと考えるでしょう。賞与・手当や昇給があった方が良いに決まっています。そうなれば、中小企業も法律の適用時期と関係なく賃上げ、待遇改善をせざるを得なくなります。

 厚生労働省は、準備に時間がかかることに配慮して、中小企業に対する同一労働同一賃金の適用を1年猶予するとしていますが、実質的な効果は疑問です。大企業も中小企業も非正規労働者の労働市場は同じなのですから。だからこそ、できるだけ早く「同一労働同一賃金」法案の準備に取り組む必要があるのです。労働市場の変化が急激になるか、緩慢になるかは予測できません。しかし、無風では済まないはずです。

 次回は企業が取り組むべき3つの課題を説明します。

【注1】改正法2条および水町勇一郎「同一労働同一賃金のすべて」(有斐閣)参照 【注2】経団連「2017年人事・労務に関するトップマネジメント調査結果」経団連会員企業へのアンケート結果による。対応が必要な項目としては、1.「雇用形態ごとの職務内容や人材活用の仕組みなどの整理・明確化」63.1%、2.「賞与」43.7%、3.「福利厚生制度」35.8%、4.「基本給」33.4%(複数回答)

川畑 潤
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