月刊総務プラス

『月刊総務』本誌記事:

働き方改革はここから始める 電子化・ペーパーレス入門(2)

2020-07-28 20:00

リモートワークや在宅勤務を行う上で、紙やはんこ必須の作業がネックとなった人も多いのではないでしょうか。
実は、世界で印鑑登録制度のある国は、もはや日本、台湾、韓国のみなのです。
日本は電子化・ペーパーレスの環境が整ってきているはずなのに、なぜ進まないのか。
本稿では、その理由も踏まえ、正しい電子化・ペーパーレスの方法を解説していきます。

オフィスにおけるデジタル化領域

デジタル化のメリットを考える

 紙とはんこを使用する場面は企業内外の至る所に存在します。たとえば、社内においては稟議(りんぎ)・申請の場面、各種会議体の議事録、新規取引や新規顧客登録の申請、経費精算など。社外とのやりとりでは、申込書、注文書から見積書や請求書の発行、各種契約の締結などが挙げられ、紙とはんこを使用する場面は枚挙にいとまがありません。
 こうした中で、わざわざデジタル化するにはどのようなメリットがあるのか、具体的に考えていきましょう。

コスト削減

 当然ながら、紙書類の処理にはコストがかかります。直接的なコストとしては、紙代、印刷代、通信費、印紙代、保管費などが挙げられます。印紙税収入は年間1兆1000億円(財務省ホームページ:2019年3月末の年間総額)もありますが、電子契約ならば印紙税はかかりません。 
 間接的なコストは、紙処理に費やす人件費です。当然そこには紙書類を検索するコストなども含まれます。実はこれが曲者です。たとえば勘定科目で「紙処理に費やした人件費」などと取りまとめられないもので、かなりの人件費が紙処理にかけられているのではないでしょうか?
 経団連の試算によると民間企業は紙の税務書類の保存に年間3000億円、日本CFO協会の試算では領収書など国税関係書類ののり付け、ファイリング等の人件費で年間6000億円ものコストがかかることが示されています。デジタル化は、これらのコストを大きく削減するものになるのです。

業務のスピード化、距離的問題も解決

 コストだけではなく、業務のスピード化もデジタル化の大きなメリットです。契約締結の場面を想像してみましょう。紙とはんこによる契約締結にはどれほど時間を費やしていますか? 
 たとえば、契約書を印刷、製本し、重要な契約であれば押印申請を経て代表印を押します。場合によっては3か月以内の印鑑登録証明書を法務局から取得し、契約書に添付して相手に郵送。相手も同じようなプロセスを経て、捺印済み正本を戻します。これは最低でも数日の時間を費やす作業です。
 また、紙とはんこにより契約を締結する場合、在宅勤務では物理的に難しいものとなります。時節柄、企業で広く在宅勤務を推奨する流れにありますが、この点が問題になり、在宅勤務を断念した人もいるかもしれません。
 これが電子契約になれば、オフィスに向かわずとも、わずか数クリックで締結が完了します。

内部統制の強化

 デジタル化の利点である業務フローの「見える化」により、「誰が」「いつ」「何を」したかの操作履歴がひと目で確認できます。加えて、電子保存の法的要件にも挙げられることが多いPKI(公開鍵)基盤活用の電子署名、および認定事業者のタイムスタンプを併用することにより、「改ざん・なりすまし」を排除し、文書の真正性を担保します。
 権限者が承認する際、適切なタイミング、かつセキュアなリモート環境で電子署名(リモート署名※)とタイムスタンプが付与されれば、企業の内部統制は人的牽制によらずとも大幅に向上するでしょう。
 古典的、すなわち人的牽制による内部統制の弱点は、「結合・共謀」や「経営層へは無力」という点にありますが、デジタル化されると電子署名・タイムスタンプが組み込まれた電子ワークフローで、定型化されたフォームを用い、権限規程・業務分掌規程などに基づきあらかじめ設定された承認経路により「例外なく」決裁され、共謀や結託の排除が可能です。
 経営者も例外なきユーザーとすることで、内部統制の影響下に置かれ、これは内部監査や会計監査の効率化にもつながります。
 監査担当者も閲覧権限を付与されたモニタリング・ユーザーとなれば、いつでも業務プロセスを検証でき、監査証跡の完全性(原本性)や権限者がきちんと承認した結果か否かも、デジタル環境なら瞬時にわかります。相互に関連する監査証跡間のトレーサビリティーもデジタルのツールを用いれば効率的にチェックすることが可能です。

※クラウド上のサーバー等に署名鍵を保管し、ユーザーがサーバーにリモート(主にインターネット)でログインし、自らの署名鍵を用いてサーバー上で電子署名を行うこと。利用する端末や場所の制限を受けないのが特徴。

