著作権を考える前に 法律と法と道徳:著作者人格権

最終更新日:2010年03月06日

著作権を考える前に 法律と法と道徳:目次

(1) 人格権とは

著作物は社会のために積極的に利用されることが望ましいのですが、著作者の作品への思いを踏みにじるような利用の方法は認めるわけには行きません。著作者の人格を傷つけないような配慮が必要です。そこで著作権法は著作者の人格権を守るための3つの権利を定めました。著作者人格権は、人格を保護する権利なので譲渡したり、相続によって移転したり、制限することはできません。憲法で保障された基本的人権を保護するために著作権法で具体的に定められたものと考えられます。

著作者人格権の中の3つの権利: 1) 公表権 2) 氏名表示権 3) 同一性保持権

(2) 公表権

●公表の権利 自分の作品を世間に公表するかどうかは、その作品を作った人の意思に委ねるべきです。他人が勝手に作品を公表することは、たとえそれが本人にとって経済的利益になることであっても、本人の意思に反しては行うことはできません。自分の意志で自分の作品を公表する権利が公表権です。

●公表とは? 発行すること、または、著作権者または著作権者から許諾を受けた者が上演、演奏、上映、公衆送信、口述、公衆への展示、送信可能化すること。

●同意の推定その1: 著作者が未公開作品の著作権を誰かに譲渡したときは、その著作権にもとづいて公衆に提供したり提示したりすることを同意したと推定されます。著作権を譲り渡した相手に公表権を行使するということは、一般的には考えられないことだからです。譲渡のときに、これについての特約があればそれに従います。

●同意の推定その2: 美術の著作物と写真の著作物の場合、未公表の原作品を譲渡した場合には、その原作品の展示を同意したと推定されます。原作品を手に入れた人は、自由に展示できると考えるのが一般的だからです。

●同意の推定その3: 映画の製作者が映画の製作であることを同意して制作に参加しているときは、その映画の著作物の著作権は映画製作者に帰属しますが、この場合の著作権の帰属は原始的帰属ではなく、創作後の著作権法定譲渡であると考えられるので著作者人格権は個々の映画制作参加者に存在しますが、この場合には、個々の著作者は映画が公表されることを同意していると推定されます。映画が公表されるのは当然のことだからです。

(3) 氏名表示権

自分の作品を公表するとき、自分の名前を作品上に表示するかどうか、またはどんな名前で表示するかは、著作者が決めるべきことで、他人は著作者の意思に反して勝手に作品に氏名を表示したり、表示しなかったりすることはできません。(19条1項)

●表示について約束していないとき

しかし特に約束が無いときは、その著作物についてすでに表示されている方法で表示すればよいことになっています。例えば、写真家から買った写真を展示するときは、その写真に附されている写真家の名前を写真とともに表示しなければなりません。ウソの名前で展示したりするのはもってのほかです。(19条2項)

●どのように表示するかについても著作者が決める

また、ドラマの脚本や原作も著作物ですが、よく番組の最後に脚本家や原作者の名前が出てきます。 これを本名で表示するか、ペンネームにするか、または表示するかしないかは、原則として著作者の意思によります。

●表示を省略されるときもある

しかし、著作者の利益を害するおそれがなく、さらに公正な慣行に反しない場合は、氏名の表示を省略できます。例えば商品のパッケージデザインなどの場合、そのデザイナーの氏名を表示することはあまりありません。商業用利用の場合、著作者表示の主張よりも商品の売れ行きを優先するのが一般的です。(19条3項)

●公的機関による使用について氏名表示権が制限される場合

公的機関が情報公開する際に、言っての場合には氏名表示権を行使できない場合があります。(19条4項)

(4) 同一性保持権

例え他人に譲った絵であっても、勝手に色を変えられたり修正されたものが世に出るのは、画家にとっては許せないことです。なぜなら、作者の評価をおとしめる危険があるからです。作品に手を加えず、ありのままを人に見て欲しいという著作者の気持ちを保護するため、同一性保持権を設けました。同一性保持権は、著作者が社会から作品のありのままを見てもらい評価を受ける権利とも言えるでしょう。出版社が作家の許諾を得ずに文章を校正して出版したり、映画館やTV局が映像の一部分を無断でカットしたりするのは同一性保持権の侵害になりえます。しかし、著作物の通常の利用のためにやむをえない場合には、改変することを法は認めています。たとえば、保存に耐えなくなった彫刻の修理や、プログラムのバージョンアップなどの場合です(著作権法20条)。著作物を営利目的で利用する場合には、ある程度の改変を必要とする場合が多く、同一性保持権は非常に問題になりやすい権利です。

(5) 著作者人格権の保護期間

著作者人格権は、著作者の人格を保護するための権利ではありますが、著作者の死後であっても、著作者が生きているとしたらその人格を侵害していただろうと思われる侵害は、してはいけないことになっています(60条)。このような場合、著作者本人はすでに亡くなっていますから、その遺族(死亡した著作者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹)が侵害行為の差し止めや損害賠償請求を行えることになっています。また、このような侵害行為は著作権法120条で300万円以下の罰金刑が課されます。

(執筆:のぞみ合同事務所 行政書士日野孝次朗)

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