企業はいよいよ国際標準である「社会的責任の手引」(ISO26000)を使いこなして、慈善活動的CSRから本業CSRへ転換し、ポーター教授らによる社会課題と経済価値の同時実現を狙う競争戦略としての「共有価値の創造」(CSV)も織り込んでいく必要があります。
また、最新の国際的な共通言語であるSDGs(持続可能な開発目標)を使いこなさなければなりません。
さらに、企業は、投資家に対してもESGを重視してどのように持続的に価値を創造していくかという「ストーリー」を語り、メディアをはじめ関係者と良い関係(リレーションズ)を築く本来的な意味の「パブリックリレーションズ」が重要です。わかりやすくするため「三方よし」の考えも使い、「隠徳善事」では伝わらないので「発信型三方よし」として理解していきます。
筆者の31年の行政経験と9年の企業経験を活かし、「これならわかる共有価値創造とサステナビリティ経営の理論と実践」という実践的な角度で皆様と考えていくサイトです。地方創生もCSR/CSVの実践として紹介していきます。
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層の関心にも答えていきます。


(※)CSR企業の社会的責任: corporate social responsibility   CSV共有価値の創造:creating shared value
ISO国際標準化機構: International Organization for Standardization   SDGs持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals

笹谷オリジナルコラム:

経営感度を磨く社会の読み方<第19回>
五輪レガシーと持続可能性

2017-11-28 08:30

2016年は、夏のブラジルのリオデジャネイロ大会もあり、オリンピック憲章で使われている「レガシー(遺産)」という単語が重要となりそうです。オリンピック憲章では、競技大会を行うだけではなく、大会後、開催都市・開催国として有益なレガシーを、将来世代に引き継ぐことが期待されています。
 

国際的な感度で「五輪レガシー」を目指す

 1964年の東京大会のレガシーで現在も残るものとして挙げられるのが、新幹線、首都高速道路をはじめとしたインフラや、ごみのない美しい街並みなどです。今回の大会では、課題先進国として他の先進国に先駆けて解決が求められている課題、つまり、高齢化社会(日本ではこれに少子化も加わる)、環境・エネルギー問題、地域課題などへの対応に当たり、政府によれば「日本の強みである技術、文化を生かしながら、世界の先頭に立って解決する姿を世界に示し、大会を世界と日本が新しく生まれ変わる大きな弾みとする」と示されています。
 併せて、成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーとして、(1)大会を通じた日本の再生(「強い経済」の実現)、(2)文化プログラム等を活用した日本文化の魅力の発信、(3)スポーツ基本法が目指すスポーツ立国、(4)健康長寿・ユニバーサルデザインによる共生社会、が挙げられています。図表にポイントを整理しました。経済・環境・社会のいわゆる「トリプル・ボトム・ライン」のすべての項目でレガシーを目指していることが理解できます。
 
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 五輪誘致はグローバルに通用する価値観に訴え、成功したのです。この価値観を理解することが、これからの日本の行方にかかわります。「持続可能性」。つまり、子孫につなぐ社会・環境という価値観です。
 五輪では持続可能性をしっかり担保するため、ロンドン大会から「持続可能なイベント運営のためのマネジメントシステム規格」(ISO20121)が活用されています。これに的確に対応するには、あらためて企業のみならずすべての組織に適用可能な国際標準の「社会的責任の手引」ISO26000を共通言語として読みこなし、国際的な社会的感度を養う必要があります。
 

ソフト・ハード両面でレガシーを創出していく

 五輪というもっとも社会性の高い世界的イベントは、コミュニティ課題、文化・教育、人権、環境などの幅広い課題に関連します。ハード・ソフト両面で外国人来訪者の受け入れ態勢を整える必要があります。
 ハード面でのレガシーでは、東京駅丸の内駅舎保存復原プロジェクトが参考になります。工事を請け負った鹿島建設株式会社は、創建時の外観を忠実に復原するとともに、巨大地震にも耐え得る免震工法で施工しました。失われつつある左官、板金の特殊技能を生かして、明治・大正の創建時の技術と昭和・平成の現代の技術を結集し、将来へ継承する建築となりました。
 同社によれば、その施工の際の理念は、(1)姿をつなぐ、(2)技術をつなぐ、(3)環境へつなぐ、(4)構造をつなぐ、という4つの「つなぐ」です。これらの理念は今後いろいろな施設建設で「五輪レガシー」を創出していく上でのヒントになります。
 ソフト面では、「おもてなし」が大事なレガシーの一つです。
 経済産業省の「おもてなし経営企業選」は、企業人の目線で参考になります(2012年度50社、2013年度28社、2014年度22社)。同省は「おもてなし経営」を、次のように定義しています。
(1)従業員の意欲と能力を最大限に引き出し、(2)地域・社会との関わりを大切にしながら、(3)顧客に対して高付加価値・差別化サービスを提供する経営。
 これにより、自分よし(企業の収益や従業員満足度の向上)、相手よし(消費者の満足)、そして世間よし(環境・社会的価値の実現)という「三方よし」が成立します。「おもてなし」は日本の商文化の三方よしから生まれるのだという考えであり、よくできています。発信性も高く、優良事例の水平展開に役立ち、企業に客観的評価を与えるすばらしいプラットフォーム行政です。サービスの三方よしを考える事例集としても参考になる上、専門家の意見を聞いて行政が設定した定義が、事実上の標準(デファクトスタンダード)になる、という意義もあります。
 

世界が絶賛する「7分間の奇跡」

 NHK連続テレビ小説『私の青空』(2000年放送)は、青森県大間町に国際的な観光地域づくりの機運をもたらしました。
 大間はマグロの一本釣りが有名ですが、この伝統的な漁法が乱獲につながらない漁法として国際的な関心を集めたことをきっかけに、外国人への「おもてなし」を本格化すべきだと「気付き」、外国人旅行客の受け入れに注力しました。今では毎年10月の「大間超マグロ祭り」で行われるマグロ漁ウォッチングや解体ショーが大人気。2012年からは、自転車で大間町の周辺を回るイベントも行われています。その結果、観光庁が集計する市区町村別の外国人宿泊者数の調査で、大間町は2010年から2013年にかけて全国2位の伸び率に。なんと538倍になったそうです(『日本経済新聞』2015年2月26日)。
 この例では、「外国人を巻き込む参加型の企画になっている」「外国人と地域の交流が生まれている」「情報発信が盛んで継続性を持って実施している」という共通項があることに「気付き」ます。
 思えば、映画やドラマのロケによる地域活性化やおもてなしの元祖的存在は映画『男はつらいよ』シリーズの「寅さん」かもしれません。寅さんは全国各地の中山間地域を回っています。また、寅さんの故郷、柴又(東京都葛飾区)では、地元関係者のネットワークにより現在もまちなみづくりと地域活性化が進められていて、その活動が2010年「都市景観大賞・美しいまちなみ特別賞」(後援:国土交通省)をはじめ、2009年度「グッドデザイン賞」などにつながっています。
 
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(『月刊総務』2016年2月号より転載)