最終更新日:2010年03月01日
日々の業務で、何気なく押印している印鑑ではあるが、印鑑の法的効力や各印章の法的役割は十分認識しておくべきである。通常、企業で使用する印章の種類としては、代表者印、役職者印、銀行印と社印がある。それぞれの捺印方法には、著名捺印と記名捺印がある。押印の種類には、契印、訂正印、捨印と消印があり、それぞれの目的と効力については十分認識しておく必要がある。さらに、あまり想定されてはいないと思うが、印鑑の紛失や盗難時の対応も確立しておくべきである。一刻も早く、印鑑の効力を失効させなければ、悪用により、多大な被害が生じてしまう危険性がある。
●印章の種類
通常、企業で使用される印章には以下のような種類がある。
(1) 代表者印・・・会社で最も重要な印は、代表者印として法務局に印鑑届をしている印章で、実印といわれるものである。この届出印以外は代表者の認め印となる。
(2) 役職者印・・・「○○取締役之印」、「○○部長之印」などと役職者名の刻まれた印で、それぞれの役職上使用する会社の認め印である。
(3) 銀行印・・・銀行と当座取引をするため、一般的には代表社印とは別の印鑑を銀行に届出た印鑑を銀行印という。
(4) 社印・・・「○○株式会社之印」などと社名が刻まれており、正方形で四角いところから角印とも言われる。社印は会社の外部に対して発行する文書に社名に重ねて押印されることが多い。"
●捺印方法
捺印の仕方には、以下の通り2つの種類がある。
(1) 著名捺印・・・著名捺印とは、自らの手で自分の氏名を書き、併せて押印すること。重要な書類には著名するのが一般的である。書類作成者自身が著名することにより、その書類は本人が作成したものであるという証明となる。
(2) 記名捺印・・・著名にかわる方法として、予め氏名を印刷したり、氏名のゴム印を押しておき、そこに押印すること。株主総会議事録や取締役会議事録などは、商法上、この方法による捺印が認められている。著名捺印したのと同様の効果がある。"
●押印の種類
押印の種類には、以下の通り4つの種類がある。
(1) 契印・・・契約書が2枚以上にわたる場合、その綴じ目に2枚にまたがって押印すること。2枚以上にわたる契約書が一体のものであることを明確にするために押す。袋とじされている時は、裏側の綴じ目に当事者双方が1カ所ずつ押す。
(2) 訂正印・・・契約に誤字脱字がある場合、それを訂正するために押す印。訂正する権限者が訂正したことを明確にするために押す。訂正箇所に2本線を引き、その上に正しい文字を書く。欄外に○字加入、○字削除と書いて押印しても良い。
(3) 捨印・・・後日、契約書の字句を訂正する時のために、予め欄外に押印しておくこと。無断で内容を変更されてしまう危険もあり、よほどでない限り押さない。
(4) 消印・・・収入印紙の再使用を防ぐため、印紙と台紙にまたがり押印すること。契約書に使用した印でなくても良く、契約者全員で押す必要もない。
●印鑑の法的効力
印鑑の法的効力には以下のものがある。
(1) 有力な証拠・・・本人又はその代理人の著名又は捺印のある文書は、これを真正なものと、民事訴訟法上では推定される。この規定により、押印のある文書は、本人の意思に基づいて作成されたものと事実上推定される。
(2) 偽造・・・無印私文書偽造・変造の罪は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられるが、有印私文書偽造・変造の罪は3年以上5年以下の懲役に処せられる。
(3) 法令上押印が必要なもの・・・官公庁に対する各種届出書には、代表社印が必要とされるものが多い。それ以外の文書は、どの印鑑を押印しても本人が押印したものであれば効力は同じ。
●印鑑の法的役割
各印章の法的な役割は以下の通り。
(1) 代表者印・・・契約書に代表者印を押印し、印鑑証明書を添付すれば、会社の代表者が契約を行ったという重要な証拠となる。印鑑証明書が必要な文書には、代表者印を押印する。
(2) 銀行印・・・銀行に届出た後は、届出印の使用によってのみ預金の払い出し、手形・小切手の振り出しができる。銀行は、届出印と認めて支払をしたうえは、仮に無権限者によるものや、偽造印鑑だとしても免責される。
(3) 役職者印・・・役職者は、その担当職務に関しては、会社を代表する権限があるので、役職者がその肩書きを付けて役職者印を押印し、契約を締結した場合、その効力は会社に及ぶ。
●印鑑の紛失
印鑑を紛失又は盗まれた場合の対応は以下の通り。
(1) 代表者印
a:届出法務局に通知して、印鑑証明書の交付を受けられないようにするとともに、改印届を提出し、無くなった印鑑の代表者印としての効力を失わせる。
b:所轄の警察署に、紛失届・盗難届を提出するとともに、紛失届出証明書・盗難届出証明書を入手する。
c:関係先、取引先に改印した旨を連絡し、会社名義の注文書や領収書の偽造を防ぐ。
(2) 銀行印
a:銀行に事故届、改印届を提出し、無くなった印鑑による取引を防ぐ。その他上記b、c。
(3) その他の印鑑
上記b、c。
(執筆:『月刊総務』)
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