12年保存で入れ替えコストも手間も削減! 非常時は企業ネットワークで支え合う備蓄水
世界トップクラスのアルミニウム総合メーカー、株式会社UACJ。アルミニウムは環境負荷を軽減する金属として注目されているが、同社が携わる製品事業領域は家庭用アルミ箔製品から航空機材まで実に多彩だ。そんな同社の社内ベンチャー制度から誕生した「水の架け橋」は、防災用品の枠を超え、地域のつながりを生み出す。
アルミニウムの特性を生かした賞味期限12年の備蓄水
「水の架け橋」プロジェクト 代表
黒田 英敬さん
株式会社UACJは、コロナ禍が世界を席巻していた2021年に社内ベンチャー制度を立ち上げた。目的は、アルミニウムを用いた新規事業の探索だ。 黒田英敬さんは、同僚と2人でこの社内公募にエントリーしている。
当時話題だったG20大阪サミットでは、「海洋プラスチック汚染」が大きな話題になっていた。「海洋プラスチックごみ削減」に貢献するアルミニウムの優れた特性を、世の中に広めていきたいという想いが新事業のアイデアにつながったという。
「アルミニウムは日光・紫外線や酸素を透過しない特徴を持っています。その優れた『ガスバリア性』を生かせるのは、長期保存の『備蓄水』だと考えました」
アルミニウムの特性により、中身の水は長期間、安全・新鮮においしく保つことができる。ペットボトルの備蓄水は、保存期間5~6年の製品が多いが、アルミボトル缶の「水の架け橋」の賞味期限は12年。企業の防災担当者にとって、備蓄コストや入れ替え作業の手間が約半分になるのはありがたい話だ。
2024年度のアルミ缶のリサイクル率は99.8%。アルミ缶は、繰り返し何度でもアルミ缶としてリサイクルされる容器である。SDGsを推進する企業姿勢との親和性が高いだろう。飲み口が従来の備蓄水よりも大きく開けやすいことや、家庭用ヒーターで加温可能など、細かい設計もされている。
新規事業案を具体化する過程で黒田さんは自治体や企業の防災担当者から災害業務や被災体験などをヒアリングした。備蓄水のニーズを吸い上げるためだったが、ある防災担当者の一言が「備蓄水」に新たな付加価値を生み出すことに。ゲリラ豪雨の際に避難所の備蓄が尽きてしまって困ったという話に続けて「近隣企業の備蓄状況がわかっていれば、貸してもらえたのに」とつぶやいたのだ。
「なるほどそうか、と思いました。備蓄品を使って、企業・自治体同士が地域で助け合うシステムも必要だと気付きました」
黒田さんは災害時に企業・自治体が助け合う「水の架け橋ネットワークシステム」の構築を考え、ブラッシュアップしていった。UACJは2022年7月、賞味期限12年と共助ネットワークシステムを兼ね備えた「水の架け橋」をリリースすることになる。
備蓄水情報を一元化 いざというときは共助を発動
「水の架け橋ネットワークシステム」は、Web上で完結する企業・自治体向けシステムだ。備蓄水「水の架け橋」を購入した企業・自治体は現在無料で使用できる。アプリのインストールは不要で、PCやスマートフォンからアクセスする。平時はGoogleマップを用いて購入量・保管場所・賞味期限などの備蓄品情報を管理可能。1社が複数拠点に導入していても同じドメイン同士で情報が一元化され、入れ替え時期のアラートも設定できる。自社周囲 のネットワーク加入社の備蓄情報は、マップで表示される(画像1)。他社名までは開示されないが、近隣加入者がどの程度いるのか把握することは災害時への心構えとして有効だ。
では、いざというときはどのような流れで共助を実現するのだろうか。自社の備蓄が足りないなど「共助」を必要とするときは、表示された候補の中から何社かに支援要請を出す。通知を受けた企業では支援が可能であるかを検討し、できると判断したら「支援する」を選択する。ここでマッチングが成立し、初めて互いの会社名や担当者名が明らかになる。これまで知らなかった担当者同士で必要な物資や支援手段、情報交換などが可能になるのだ。
このネットワークシステムが優れているのは、UACJの介在を必然にしなかった点にある。
「われわれから離れた場所で災害が起きたときには必ず状況把握にタイムラグが発生します。当事者同士でつながる方がはるかにスピード感を持って共助が実施されるでしょう」
スピードはもちろん、地域内で完結する自立的な共助の方が、横同士のつながりが強くなることは想像に難くない。「共助の仕組み」として理想的だ。
支援を受けた企業は後日、備蓄水を先方に返礼することが推奨される(任意)。支援者は新たに賞味期限12年の水を受け取ることになるわけだ。もちろんほかの備品の受け渡しなども可能になる。
地域に根差したつながりを 企業のブランドイメージ向上も
「水の架け橋ネットワークシステム」は防災、エコ、自助、共助を満たす、これまでにない仕組みだ。企業同士が助け合う「共助」の仕組みの先進性が評価され、2024年には「第10回ジャパン・レジリエンス・アワード」優秀賞を受賞した。ネットワーク加入者の第1号は静岡銀行であり、その後も名古屋銀行や東海エリアの企業が続々と加入し、地場産業を中心に強固なネットワークが築かれている(画像2)。このことから、地域貢献を強く意識している企業・自治体からの問い合わせが多い傾向にあるそうだ。
「『水の架け橋ネットワークシステム』は、加入者が多いほど共助の機能が高まる仕組みです。備蓄水としての品質は今以上のものはないと自負していますので、これからは着実に加入者を増やしていくことに注力していきたいと思います」
また、アルミボトル缶をオリジナルデザインで制作することも可能(※)。災害支援を通して自社のプレゼンスを向上できる広報活動としても魅力だ。
※ オリジナルデザイン缶最小発注数3000ケース(7万2000本)
自然な形で周囲の企業とつながり、地域における共助を実現する「水の架け橋ネットワークシステム」、参加する意義は大きい。
お問い合わせ先
株式会社UACJ
お問い合わせはこちら※掲載されている情報は記事公開時点のものです。最新の情報と異なる場合があります。
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