通勤災害でよく発生する事例は、電車通勤の際に駅構内の階段などで転倒し、ケガを負ってしまう事故。このような災害が起きた場合は、次の手順で手続きを行おう。
社員が診療を受けた病院(労災の指定病院)に、通勤災害用の書類「療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)」を提出する。
裏面に、通勤経路や時間を細かく記載する欄があり、たとえば電車通勤の場合、自宅から最寄り駅までの交通手段や時間、最寄り駅から次の乗換駅までの所要時間と乗車線名など、会社に到達するまでのすべてを記載すること。
万が一、労災指定病院以外で診察を受けた場合には書式が「様式第16号の5」(用途により(1)~(5)あり)を使用することになるので、受診した病院が労災指定病院かどうかも必ず確認しよう。
社員が、通勤災害として会社に申請をしてきた際に、それが本当に通勤災害となるのかしっかり把握する必要がある。
特に帰宅途中は寄り道をする人が多いので、その通勤災害が、逸脱・中断に該当していないかなど、慎重な確認が必要だ。
単身赴任者が単身赴任先と家族の住む帰省先との移動の際の事故や、複数就業者がアルバイト先へ向かう際の事故なども原則として通勤災害として扱われる。副業を認める企業も増えてきていると思うが、社員からの副業に関する申請書において、その通勤経路も聞いておくことも一考である。
マイカー通勤をしている社員が通勤時に事故に遭うケースも多い。この場合、必要な書類の種類も増え、手続きも煩雑になる。
また、社員の交通事故の状況に応じて、労災保険で処理するか自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責)で処理するかを判断する必要がある。そのほかにも社員に代わって保険会社と連絡を取ったり、保険会社から求められる書類を作成したりすることもある。
マイカー通勤による交通事故で第三者と接触事故を起こしたときは、基本的には自分の治療費などは、相手(加害者)の自賠責を使って損害賠償をしてもらう。もちろん自賠責か労災保険かどちらを選ぶかは、特に規定などで定められていないため、労災保険を選ぶことも自由だ。
ただし、小さな事故でケガも軽傷であれば、自賠責を使った方が本人にとってメリットが大きいことが多い。
なぜなら、自賠責には労災保険にない慰謝料があったり、療養費の対象範囲が労災保険より広かったり、休業した場合の休業損害が100%てん補(労災保険の場合は休業給付と休業特別支給金を併せて80%が限度)されたりするからである。また、自賠責には仮渡金制度や内払金制度というものがあり、数週間程度で給付金を受領できるメリットもある。
以上のさまざまなメリットを念頭に置き、労災保険または自賠責のどちらを選択したらよいか、社員に説明しよう。
ちなみに、労働基準監督署は、自賠責の方がメリットが大きいので、労災保険より自賠責を先に使うよう勧めてくることがある。
自賠責を選ばない方がよい場合もある。労災保険は、自分(被害者)の過失割合が高くても給付等が調整されることはないが、自賠責の場合は、自分の過失割合が7割以上であると保険金額が20~50%の間で、減額調整されてしまう。もし、社員の過失割合が圧倒的に高い場合は労災保険を申請したほうがよいだろう。
通勤災害において特に自動車事故の場合など第三者が絡むことも多い。第三者が絡む場合には、必要書類を添えて「第三者行為災害届」の提出が必要だ。さらに重要なことがもう一つ。相手方と示談をしないこと。示談が真正に成立し、示談額以外の損害賠償の請求権を放棄した場合には、原則として示談成立以後は労災保険の給付がなされないことになっているからだ。社員から連絡がきた際には、けがの状態など必要事項確認の他、この示談に関する注意点も必ず伝えよう。
(監修者:本山社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 本山 恭子)