企業はいよいよ国際標準である「社会的責任の手引」(ISO26000)を使いこなして、慈善活動的CSRから本業CSRへ転換し、ポーター教授らによる社会課題と経済価値の同時実現を狙う競争戦略としての「共有価値の創造」(CSV)も織り込んでいく必要があります。
また、最新の国際的な共通言語であるSDGs(持続可能な開発目標)を使いこなさなければなりません。
さらに、企業は、投資家に対してもESGを重視してどのように持続的に価値を創造していくかという「ストーリー」を語り、メディアをはじめ関係者と良い関係(リレーションズ)を築く本来的な意味の「パブリックリレーションズ」が重要です。わかりやすくするため「三方よし」の考えも使い、「隠徳善事」では伝わらないので「発信型三方よし」として理解していきます。
筆者の31年の行政経験と9年の企業経験を活かし、「これならわかる共有価値創造とサステナビリティ経営の理論と実践」という実践的な角度で皆様と考えていくサイトです。地方創生もCSR/CSVの実践として紹介していきます。
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層の関心にも答えていきます。


(※)CSR企業の社会的責任: corporate social responsibility   CSV共有価値の創造:creating shared value
ISO国際標準化機構: International Organization for Standardization   SDGs持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals

笹谷オリジナルコラム:

経営感度を磨く社会の読み方<第11回>
「山ガール」がけん引する人と自然の共生(長野県)

2017-11-28 07:45

女性活躍の時代に、若手四人組の信州ご当地アイドルグループ「オトメ☆コーポレーション」が「山ガール」に認定されました。今回はその活動から学びましょう。
 

信州山ガール

 2015年2月15日、長野県での「信州山岳環境魅力発信フォーラム」の「県政タウンミーティング」で登壇しました(※1)。「信州の山の保全と活用」というテーマで、阿部守一知事をはじめ、信州大学鈴木啓助氏、有限会社オフィスエムの寺島純子氏、オーストリア大使館ルイジ・フィノキアーロ氏が参加しました。7月の第4日曜日を「信州山の日」と制定し、これに合わせて信州の山や自然に関する魅力を発信する企画で、「オトメ☆コーポレーション」が挑戦した登山、狩猟、林業などの活動成果について、「生物多様性保全」のすばらしい報告がなされました。
 
※1 長野県のホームページ「平成27年2月15日に開催した県政タウンミーティングについて」(http://www.pref.nagano.lg.jp/koho/kensei/koho/townmeeting/data/150215/index.html)参照
 

「生態系サービス」で「生物多様性」を理解する

 「生物多様性」という言葉には、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性の3つの意味があります。企業や消費者の場合は、これを「生態系サービス」という利用面から見るとわかりやすいでしょう。生態系を「供給サービス」「調整サービス」「文化的サービス」「基盤サービス」の4つの機能に分類します。
 供給サービスは、衣食住などの根源的な産業活動に関係します。調整サービスは、バイオテクノロジーや病害虫管理、土木技術などです。文化的サービスは、エコツーリズムなどに関係します。基盤サービスは、土壌・生態系などの基礎研究です。
 「オトメ☆コーポレーション」は、これを彼女たちの目線でわかりやすい体験を交えて紹介していました。

