総務の仕事、どこまで引き受けるべき? 線引きできない担当者が陥る「なんでも屋」のわな

月刊総務オンライン編集部
最終更新日:
2026年10月29日

「とりあえず総務に頼めばいいか」 —— 社内でそんな声が定着していませんか? 他部署からの依頼を断れず「なんでも屋」になってしまう総務担当者は少なくありません。社会保険労務士の岡佳伸さんは、「総務は各部署がうまく機能して利益を出すための重要な戦略部署」と語ります。本来の価値を発揮するために、今こそ業務の適切な線引きを進めていきましょう。

「断っていい仕事」の見分け方と総務の専門性

3つの判断基準

岡さんは「いちばん重要なのは、ほかに専門の部署があるかどうかです」と話します。大企業には「職務分類表」という規定があり、各部署の担当業務が明記されています。その規定に従えば、本来の担当部署がある仕事は断る根拠になります。

一方、規定にない仕事は総務に集まりやすく、専門部署がなければ引き受けざるを得ないのが実情です。岡さんは、業務を引き受けるかどうかの判断基準として次の3点を挙げます。

  1. 本来の担当部署が別に存在するか
  2. 総務の専門性に関係するか
  3. 引き受けることで本来業務が圧迫されないか

図表1:業務の分類マトリクス

分類 業務例
引き受けるべき業務 労務管理、施設管理、社用車管理、安全運転管理者対応、地域対応
要検討 社内イベント運営、広報部署がない場合の外部取材対応、経営陣の補助業務
移管すべき PC・アカウント設定(情報システム部)、給与計算(経理)、採用・入社手続き(人事)

「業務範囲が曖昧」な職場が陥る2つの実害

実害(1) 突発的な雑務で消耗し、本来業務が後回しになる

業務範囲が曖昧な職場では、「誰が担当するかわからない仕事」が全て総務に集まります。岡さん自身も総務時代に「蛍光灯の交換」「蜂の巣の駆除」「トイレの詰まり修理」などの依頼を突発的に受けた経験があります。

「これらは予期せぬタイミングで発生するため、手順書(マニュアル)に落とし切れません」(岡さん)。こうした対応に追われると、社内規程の整備や労務リスク対策などの本来業務が後回しになってしまいます。

実害(2) 属人化が進み、退職や異動時に組織が混乱する

総務の業務はマニュアル化しづらいものが多く、特定の担当者しかやり方がわからない「属人化」が進みやすい傾向があります。その状態で担当者が退職や異動でいなくなると引き継ぎが困難になり、残されたメンバーが混乱に陥ってしまいます。

業務の移管をスムーズに進める3つの実務ステップ

ステップ(1) 1週間の業務ログで棚卸しをする

まず手を付けるべきは業務の「見える化」です。過去のメール・発注書・請求書などを確認し、現状の業務を「本来業務・グレーゾーン・他部署業務」に整理します。

一人で棚卸しを行う際は生成AIの活用も有効です。社内で許可されている場合、メールやドキュメントの履歴をAIに読み込ませて時系列で整理させることで、作成のハードルを大きく下げられます。

図表2:業務棚卸しシート(テンプレート)

業務名 発生頻度 所要時間 分類(本来業務/グレーゾーン/他部署業務) 担当部署候補
給与計算 月1回 3時間 他部署業務 経理
PC設定(新入社員) 随時 1時間 他部署業務 情報システム部
蜂の巣駆除 随時 30分 グレーゾーン 外部委託検討
社内規程の整備 年2回 10時間 本来業務

総務

ステップ(2) 「情報の流れ」に沿って伝える

移管の際は「総務の仕事ではない」と突っぱねるのではなく、「情報の流れ」と「相手のメリット」を強調するのがコツです。

入社手続きを例に取ると、採用を担当する人事が入社予定者の情報を最も早く持っています。情報の流れに沿って人事から必要な手配を行う方が全体として効率的です。

NG:「それは総務の仕事ではないので……」
OK:「〇〇部が対応した方が現場に近くてスムーズだと思うのですが」
OK:「専門のシステム部に相談した方が、本人にとってもわかりやすいかと思います」

移管の提案は単なる拒絶ではなく、「業務効率化に向けた提案」として伝えることがポイントです。

ステップ(3) 経営層を動かす「業務移管提案書」の3要素

経営陣への提案は「感情」より「工数とデータ」を示すと動いてもらいやすくなります。提案書には次の3要素を盛り込みましょう。

  1. 現状の業務量(工数・所要時間)
  2. 圧迫されている本来注力すべき業務
  3. 移管やシステム化を行った場合の組織全体のメリット

「工数の実態を示せば、経営者も全体を把握できます。単純に総務の人数を増やすより、各部署で手配できることは先にやってもらう方が組織にとってもプラスになります」(岡さん)

現場の疑問を解消! 総務担当者のQ&A

Q1:断ったら関係が悪化しそうで……どう伝えれば?

A:相手や組織全体のメリットを前面に出しましょう。「職務分類上違います」と断ると角が立ちます。「専門部署で対応した方がスムーズ」「本人にもわかりやすい」と伝えることが大切です。

Q2:社長や役員から直接頼まれた重い仕事が断れません……。

A:「力不足なので」と伝えつつ、細かく確認を取って進めましょう。広報や創立記念イベントなどを頼まれた場合は抱え込まず、「初めてでわからないことが多いので」と経営陣と確認を重ねます。最後に「勝手に進めて」といわれるリスクを防げます。

Q3:「業務を移管したら、総務は何をするの?」といわれたら?

A:「専門部署での対応がリスク管理につながる」点と、「全体の調整役」である旨を伝えましょう。「重要システムを専門外が扱うリスク」を説明し、総務は窓口として全体の流れをスムーズにする役割を担うと説明すると納得を得やすくなります。

Q4:どこから手を付ければよいかわからない場合の第一歩は?

A:過去のメール、発注書、請求書などの履歴が手掛かりになります。前任者や上司に確認できる場合は積極的に質問し、過去の事実から進め方をつかんでいきましょう。

総務は「利益を生む部門を裏で支える戦略部署」

業務の線引きは「断る技術」ではなく、「総務本来の価値を発揮するための設計」です。自身の仕事が「働きやすい職場づくり」や「自身の成長」につながっているかを見極め、まずは過去の履歴整理や業務ログの棚卸しから第一歩を踏み出してみましょう。

【監修者】
社会保険労務士法人岡佳伸事務所 代表/特定社会保険労務士
岡 佳伸さん

大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当したのちに、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会(東京商工会議所練馬支部、中央支部、各都道府県社会保険労務士会)講師および各種Web記事執筆、日本経済新聞、読売新聞、女性セブンなどに取材記事掲載、NHKあさイチ2020年12月21日、2021年3月10日にTVスタジオ出演。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。

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