企業はいよいよ国際標準である「社会的責任の手引」(ISO26000)を使いこなして、慈善活動的CSRから本業CSRへ転換し、ポーター教授らによる社会課題と経済価値の同時実現を狙う競争戦略としての「共有価値の創造」(CSV)も織り込んでいく必要があります。
また、最新の国際的な共通言語であるSDGs(持続可能な開発目標)を使いこなさなければなりません。
さらに、企業は、投資家に対してもESGを重視してどのように持続的に価値を創造していくかという「ストーリー」を語り、メディアをはじめ関係者と良い関係(リレーションズ)を築く本来的な意味の「パブリックリレーションズ」が重要です。わかりやすくするため「三方よし」の考えも使い、「隠徳善事」では伝わらないので「発信型三方よし」として理解していきます。
筆者の31年の行政経験と9年の企業経験を活かし、「これならわかる共有価値創造とサステナビリティ経営の理論と実践」という実践的な角度で皆様と考えていくサイトです。地方創生もCSR/CSVの実践として紹介していきます。
CSR、IR、広報、ブランディング、経営企画など幅広い業務の責任者・実務家、そして経営層の関心にも答えていきます。


(※)CSR企業の社会的責任: corporate social responsibility   CSV共有価値の創造:creating shared value
ISO国際標準化機構: International Organization for Standardization   SDGs持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals

笹谷オリジナルコラム:

笹谷秀光の「協創力が稼ぐ時代」<第3回>
新年に日仏比較から学ぶ

2018-01-04 10:00

フランス、世界文化遺産モン・サン・ミッシェルに学ぶ

 新年にあたり、初心に帰ろうと思います。私のグローバルとの最初の接点はフランスです。31年間勤務した農林水産省に入ってすぐに、フランスに留学に行きました。非常に印象に残ったのがモン・サン・ミッシェルです。昨年久しぶりに再訪した時に持続可能性について考えさせられました。

sasaya_20180104column_pic01.png

モン・サン・ミッシェル

 

 モン・サン・ミッシェルはパリから西に3時間ほどのノルマンディー地方にある世界文化遺産です。干潟に囲まれた島の中の修道院に巡礼の地として昔から多くの人が訪れ、今は観光客を含め年間300万人が来ます。

 修道院に行くには急峻な坂を上っていかなければならないのですが、島に入ってすぐの入口に「ラ・メール・プラール」というオムレツ屋があります。巡礼者に何を食べてもらったら胃に優しいだろうか考えた結果、オムレツにいきついたそうです。

 この店は、日本でいえば手打ちそばのように、調理作業を見せて美味しそうだと感じさせるスタイルで、値段は非常に高いです。値段が高いというのがポイントです。こういうものを安売りしているようではダメなのです。今では観光客にも人気で、このオムレツビジネスは、モン・サン・ミッシェルの名声とともに広がり、支店ができたり、いろいろな土産店などの事業展開もされています。

sasaya_20180104column_pic03.png

「ラ・メール・プラール」のオムレツ

 

 島内の石造りの建物は改造されてWi-Fi完備の快適なホテルや「民宿」があります。

 そして夜になると、写真のように、すばらしいライトアップです。ここまで使い切るかというぐらい世界遺産を使っています。

sasaya_20180104column_pic02.png

 

 周りの干潟にはいろいろな鳥がいて、海の満ち引きによる生物多様性を感じることができます。昔は車の乗り入れもできた記憶があります。

 かつては対岸との間に地続きの道路があり干満に関係なく島へと渡れました。しかし、急速な陸地化が進行して干潟が荒れてしまった。そこで、かつての姿を取り戻すべく多大な予算の国家事業で、2009年には地続きの道路が取り壊され、2014年に新たな橋が完成したといいます。

 今は車の乗り入れをやめて、環境配慮の電気シャトルバスで島内に入ります。水鳥なども戻り、生物多様性を学ぶツアーもあります。1994年10月にはラムサール条約登録地になっています。

sasaya_20180104column_pic04.png

電気シャトルバス

 

 このように世界遺産をうまく使いながら守っていく。保全と利用、伝統と最新技術、人と自然、観光と暮らしの調和です。このノウハウを学ぶには、1週間ほど滞在していろいろなものを見るべきだと思いました。今回は1泊だけの滞在でしたが、朝昼晩と素晴らしく学ぶことが多かったです。

 

日本の白川郷とフランス

 それでは、日本はどうかといいますと、フランスと縁の深い、日本の代表的な文化遺産があります。合掌造りで知られる白川郷を見てきました。白川村の人口は1,600人強で、観光客は外国人の伸びが大きく年間180万人を超えています。

sasaya_20180104column_pic05.png

白川郷の冬景色

 

 白川村のある岐阜県はフランスのアルザス地方とつながりが深いです。2014年に「日本---アルザス友好150周年」事業の一環として、多くの経済協定が調印されました。

 その一つが、2014年11月締結の白川村とアルザス地方のリクヴィール村の友好関係推進宣言書の調印です。これはアルザスと岐阜県との次のようなつながりの一環なのです。

