大切なのは「自社ならでは」のオフィスづくり 社員の「心」を解析すると幸せな働き方が見えてくる
データに基づいて、場所と人の両視点から新たな体験価値を創造するAcall株式会社と株式会社ヴィス。ファシリティの領域にとどまらず、働く人のエンゲージメント向上を日々追求している。オフィスの在り方が変わる中で、働く場所と人をどのように考えればいいのか。会社を代表する二人に、国内外のオフィスのトレンドやデータを用いた解決方法について語っていただいた(文中敬称略)。
自社にベストな働き方を模索していく時代に
(左から)Acall株式会社 代表取締役/ CEO 長沼 斉寿さん、株式会社ヴィス 代表取締役社長 金谷 智浩さん
──コロナ禍を経て働き方は大きく変化しました。国内外の最新トレンドを教えてください。
長沼 国内では2023年5月にコロナが5類に移行して以来、オフィス回帰に振れながらも、出社とリモートのハイブリッドワークが主流です。海外はグラデーション差が大きく、たとえばアメリカ西海岸のテック系企業ではリモートワークを主に継続維持する傾向が強い一方、シンガポールなど土地が狭く職場と住居が近い国だと出社がメインになっています。ベトナムは自宅の環境や家族的なコミュニケーションを好む傾向からやはり出社が基本で す。こうした差異は、国民性や地理、インフラの影響で生まれます。
────国内のトレンドで何か特徴的なことはありますか?
金谷 量的な生産性はリモートで対応できますが、付加価値が期待される生産性には対面による他者とのコラボレーションが必須である、というのが共通認識です。コロナ前から人気のABW(Activity Based Working)をベースに、リモートがメインでも固定席を確保して心理的安全性を高めたり、交流をはかるためのスポットを意識的に点在させたりと、出社してもらうための仕掛けが増えています。ITの仕組みも含めて環境がレベルアップし、併せて働く側の自律性も上がりました。
長沼 フリーアドレスが主流でありつつ、画一的ではなくなりましたよね。みなさん、自社の特性を踏まえてベストな形を模索しています。変数を考慮しながらABWの適応を目指すというのが本来あるべき進化ですが、オフィスデザインの難易度は上がりました。
オフィスの在り方とともに総務の役割も変わっていく
──自社にベストなオフィスという需要に対し、どのようなソリューションを提供されていますか。
長沼 ポイントになるのはFacility Experience(ファシリティ体験)を、いかにPeople Experience(人が得られる体験)につなげるかであると思います(図表1)。Acallではこれまでフリーアドレスや会議室、受付管理にひも付くソリューションを展開してきましたが、エントランス・執務エリア、会議室などのオフィス内ログやセンサーによるCO2計測など、ワークデータを集積・分析・可視化するファシリティ(ハード)のデジタル化が空間の快適性を上げ、パフォーマンス(ソフト)の向上につながることがわかってきました。これらのデータを基に、トータルオフィスファシリティの文脈でソリューション全体を順次ブラッシュアップしています。また、この「場所」の体験にひも付くソリューションと併せて、ハイブリッド化で課題となるマネジメントや「人」の体験に焦点を当てたソリューションの提供を始めています。
金谷 カメラを介して人の気持ちを数値化することも可能ですよね。
長沼 バイタルデータを解析する実験は行ったことがあります。どの時間帯にどこの場所にいればパフォーマンスが上がるのかなどを検証しました。
金谷 人が幸福感を覚えるのは場所か、使いやすさか、会社の仕組みか、人間関係か。複雑な「心」をデータに基づいてひも解き、確実に幸福度を上げる仕組みをつくれたらと思っているところです。
長沼 社員が同じ時間に同じ空間にいた頃と比べ、マネジメントの難易度も上がっていますが、強制的な1on1や監視ソフトによるマネジメントは誰も幸福にしませんよね。たとえば、自分が働いている場所を都度連絡するよりも、社員にWi-Fiに接続しただけで自動的にチェックイン(※)して社内共有できる方が、体験としては良いわけです。
※Wi-FiのSSID / BSSIDを登録しておくと、PCでWi-Fiに接続するだけで予約していた座席等へ自動チェックイン可能なAcallのサービス
自律的な働き方が進めば、マネジャーの負荷は下がりますし、セルフマネジメントを活性化する伴走型の学習支援は需要が高いと思います。