持続的成長の実現に向けて

 また、全世界的な持続的成長を可能とするため、SDGsやESG指標に重きを置く企業が増えています。企業文書のデジタル化はまさにこのような流れに沿う行動だと確信しています。
 非財務情報を重視するESG指標は、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3つで構成されるもの。デジタル化を推進し、紙をなくすことで、地球「環境」に優しく、真の働き方改革を実現し「社会」を豊かにし、デジタル化の利点である見える化により「ガバナンス」を強化するといえるでしょう。

どこまでデジタル化ができるのか

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 それでは、紙とはんこを多用するビジネスの現場で、現状、どの程度デジタル化が可能なのかを示していきます。図表1は一般的な取り引きの流れです。
 取り引きを開始する場合、まず社内のコンセンサスを、稟議決裁の過程で形成していきます。その後、相手先を選定するために複数社から見積書を取得し、取引先を決定します。
 そして選定した取引先と契約を締結。サービス・商品の受発注、納品、検収と取引フェーズが進み、最終的には請求書に基づいて支払いを行い、適宜、会計処理がなされていきます。
 稟議書には関連者の三文判やシヤチハタが並び、契約書には実印。発注書、納品書、検収書、請求書にも担当者印や会社印(角印)などが押されるなど、多種多様な紙に、複数のはんこを使用することが一般的です。
 場合によっては製本・袋とじして捺印。それを郵送し、受領した書類を保管するなど、多くの人の手間と時間を要しているのではないでしょうか。
 結論からいいますと、現状法制度の下では、先に挙げたものを含め、ほぼすべての文書をデジタル化することが可能です。
 経理以外でも、会社法で10年や永年の保存を義務付けられている株主総会議事録、取締役会議事録、計算書類、重要な契約書などもデジタル化ができるのです(図表2)。

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ただデジタル化すればいいというわけではない

 ほぼすべての文書がデジタル化できるといっても、何でもただPDF化すればいいというものではありません。規制緩和を受けて、保存が義務付けられている文書の9割近くが紙に代えてPDF等のデジタル形式にて保存することが可能にはなりましたが、個々の法規制のデジタル化の措置および保存の要件は一様ではなく、各法律法令から要求される要件を整理して実装しなければ、ビジネス文書の完全なデジタル化は実現できないのです。

電子帳簿保存法

 電子帳簿保存法の緩和が相次ぎ、一定の要件を満たせば会計帳簿や証ひょう等の帳簿書類に関して、デジタルデータを原本として扱うことが認められ、紙の保存を大幅に削減できるようになりました。電子帳簿保存法の基本要件は以下の通りです。
(1)真実性(完全性)
 税務上の重要な記録にはエビデンスとしての証明力が求められます。特にスキャナーによるデジタル化は、原本受領からスキャニングまでの事務処理フロー(適格事務処理要件〔=内部統制要件〕の具備、認定事業者のタイムスタンプを適切なタイミングで決裁権限者が付与する等)、スキャン品質や電子化文書に改ざんや消去がないかを確認できる(認定事業者のタイムスタンプ、一括検証機能、履歴管理等)など、証明力を確保することが必要です。
(2)見読性
 パソコンやディスプレイを用いて明瞭な状態で見ることができる「見読性の確保」が求められます。
(3)関係書類の備え付け
 デジタル化の事務処理マニュアル、規程類、システム概要書等の備え付けが求められます。
(4)相互関連性
 会計帳簿と国税関係書類間のトレーサビリティーが求められます。
(5)検索性
 電子化文書を有効活用するため、必要なデータをすぐに引き出せる「検索性の確保」が求められます。
        
 デジタル化の対象となる国税関係帳簿書類と電子帳簿保存法の関係は図表3の通りです。

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会社法

 会社法で保存を義務付けられている書類(株主総会議事録、取締役会議事録など会議体の議事録、定款、計算書類および附属明細書、前述の会計帳簿など)のデジタル化が可能です。2005年のe‐文書法の施行に合わせて「電磁的手法による作成・保管」ならびに「書面で作成した書類を電子化し、保存・保管」することができるようになりました。
 特に取締役会議事録のデジタル化は、その作成頻度や持ち回りで捺印を求める手間から、導入に取り組む企業が増えています。その要件として、「法務省令で定める署名または記名押印に代わる措置を取らなければならない」(会社法第369条第4項)とあり、代わる措置(会社法施行規則第225条第1項第6号)とは、次の二つになります(電子署名法第2条第1項および会社法施行規則第225条第2項)。
(1)当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
(2)当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