・岐阜県---オーラン県 経済・観光に関する協力覚書
・高山市---コルマール市 経済・観光協力協定書
・飛騨地酒ツーリズム協議会---アルザスワイン街道 友好提携宣言

 このように、岐阜県、高山市、白川村という重層構造の関係構築です。

 余談ですが、筆者にとってアルザス、特にコルマールは忘れられない思い出があります。40年以上にもわたりミシュラン3つ星に輝き続け、世界中の美食家たちを魅了してきた伝統あるレストラン、「オーベルジュ・ド・リル」(L’Auberge de L’ill)があるところです。アルザスのコルマールのそば、小さな村イルハーゼンに佇む旅籠屋(オーベルジュ)です。

 ミシュランの星の数はそれぞれ、「わざわざ旅行する価値がある(★★★)」「寄り道する価値がある(★★)」「興味深い(★)」を意味します。筆者もフランス留学中の30年以上前にこの3つ星レストランに「わざわざ」行きました。

 

北陸・飛騨・信州3つ星街道の旅

 ミシュランといえば、ここには「北陸・飛騨・信州3つ星街道の旅」(3つ星街道観光協議会が事務局)というものがあります。「緑」のミシュラン、観光のミシュランです。いろいろと調べますと、日本人がイメージする素晴らしいところとは少し違うところに3つ星がついていたりします。

 「緑のミシュラン」は意外と知られていないようです。レストランではなく、訪れるべき観光地(建築物、自然等を含む)の旅行ガイドで、「赤のミシュラン」と同様に、3つ星、2つ星、1つ星を付けています。

 「3つ星街道の旅」は、3つ星を獲得した金沢の兼六園、飛騨高山や信州の国宝松本城などに、世界遺産である白川郷を組み合わせて周遊させるというものです。

  サイトはこちら  http://www.mitsuboshi-kaidou.jp/

 このようにつながりを持ってストーリーを作るので、皆がワクワクして旅に出ます。点ではダメなのです。これらを上手く組み合わせて「協創」しているところに素晴らしさがあります。

 実際に見に行くと、いろいろと勉強になります。まず、「すったて鍋」というものを見つけました。これは豆乳鍋のような地元鍋で、飛騨牛が入っていて結構美味しかったです。地元の鍋を掘り起こす「ニッポン全国鍋大会」で優勝しています。

sasaya_20180104column_pic06.png

すったて鍋

 

保全と利用

 では、これが先ほどのモン・サン・ミッシェルのオムレツに育つにはどうすればよいのか。持続可能な形で次世代に繋いでいくには、しみじみと繋いでいてもダメで、ビジネスとしてスケールしないといけません。

 ことがらにはSustainabilityとScalingの二つの「S」が必要です。

 1,600人の村に毎年180万人が訪れて、地元にいくらお金を落としているか。これが意外に小さいそうです。私はモン・サン・ミッシェルには相当なお金が落ちていると思います。この違いをどのように乗り越えるかが、観光への利用ではポイントとなります。

 もちろん保全と利用のバランスが必須です。また、食べ物だけでなく、お土産なども白川郷で中国産のお土産はいただけません。地元のいいものをどのように掘り起こし、地域活性化につなげていくかです。

 また、観光客の学びや発信のためにもWi-Fi環境などICTの活用による環境整備は重要です。白川村はKDDIと「白川村地域活性化を目的とした連携に関する協定」を結んでネット環境の整備を進めています。KDDIとしての共有価値の創造(CSV)に育ちそうです。

  http://shirakawa-go.org/yakuba_info/8580/

 

白川郷に見る日本の強みとは

白川郷で1枚の写真に強く惹かれました。

sasaya_20180104column_pic07.png

「結」写真:白川村提供

 

 白川郷の合掌造は百数十戸しか残されていないのですが、何年かに1回葺き替え作業が必要です。一人ではとても無理で、昔から皆で葺き替え作業を行ってきました。

 茅を持って来る人、載せる人、差し込む人、調整する人がいて、これを「結(ゆい)」の仕組みと言います。これがずっと白川郷を守ってきました。

 私はこれで日本は大丈夫だと確信しました。この「結」という歴史と伝統は日本人社会のいろいろなところに同じような形で生きています。「結」がある国は今後活性化すると思います。

 大晦日のNHK「行く年くる年」にも最初に出てきた白川郷の明善寺にもお参りしました。「さるぼぼ」が飛騨地方のお守りです。飛騨弁で赤ちゃんのことを「ぼぼ」と言い、「さるぼぼ」は「猿の赤ん坊」といった意味で、家内安全・子宝・安産・家庭円満・良縁・成功・厄除け等のお守りです。「結」の中で生まれたお守りでしょう。

sasaya_20180104column_pic08.png

明善寺にて「さるぼぼ」を手に

 

 結はSDGs(持続可能な開発目標)で言えば目標17番の「パートナーシップ」です。結の仕組みがないところにパートナーシップと言っても、パートナーシップの説明からスタートしなければなりません。

 モン・サン・ミッシェルに「結」があるかどうか分かりませんが、私はフランスと日本は相当似ていると思います。日本人には結があるので、あとはその良さに気づき、どう行動を起こすかです。

 

sasaya_20180104column_matome.png