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 まず、「霧ヶ峰八島ヶ原湿原」でのガイドウオーク。日本には、季節感や色彩感などが育んできた固有の文化があります。筆者は「霧ヶ峰の高原と風」が環境省「かおり風景百選」に選定されている点を発言しました。伊藤園は全国201の地域密着型の拠点網で、地域が大事にしているものの保全を応援しています。「お茶で日本を美しく。」キャンペーンでは、昨年から長野県の霧ヶ峰高原等の自然環境保全活動を支援しています。
 次に、ジビエ(野獣料理)の体験です。この20年間で、鳥獣被害は様相を大きく変化させました。過疎化で人がいなくなった山では、イノシシやシカやクマが闊歩しているのです。一方、人間社会は鳥獣被害防止のための銃猟免許やわな猟免許などの資格者が激減しています。深刻な過疎化と地域社会の崩壊の象徴的な出来事です。最近はシカなどをジビエとして活用する自治体が増えています。ここで、シカを「駆除」するが食べ物として利用するという自然の摂理の複雑さを学ぶのです。
 次のオトメの挑戦は、林業体験と長野県産の木をふんだんに使った、しなの鉄道の「ろくもん」電車(軽井沢│長野間)の試乗体験です。信州の木のぬくもりを感じ、信州の自然(景観)・文化・食、さらにはおもてなしを堪能できる大人気電車です。そのあと、長野市の県産材モデル住宅見学、信濃町での伐採作業の見学と、盛りだくさんの体験です。
 最後は、上高地トレッキンングで自然保護を学び、これまでのミッションを振り返る女子会でした。
 「採らない」「与えない」「持ち込まない」「捨てない」「踏み込まない」の5つのルール。上高地は国立公園のほか、「特別名勝」「特別天然記念物」にも指定されています。
 森林は木材の生産のみならず、治山治水、水源涵養、景観の保持、森林浴による心の癒やしなど「多面的機能」を有する「自然資源」です。私たちは木材という貴重な資源を有効に利用しながら、子や孫の世代からも喜ばれるような豊かな森林を長い目で育成していくことが大切です。これを筆者の関東森林管理局長時代の見聞を交えて説明しました。
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オトメのプログラムの物語性

 すでにおわかりの通り、「オトメ☆コーポレーション」が優れた資質を発揮して成長していることに加え、長野県庁には優れた企画マンがいるのです。長野県の自然資源の要所を押さえて、オトメがこなせるプログラムに組み、かつ、すべてにおいてその道の専門家の指導を仰いでいます。この活動成果は長野県魅力発信ブログ(※2)で発信されています。
 さらに東京には2014年10月26日にオープンした「銀座NAGANO」があり、オトメはイベントを盛り上げます。これを見ると、つい訪れたくなります。このわかりやすさと発信性には学ぶべきことが多いです。オトメには、幅広い「学び」へ誘う役割があります。県によれば、「山」になじみの薄い年代層の関心を呼ぶねらいがあるそうです。
 「山ガール」のほか、「森ガール」(mixiの森ガールコミュニティから2008年に話題)、「SATOガール」(福井県)、「島ガール」(伊豆七島・東海汽船)もあり、ついに「狩りガール」(一般社団法人大日本猟友会提唱)まである時代です。
 このような活動の源となる生物多様性の保全は重要ですが、難しい点もあります。まず、複合課題です。単に環境保全だけではできません。生態系の研究調査や利用との調整やコミュニティの理解も必要です。
 次に、保全には、みんなのパートナーシップによる補完が必要です。企業は本業関連で参加する方が効果的です。専門家の知見を得て「みんなで学ぶ」べきです。
 活動内容は、「知る・生かす・つなぐ」がポイントでしょう。特に「つなぐ」では、音頭取りの県のイニシアチブが重要です。相互に協力、補完し合いながら継続的に成果を積み上げていくような活動では、何よりも「人と人のつながりを生かすパートナーシップ」が求められます。パートナーとして参加した一人ひとり、すべての団体が目標を達成し、十分に報われることが大切です。このような「ウィン・ウィンの関係」で参加者を結びつける仕組みが、企業も参加しやすい「三方よしのプラットフォーム」です。そのようなプラットフォーム作りに県庁職員のアイデアを募って尽力されている、長野県知事のリーダーシップはすばらしいと思います。
 
※2 自然と遊ぼう!ネイチャーツアー http://blog.nagano-ken.jp/nature/otome
 

しあわせ信州創造プラン

 長野県は、「しあわせ信州創造プラン」(長野県総合五か年計画)の中で「農山村産業クラスター形成プロジェクト」として、世界水準の山岳高原観光地作り、県民参加型観光地域作り、農林業の高付加価値化を目指しています。
 また、諏訪地域には、「東洋のスイス」と称される高い技術力と厚みのある産官学の集積基盤があり、「SUWAブランド」としての発信性も高いと評価されています。同県はこの取り組みを「しあわせ信州創造プラン」の中で、「超精密・超微細な加工技術を生かし、『健康・医療、環境・エネルギー、次世代交通などの新たな成長分野が次々と育ち』世界中に貢献している」と紹介しています。
 このプランの実行で、長野県は、世界をもにらんだ活力ある地域になっていくと思います。「まち・ひと・しごと創生」が始まっていますが、長野県ですばらしい取り組みが展開することを期待します。
 
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(『月刊総務』2015年6月号より転載)