金谷 オフィス構築は、モノづくりから人的資本へ軸足が移っています。旧態依然の働き方にとらわれた企業の場合は、チェンジマインドセットを促すところからソリューションが始まります。われわれのコンサルティングに求められているのはワークデザイン、働き方そのもののデザインです。サーベイなどで課題を抽出し、チェンジマインドセットのためのワークショップを重ね、空間をデザインする。そして、さらに行動変容を可視化する必要があります。当社はその可視化のためのプラットフォームを開発していますが、データドリブンのソリューションを提供するAcallさんとのコラボレーションで、より信ぴょう性が高まると考えています。
──これからの展望をどう見ていらっしゃいますか。
長沼 イギリスで最近発表されたレポートで、オフィスのニーズとビルの設備が乖離していることが指摘されています。つまり、テナントとビルオーナーの意識に差があるということです。会議室に入る前にはその人に合わせた温度設定にできるとか、稼働していないスペースは自動的に照明を落とせるとか、今後はテナントの需要に寄り添うビルが選択されていきます。そういう意味で、テナントとオーナーの統合が進んでいくでしょう。 当社は、その人らしく働き、仕事を通じて自己実現する在り方を大切にしながら、これから増えていくスマートオフィスの支援もしていきたいと考えています(図表2)。
金谷 オフィスの在り方が変わる中で、総務の役割は従来のファシリティ管理から、人の快適性や心理的安全性をもたらす空間づくりへ移っていきます。ファシリティに始まり、IoT化、行動変容につながる社内風土の醸成までがカバー領域になるのです。定性的な部分が重視され、人事と総務の境目が曖昧になる傾向が強まるでしょう。われわれが連携することで、新たな総務領域である働く人の幸福度向上や自己実現、ウェルビーイングなどを支援していければと思っています。
お問い合わせ先
※掲載されている情報は記事公開時点のものです。最新の情報と異なる場合があります。
アクセスランキング
ダウンロード資料、アイテム
特別企画、サービス
-
総務が押さえておくべき 2023(令和5)年に施行の法令改正情報
2023年は2022年に引き続き施行される育児・介護休業法のほか、労働基準法や労働安全衛生法、国民年金法の改正法令などが施行されます。本稿では今年に施行等される法令の中で、総務業務関連のものをピックアップしました。 -
【編集部厳選】総務1年生にオススメしたいコンテンツ20本
『月刊総務』編集部が、総務1年生やこの春久々に総務業務を担当する方にオススメのコンテンツを厳選。この機会に、総務実務の基本はもちろん、ビジネススキルや総務の考え方について学んでみませんか? -
総務のマニュアル
総務・バックオフィスの実務を実践的にサポートする「総務のマニュアル」シリーズ。ビジネストレンドを押さえた内容で、いま総務が知っておきたいポイントを具体的に解説していきます。 -
多様な働き方に対応する 社内コミュニケーション術
リモートワーク、ABWなど働き方の多様化がさらに広がっています。対面のコミュニケーションが減っている中においても、コミュニケーションを活性化するために、どうしていくべきでしょうか。 -
テレワークを実現するペーパーレス化と文書管理のポイント
ハイブリッドワークの需要が高まったものの、総務・経理などの管理部門では、請求書や契約書など書類のデジタル化に対応できず、出社を余儀なくされた方も多いのではないでしょうか。 -
総務辞典
総務辞典とは、どなたでもご利用いただける、総務業務に関する一般知識、関連法令や実務ノウハウなど総務に関する用語辞典です。 -
無料オンラインセミナーのご案内
月刊総務が開く、無料オンラインセミナーの予定はこちらからご確認ください。さまざまな企業と共催し、より専門的な知識を幅広いテーマで発信。総務の皆様の情報収集にお役立てください。 -
『月刊総務』調査
『月刊総務』では、不定期にアンケート調査を実施し、その結果を公開しています。全国の総務パーソンがどのように業務に対応しているのか、何を感じているのか、総務の現状を確認してみましょう。 -
YouTube 月刊総務チャンネル
『月刊総務』公式YouTubeチャンネルです! 「働き方」「戦略総務」などのテーマについて、数分で気軽にキャッチできる情報を発信していきます。ぜひ、チャンネル登録をお願いします! -
業務効率化&コスト削減 購買プラットフォーム
オフィス用品に関する困りごとを解決し、業務効率化とコスト削減を実現いたします。Kobuyは、一貫堂が提携するパートナーサプライヤに加え、お客様ご希望のサプライヤ商品・サービスを一元管理できるオフィス用品一括購買システムです。