企業はいよいよ国際標準である「社会的責任の手引」(ISO26000)を使いこなして、慈善活動的CSRから本業CSRへ転換し、ポーター教授らによる社会課題と経済価値の同時実現を狙う競争戦略としての「共有価値の創造」(CSV)も織り込んでいく必要があります。
また、最新の国際的な共通言語であるSDGs(持続可能な開発目標)を使いこなさなければなりません。
さらに、企業は、投資家に対してもESGを重視してどのように持続的に価値を創造していくかという「ストーリー」を語り、メディアをはじめ関係者と良い関係(リレーションズ)を築く本来的な意味の「パブリックリレーションズ」が重要です。わかりやすくするため「三方よし」の考えも使い、「隠徳善事」では伝わらないので「発信型三方よし」として理解していきます。
筆者の31年の行政経験と9年の企業経験を活かし、「これならわかる共有価値創造とサステナビリティ経営の理論と実践」という実践的な角度で皆様と考えていくサイトです。地方創生もCSR/CSVの実践として紹介していきます。
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層の関心にも答えていきます。


(※)CSR企業の社会的責任: corporate social responsibility   CSV共有価値の創造:creating shared value
ISO国際標準化機構: International Organization for Standardization   SDGs持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals

笹谷オリジナルコラム:

経営感度を磨く社会の読み方<第12回>
「〇育」の時代
- 教育CSRとは何か -

2017-11-28 07:55

今回は、文部科学省主催で、青少年体験活動推進企業表彰と併せて実施されたシンポジウム「企業社会に教育CSRは拡がるか? - 企業は教育貢献にどう向き合うべきか -」(2015年2月5日実施)のパネルディスカッションのようすをご紹介します。
 

教育CSRと青少年体験活動

 パネリストとして、石坂産業専務取締役の石坂知子氏、森ビル取締役常務執行役員の河野雄一郎氏、千葉敬愛短期大学学長の明石要一氏、筆者が加わり、モデレーターは日経ビジネス発行人である高柳正盛氏でした。
 筆者は、「教育CSR」とは「本業を活用した教育に関する活動」であること、活動局面は社内の社員教育・訓練・能力開発と、社外関係者との協働の2つであると述べました。この社外関係者との協働に関して、「今後の青少年の体験活動の推進について」(2013年1月21日、中央教育審議会)では、学習を目的として「意図的・計画的に提供される体験」が推奨されています。また、文部科学省がまとめた『生き抜く力』という事例集で本業の活用が打ち出されています。
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体験活動への企業の参画

 このような中で、企業にも「社会対応力」が求められています。「三方よし」を念頭に置き、人と人とのつながりを強化し、さまざまな関係者の間で相互に補完し合う時代です。みんなの学びを地理的に、時間的に、情報的に広げることが大事です。
 企業が教育CSRをどのように進めていくべきか、図表1を参照してください。得意分野の本業をうまく使うと、体験活動で3つのことが起こります。まず企業のスキルや能力、専門性を使うと、専門的ノウハウを伝達できます。そして企業のアセット(資産)である工場や現場などを開放することで、実感できる場を提供できます。さらに本業を通じて実施することで、勤労観、職業観の学びにもつながります。
 これにより、(1)企業の信頼性の確保と社会的評価の向上、(2)企業の経営判断への参考意見の聴取、(3)社員の能力向上、そして、(4)これらを通じた「共有価値の創造」が得られ、さまざまな刺激の中から「イノベーション」も生まれます。共感「いいね!」、理解「なるほど!」、継続「またね!」の3つが効果的な実施の要諦です。
 本業を使うことで、さらに「さすが!」という評価が得られます。それにより、社員もさらに工夫するという良いサイクルができると、継続性につながります。
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「〇育」の時代

 今は「〇育」の時代です。森ビルの「街育」のように、企業などによる特色ある教育が数多く行われており、本シンポジウムでもその一部が紹介されました。これは、CSRが本業CSRに切り替わっていく流れを示めしています(図表2)。
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 本業CSRでは、教育に関連しても本業をうまく使います。たとえば、工場、街(オリンピックに向けての高付加価値街づくり、森ビル)、番組の制作現場、ダム・発電所、薬品会社の薬用植物園、電車・バス、リサイクル工場(石坂産業)など、現場感のある場所を使うことが特色です。ハード面の「場」以外にも、写真発表会、新俳句の商品パッケージでの発表機会など、ソフト面の「場」もあります。
 活動が効果を上げるためには、経営の中に組み込んで展開することが必要です。そのためにはまず経営陣の理解を得て、そして社員の参加の仕方を調整します。特に「社員の対外調整力の向上」につながる仕組みにすることと、経営への好影響を導くことが大事です。
 出前授業で新入社員が会社の代表的商品であるコピー機を説明したり、社内マイスター制度「安心教室マスター認定制度」で現役ガードマンが登壇してAEDについて説明するなど、社員の参加の仕方に工夫をしている事例が見られます。
 また、「実践する教育者の育成」という点も重要で、保護者や先生向けの情報モラル教育プログラム、高校生が経営陣の前で行う経営計画案の発表も特色があります。
 

「発信型三方よし」の人材育成の要点

 対外的な発信では、関係者(パブリック)との間で幅広い関係性を構築していく「パブリック・リレーションズ」が重要です。その上で「ともに知る、学ぶ、つながる」というサイクルを作っていきます。筆者はこれを「発信型三方よし」といっています。世界的視野を持つグローバル人材の育成が必要で、それが経営上の意義も高めます。そのためには、次の3点がポイントです。
 第一に、複合的な課題対応能力です。経済、社会、環境は相互に関連します。したがって、体験活動も相互に融合し、総合的な理解力の向上にもつながるプログラムに進化していきます。たとえば日本製粉では陸上選手である為末大さんの為末大学と組み、運動、食育、気付きを発表する場を持つという深みのある活動をしています。そのほか、ITリテラシー、ITの使い方、情報技術に関する学びも注目されます。
 第二に、活動の3分野(経済、社会、環境)をバランスよく行うとともに、発展段階を丁寧にカバーし、教育効果を教育課程の中に埋め込んでいくことです。高校生などへのプログラムも、今後は重要です。
 第三は、これらの活動を地域に定着させることです。グローバルな事例では、国内だけでなく海外の11の小学校もインターネットのライブ配信でつなぎ、毎年「学童歯みがき大会」を開催しているライオンの取り組みが注目されます。また、日本電気の「NEC世界子ども自然クラブ」では、マレーシア、中国、台湾の小学生がテレビ会議を行っています。
 

学び方のポイント:ESD

 今の時代、座学的なものに加え、「みんなで学ぶ」形が重要です。
 体験学習の良いところは、五感を使うことです。いろいろと感じ取れ、記憶に残りやすい効果的な方法です。効果的な学びにするには、専門家と連携することです。埼玉県の「体験の機会の場」として認定を得ている石坂産業や、テナント企業にも参加を呼び掛け、教育CSR活動のプラットフォームを形成している森ビルなど、パネリスト企業の事例はヒントになります。
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(『月刊総務』2015年7月号より転載)