電子署名法

 電子契約は印紙税法第2条でいうところの「文書」にはあたらないため、印紙税の課税対象にはなりません。
 高額の印紙が必要となる金銭消費貸借契約や不動産売買契約を扱う企業が導入を進めています。また、契約書の印刷、製本、袋とじ、捺印、流通、保管、検索などの紙による契約締結の非効率性を改善するため、電子契約の導入をはかる動きも加速しています。
 本来、契約は「契約自由の原則」により口頭・書面など締結方法を問わず成立しますが、企業が留意すべきは契約行為の法的真正性の担保であり、電子契約においてその法的要件は「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く)は、当該電磁的記録に記録された情報について、本人による電子署名(これを行うために必要な符号および物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る)が行われているときは、真正に成立したものと推定する」(電子署名法第3条)と定められています。
 つまり、契約当事者本人だけが署名できる環境下で電子署名を付した電子契約であれば、「紙と同等の証拠力」があると推定されます。その具備要件が会社法で挙げた(1)(2)の2つであり、電子署名法第2条第1項にあります。

e‐文書法

 e‐文書法は、2005年4月施行の「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の総称です。これは金融、不動産、建築、医療、食品等の紙書類の保存を義務付けている251の法を改定することなく、デジタル化を可能にした法律となります。
 e‐文書法適用の要件は、各府省により定められるため一定ではありませんが、主に「見読性」「完全性」「検索性」の3つの基本要件があります。

会計監査

 日本公認会計士協会からは、デジタル化に関して複数の報告がされています。本稿では以下3つの報告を時系列順でご紹介します。
●「紙の原本がもっとも証拠力があり、複本やデジタルデータは紙の証拠力より劣る」(監査基準委員会報告書500「監査証拠 」〔2011年12月22日〕)
●「電子帳簿保存法・スキャナ保存制度の2年連続の規制緩和を受け、被監査会社は国税関係書類に関して税務要件を充足すれば廃棄可能だが、会計監査人と協議・検討の上で対処すべき」(「平成27年度税制改正における国税関係書類に係るスキャナ保存制度見直しに伴う監査人の留意事項」〔2015年9月30日〕)
●「被監査会社のデジタル化にあたっては、会計監査人は導入企業の内部統制やデジタル化の手法等を考慮して検討すべき。また、PKI基盤活用の電子署名や認定事業者のタイムスタンプの意義や仕組みに関しても詳細に説明」(IT委員会研究報告第50号「スキャナ保存制度への対応と監査上の留意点」〔2016年12月26日〕)

デジタル化の技術要件ー電子署名とタイムスタンプー

 このように、デジタル化の法的要件は一様ではありませんが、個々の法規制の立法趣旨に鑑み、さらには電子商取引に対する行政の動き(総務省は、企業の電子書類データの改ざんや悪用を防ぎ、企業が世界で円滑に事業を進められるよう、欧米など信頼できる国・地域との間で、安全な電子情報をやりとりできる「データ流通圏」の構築を提案)を考慮すると、(1)「PKI基盤活用の電子署名」、(2)「認定事業者のタイムスタンプ(10年有効)、(3)「(1) および(2)を適切なタイミングで適切な権限者が該当するデジタルデータへ付与していくこと」で、網羅的にデジタル化の法的要件を満たせると考えられます(図表4)。

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 電子署名は、個人および法人が文書に署名を行ったことを電子的に証明する技術であり、「誰が」署名の当事者であるかを証明します。一方、タイムスタンプは、文書が「いつ」存在したかを証明するものです。電子署名は印鑑に、タイムスタンプは確定日付にたとえられます。
 デジタルデータに固有のハッシュ値(個々のデータの指紋のようなもの)を持たせ暗号化することで改ざんリスクを排除できますし(改変すればハッシュ値が変わる)、PKI基盤活用の電子署名は秘密鍵、公開鍵を併用することにより、データの作成者や送付者の特定、「なりすまし」を排除し、本人性を担保します。
 これに認定タイムスタンプを併用することで、タイムスタンプを付与したデータがその時点より以前に存在していたこと、およびタイムスタンプ検証時点まで改ざんされていないことを証明することが可能です。
 電子契約などを10年以上にわたって保存する際には、「長期検証」(LTV= Long-Term Validation)に対応する電子署名・タイムスタンプであれば、タイムスタンプ有効期間が過ぎる前に新たなタイムスタンプを付すことで検証可能期間がさらに延長されていくため、10年以上保存する必要のある契約であっても安心して電子契約で締結することが可能となります。


ペーパーロジック株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 横山公一さん
公認会計士・税理士。1991年監査法人トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務、関与先のABS発行の会計税務等を担当。1999年創業メンバーとして金融特化型の会計事務所を設立、代表パートナーとして同社を取扱ファンド数1,500、管理金額4兆円へと成長させ、金融特化型会計事務所としては国内最大手にまで成長させる。ファンド管理のスペシャリスト。
https://paperlogic.co.jp/


『月刊総務』2020年5月号P53-57より転載