総務のトピックス

【会計トピックス】:

企業会計基準委員会が「権利確定条件付き有償新株予約権」の
会計処理につき検討を開始

2016-03-29 14:21

役職員へのインセンティブ目的で付与される権利確定条件が付された有償新株予約権は現在多くの上場企業で導入されていますが、会計基準上はその取り扱いが必ずしも明確になっておらず、現行の会計実務ではストック・オプション会計基準の適用範囲外として会計処理が行われています。この点につき企業会計基準委員会(ASBJ)が検討を開始し、ストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることが適切との方向性で議論が進められておりますので、その検討内容につき解説いたします。

権利確定条件付き有償新株予約権の概要

 役職員へのインセンティブ目的で発行される有償新株予約権には通常、権利確定条件として業績条件が付されています。業績条件には様々なものがありますが、主たるものとしては将来の特定年度において利益目標値を達成できた場合に新株予約権の権利行使が可能になるといったものが挙げられます。

 業績条件が付された有償新株予約権は、業績条件を達成してはじめて権利行使可能になることから、業績条件が付されていない場合と比較して公正価値が低く算定されることが特徴です。

 役職員にとっては低い公正価値相当額の払込みとなるため当初の資金負担を抑えることができ、さらに後述のとおり発行会社にとっても会計上費用計上が不要であるという大きなメリットがあることから、多くの上場企業で導入されています。

権利確定条件付き有償新株予約権に関する現行の会計実務

 権利確定条件付き有償新株予約権について、既存の会計基準では、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下「複合金融商品適用指針」といいます。)、及び当該新株予約権が企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」といいます。)が関連すると考えられるところ、いずれの適用対象となるのかについて、必ずしも明らかになっていません。これは、権利確定条件付き有償新株予約権のような取引が、ストック・オプション会計基準を定めた当時は想定されていなかったことによるものと考えられます。

 現行の会計実務においては、権利確定条件付き有償新株予約権について、複合金融商品適用指針を適用しているケースがほとんどであると考えられます。この場合、発行時の払込金額を新株予約権として貸借対照表に計上し、費用計上は行われません。

権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準の適用範囲に含めるかどうか

 権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理の検討に際し、ASBJの事務局提案では、権利確定条件付き有償新株予約権が公募ではなく役職員に限定して付与される点や権利確定条件が付されている点から、発行会社は追加的な労働等のサービスの提供を役職員に期待しているものと推定され、報酬と類似の性質を有すると考えられるとし、その報酬としての性質を反映するようにストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることが適切であるとの考え方を提示しています。

 実務対応専門委員会でも概ね事務局提案に賛成する意見が述べられています。

ストック・オプション会計基準の適用範囲に含める場合の会計処理

 権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準の適用範囲に含める場合、以下のような会計処理が考えられます(複合金融商品適用指針を適用する場合の会計処理と比較するかたちで示しています)。

【設例】権利確定条件付き有償新株予約権にストック・オプション会計基準を適用した場合の会計処理

(1)権利付与日

新株予約権の払込単価:@10(業績条件考慮後の評価単価)
新株予約権の公正な評価単価:@100(業績条件考慮前の評価単価。ストック・オプション会計基準では、業績条件は評価単価ではなく行使見込数量に反映します。)
1名当たりの新株予約権:40個(新株予約権1個当たりの付与株式数は1株)
付与対象役職員:20名
付与時点の見込:役職員の退職による失効見込はゼロ、業績条件を考慮すると権利確定が見込まれる新株予約権の総数は80個(業績条件達成可能性は10%)

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(2)業績条件の充足が明らかになった会計期間

業績条件を充足することが明らかになり、株式報酬費用を見直し

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 ストック・オプション会計基準では、業績条件を行使見込数量に反映させるため、達成可能性が10%から100%に増加したことで、行使見込数量が80個から800個に増加します。これにより株式報酬費用が一時に多額に計上されることとなります。

(3)権利行使日

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 上記のとおり、ストック・オプション会計基準を適用すると、業績条件の充足が明らかとなった時点で株式報酬費用が一時に計上されるため、権利確定条件付き有償新株予約権を発行している企業にとっては業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(参考)IFRSにおける取り扱い

 なお、国際財務報告基準(IFRS)では、権利確定条件付き有償新株予約権はその取引の実質(行使条件として勤務条件が定められている等)を踏まえ、IFRS2号(株式報酬)の適用範囲に含められ、上記のストック・オプション会計基準の会計処理と概ね同様の処理が行われるものと考えられます。

最後に

 権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理については現在ASBJで検討中ですが、これまでの動向を見る限り、ストック・オプション会計基準の適用範囲とされる可能性が高いと考えられます。
 権利確定条件付き有償新株予約権の発行会社にとっては、ストック・オプション会計基準の適用範囲とされることによる財務的影響は大きいものと考えられますので、ASBJにおける会計処理の明確化に関する検討結果とその適用時期、経過措置の有無等、今後の動向が注目されるところです。

連載協力:税理士法人AKJパートナーズ
    ( http://www.akj-partners.com/