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改正民法で変わる債権法【その5】定型約款への影響とは

2019年06月21日

 膨大な数の取り引きを行う企業にとっては、約款は非常に重要なものです。2020年4月に施行される新民法では、この約款について新たなルールが定められました。今回は、民法改正が企業の約款にもたらす影響についてご説明します。

■約款とは

 約款とは、携帯電話の割賦販売契約や電気ガスの契約など、企業が不特定多数の利用者と同じ内容の取り引きをする場合に示す画一的な契約条件のことをいいます。多くの申込者との大量の同種取り引きを効率的に行うためには、逐一契約条件を交渉するのは手間やコストが多くかかってしまいます。

 そのため、一方的に取り引き条件を広く提示し、それに無条件で同意した申込書と契約関係を発生させるものが約款となります。同意ボタンを押すと購入が完成する取り引き、ウェブ約款などが代表例です。

■改正の背景と理由

 インターネットの普及により、ウェブ約款といった約款が広く利用されるようになりました。しかし、法律用語を細かく記載した約款にすべて目を通す消費者は少ないので、注文時に不利な条件に気付かずに同意してしまい、トラブルになるケースも多く見られるようになりました。民法は120年前に制定されているため、このような時勢に十分に対応できるような約款についての定めがありませんでした。

 そこで、改正民法では、あらためて取り引きの前に明示されたウェブ約款への「同意する」ボタンの押下などによって消費者の合意が確認できる場合は、約款上の契約条件は有効であるという原則が明確化されました。一方、サービス提供者とのパワーバランスに配慮し、約款内容のうち消費者に一方的に不利な条項は無効となることも明記しています。

 約款作成の際、つい自社に有利にしたいという気持ちからあまりに消費者に不利な内容にしてしまうと、無効となる可能性があることに留意しましょう。なお、この可能性はかねてから消費者契約法上存在しましたが、今回の民法改正で民法上も明確に確認規定がおかれたともいえます。

■対象となる定型約款とは

 改正民法では、不特定多数の者を相手方とする取り引きにおいて、内容の全部、または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものと定義した上で、定型取引についての契約内容とすることを目的として定められた条項の総体を「定型約款」と定めました。

 具体的になにが定型約款に当たるのかは、法律上明記されていませんが、法改正の議論の中で鉄道などの旅客運送約款や、電気やインターネットの提供契約・保険約款、銀行の普通預金規定などがこれに当たることは、ほぼ解釈の割れがありません。

 一方、会社が用意している各種契約書ひな型や、就業規則、労働契約書は、定型約款には当たらないものと解釈されています。

■定型約款の変更

 事業者はサービスの変更や見直しに応じて、約款の内容を顧客が同意したあとでも一方的に変更することがあります。こうした変更はやむを得ない半面、顧客が同意していないにもかかわらず不利益をこうむることがあるため、その利益調整をはかる必要があります。

 そのため、「本約款はお客様の事前の了承なく、当社が変更することがあります」というような条項については、その変更が顧客の一般の利益に適合する場合や、変更が約款の本来の目的に反せず諸事情に照らして合理的な場合に限って認められます。

■最後に

 プラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業の利用規約が、一方的に利用者に不利に変更されることが大きな問題となっていました。これに対し、今回の改正によってあまりに一方的な条項や恣意的な変更はできないことが、民法上明文化されたことは大きな前進といえるでしょう。

 もっとも、事務効率の観点や、自社の契約上の権利を確保するために、約款を用意している企業は多いと思いますので、今回の改正を機に、自社の約款が適切なものか、もう一度確認してみることをお勧めします。

白石 哲也
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