総務のトピックス

【会計トピックス】:

有償新株予約権の会計処理をめぐる検討の状況

2017-12-18 11:00

 有償新株予約権の会計処理について、2017年5月に企業会計基準委員会(ASBJ)から、実務対応報告公開草案第52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」が公表されましたが、これに対して253件ものコメントが寄せられ、その大部分が本公開草案の会計処理案に反対するものとなっています。

 通常であれば今年の秋ごろには実務対応報告が正式に公表されると見られていましたが、コメントの数が極めて多かったことから、ASBJでは寄せられたコメントについて現在も対応を検討しているところです。

 しかし、ASBJは公開草案の内容について大きな変更は行わない方針です。唯一適用時期については、公開草案で「公表日以降」とされていたところを「平成30年4月1日以降」に変更する方針です。

 本稿では、特に注目されるコメントと、それに対するASBJでの対応について解説します。


1. 権利確定条件付き有償新株予約権の付与について、報酬性はないため、本公開草案の提案に同意しないコメント

 本公開草案では、権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引が、ストック・オプション会計基準第2項(4)に定める報酬としての性格を持つと考えられるため(実務対応報告公開草案第17項から第23項)、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、企業が従業員等から払い込まれる金銭の対価及び従業員等から受ける労働や業務執行等のサービスの対価として付与するものと整理し、ストック・オプション会計基準第2項(2)に定めるストック・オプションに該当するものと提案しています。

 この提案に対し、当該権利確定条件付き有償新株予約権は「投資制度として発行しており、労働や業務執行等のサービスの対価として給付する意図はないため、報酬性はない。」といった理由等で反対するコメントが多く寄せられています。

 これに対して、ASBJでは、報酬の考え方について本公開草案の内容を変更しない方向性です。


2. 未公開企業における取扱いについて、明確化すべきであるとのコメント

 ストック・オプション会計基準第13項では、未公開企業について、ストック・オプションの公正な評価単価に代え、ストック・オプションの単位当たりの本源的価値( = 株価 - 権利行使価格)の見積もりに基づいて会計処理を行うことができるとしています。これは、未公開企業においては、損益計算に反映させるに足りるだけの信頼性をもって公正な評価単価を見積もることが困難な場合が多いと考えられるとの理由によるものです。

 しかし、未公開企業が権利確定条件付き有償新株予約権を発行する場合には、通常時価評価を行っていることが考えられます。この場合、権利確定条件を反映させた公正な評価単価を算定していることから、ストック・オプション会計基準第13項の特例が認められるのかどうか必ずしも明確ではなく、本公開草案が対象とする取引についても、当該特例が認められる旨を明記すべきとのコメントが寄せられています。

 これに対し、ASBJでは、未公開企業において公正な評価単価を見積もることができる場合であっても当該特例を認めるかどうかに関しては、ストック・オプション会計基準の見直しが必要になるとし、本公開草案ではストック・オプション会計基準等を大幅に見直すことは行わない方向性です。したがって、未公開企業が権利確定条件付き有償新株予約権を発行する場合においても、公正な評価単価に代えて本源的価値の見積りに基づいて会計処理を行うことが容認されることになります。


3. IFRSに関するコメント

 本公開草案では、新株予約権の権利確定条件として勤務条件(一定期間の勤務に基づく条件)がない場合でも、報酬として整理しています。

 他方で、IFRS(国際財務報告基準)では、権利確定条件付き有償新株予約権を報酬として認識し費用計上する場合がありますが、それは、権利確定条件として勤務条件がある場合に限定されています。この結果、日本基準とIFRSの間で差異が生じ、混乱が生じると懸念するコメントが寄せられています。

 これに対し、ASBJでは、本公開草案はストック・オプション会計基準等に照らして権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理を整理したものであり、IFRSとの差異について同委員会だけでは対応困難であるとして、本公開草案の取扱いから変更は行わない方向性です。


4. 会社法や税務に関する取扱いを考慮すべきであるとのコメント

 会社法上の「報酬等」とは、報酬、賞与その他職務執行の対価として受ける財産上の利益をいい(会社法第361条)、職務執行の対価であること及び財産上の利益であることが要件となっています。現状では、有償新株予約権を時価発行する場合は職務執行の対価として付与するものではなく、財産上の利益でもないとして、報酬等に該当しないものと解されています。

 また、税務上も、有償新株予約権を時価発行する場合は給与等課税事由が生じないものと整理されています。

 本公開草案で、有償新株予約権を付与する取引について報酬の性格を持つと整理している点は、上記のとおり当該取引について報酬等に該当しないとする会社法上、税務上の取扱いと異なることから、実務が相当混乱すると懸念するコメントもあります。

 これに対し、ASBJでは、法律面や税務面での取扱いには言及せず、会計上の取扱いを定めるという従来からの方向性に変更はありません。


連載協力:税理士法人AKJパートナーズ
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