既存文書の利用・活用の促進、利便性、安全性を高めることとして次の5つの技術がある。
ファイル基準表を作成する、わかりやすいファイル、フォルダの体系にする、適切なファイル、フォルダ名、文書名を付けるなどの基本事項を実施することが必要である。
それらに加え、以下の技術の利用が有効である。
文書ごとに必要な属性(メタデータ、キーワード)を設定する。その方式には次のものがある。文書管理システムには、属性設定機能を持つものが多く、ファイルサーバーについてもサードパーティから属性設定ツールが提供されている。運用上で重要になるのが登録時の負担を少なくすることである。
文書に登録した属性を使って必要な文書を絞り込むにはきわめて有効な技術である。
企業内のファイルサーバーや文書管理システムに登録されている文書から特定の文字列を検索する技術である。全文検索ではヒットする候補文書が多くなり過ぎる傾向があるため「属性検索」技術と組み合わせるなどの工夫が必要である。また、セキュリティ設定が厳しすぎて、そもそも検索対象となっていないことがあるので、他部署に見せても構わない有用なものは部外秘にしないなどの対応が必要である。
ファイルに紐付いた属性情報を用いて、利用者ごとに見たい視点のフォルダ構造で示し、必要な文書を探しやすくする。
紙文書や物理的媒体の場合は、その保管・保存場所を管理台帳などで管理しておく。ファイルサーバーや文書管理システムなどを利用する電子文書の場合は、文書と保管・保存のシステム、フォルダの関係を管理しておくことが必要である。
文書の利活用にはアクセス時間が短い方が効果的である。紙文書を倉庫など保管庫で保存する場合、紙文書をスキャニングして電子化することで、電子的なシステムで管理でき、わざわざ保管庫まで出向く必要がなくなり、アクセス時間が格段に速くなる。電子化においては、スキャニングした結果の電子ファイルにスキャニング漏れ、ページ折れ、文字つぶれなどがないか、その品質をチェックすることが必須である。JIS Z6016「紙文書及びマイクロフィルム文書の電子化プロセス」では、電子化プロセスの仕様を示している。
従来は処理をした最終結果(成果物)だけを管理するのが一般的であった。しかし、最終結果だけでは判断、利用できないこともある。将来必要になるであろうことも想定して、最終結果に至る経緯文書(プロセス)も残すことが必要となってきている。その代表的な管理の仕方にケース管理がある。ケース管理とは案件を1ケースとしてケースごとに、最初から最後まで一つのケースファイルで保管することである。
契約書の審査を例に説明すると(図表-7)、これまでは、最終結果の契約文書と決裁文書を登録していた。これに対し、経緯文書も登録する。
最初に、「契約書原案」と「契約趣旨説明書」を登録しケースをオープンする。次に、法務部門他の合議部門からの指摘を受けた「指摘事項一覧」を登録する。この後、契約先とのeメールなどによる「交渉記録」、「指摘への対応結果まとめ」などを順次登録する。最後に決裁者が説明責任を果たすための「決裁文書補足書」を作成し、最終結果である「決裁文書」と「契約書」と一緒に保管し、このケースをクローズする。「指摘への対応結果まとめ」は、既存の契約書を利用して契約書原案を作成するのに有効である。
契約は通常、甲乙どちらかが有利になるようになっており、交渉経緯がわからないまま既存の契約書を流用すると自ら進んで相手有利の契約書を提示してしまう可能性があるので注意が必要である。
文書管理システム/ファイルサーバーから取り出した電子文書は、メールの添付やWebシステム等で、公開・配布・申請等で利用される。ここで重要になってくるのが権限付与による統制である。不備による営業機密の漏えい、個人情報の漏えいは企業の存続にも影響を及ぼすことになる。
全権管理、書き込み権、読み取り件、閲覧権など個人やグループに設定することでセキュリティの確保をする。しかしセキュリティが高すぎると活用がされないばかりか属人管理を促すことにもなる。
メールに添付したり、システムからダウンロードした電子文書に対する閲覧・編集・印刷等の操作を制限したり、閲覧期限を設定することでセキュリティを高める。
フォルダやファイルに誰が、いつ、どのようなアクセスをしたのかを管理・監視することで不正の抑止をする。
『月刊総務』2014年6月号 総務のマニュアル「一から始める文書情報管理業務マニュアル」(執筆:溝上 卓也 JIIMA講師))より再編さん