月刊総務プラス

『月刊総務』本誌記事:

働き方改革はここから始める 電子化・ペーパーレス入門(3)

2020-07-28 20:00

リモートワークや在宅勤務を行う上で、紙やはんこ必須の作業がネックとなった人も多いのではないでしょうか。
実は、世界で印鑑登録制度のある国は、もはや日本、台湾、韓国のみなのです。
日本は電子化・ペーパーレスの環境が整ってきているはずなのに、なぜ進まないのか。
本稿では、その理由も踏まえ、正しい電子化・ペーパーレスの方法を解説していきます。

デジタル化導入に向けて

導入が上手に進められる企業とは?

 先の章にて、デジタル化が進められない企業を挙げましたが、逆に上手にデジタル化に移行している企業はどのような特徴があるのでしょうか? その特徴を以下に述べていきます。
(1)経営トップのお墨付きがある
 経営者のデジタル化への明確な意志が必要です。「デジタル化は世の中の流れだから何となく」では、早期の実現は難しいでしょう。
(2)デジタル化の目的が明確で全社で共有されている
 どの領域で手間やコストを削減したいのか、どのデータをデジタル化して有効活用していくのかなどを全社で共有する必要があります。
(3)すべての部署を統括するプロジェクトリーダーがいる
 デジタル化は経理、総務、法務など複数部署にまたがります。横断プロジェクトで周囲を巻き込めるリーダーの存在が必要不可欠です。
(4)具体的な導入プランがある
 すべての領域でデジタル化を一気に進めることは不可能ですから、優先順位をつけることが必要です。最初にデジタル化をする領域の選定に、みなさん苦労されているようですが、「いちばん手間やコストがかかっているので〇〇部署から」であったり、逆に、「手間やコスト削減の効果はそれほど期待できないが、デジタル化の展開をスムーズに進めるため比較的若い社員で構成されているので〇〇支社から」など、その選定理由はまちまちです。
 先日導入検討をスタートさせた企業はさらにおもしろい進め方でした。経営層が高齢でありITリテラシーもそれほど高い企業ではありませんが、まずは自分たちから取り組む姿勢を全社に示したい、との考えで取締役会議事録のデジタル化から着手する決定をしました。ほかの業務との関連性がそれほど高くない議事録のデジタル化は最初に取り組む領域としては良いかもしれません。経営層もデジタル化を体験してみて「それほど難しいことでもないな」という自信にもつながります。
(5)社内・社外のリソースの使い分けをしている
 デジタル化はさまざまな法律が関係してきますし、技術的にも電子署名やタイムスタンプなど特殊な分野でもありますので、「餅は餅屋」と割り切り、外部の専門家に任せることも成功している企業の条件となります。

デジタル化のシステム選定のポイント

 現在、デジタル化に関するサービスが各社からリリースされています。稟議・申請をデジタルで行う電子ワークフロー、経費精算をデジタルで行うもの、請求書をデジタルで発行し管理するもの、電子契約サービスなど、さまざまなサービスがあります。
 企業が自ら法規制を理解しシステム化するには多大な労力を要するため、今後一層外部サービスの利用が増えていくでしょう。誤解を恐れずにいえば、無意識のうちにさまざまな法的要件が充足され、業務や成果物であるビジネス文書を円滑にデジタル化できるソリ
ューションを活用すべきです。
 したがって、選定するサービスが、多面的に要求される法的要件を充足するサービスであるか十分な検討が必要です。また、企業内外において授受されるビジネスデータを一元管理するためには、プロセスの一点のみをデジタル化するのではなく、プロセス全体を線や面で網羅するサービスが望ましいと思われます。
 たとえば、社内で契約締結の押印申請をするプロセスと社外との契約締結は、シームレスに行う方がデジタル処理のメリットが生かせます。業務効率性や内部統制の観点からも望ましいといえるでしょう。

導入にあたっての留意点

 目の前から紙をなくすだけでなく、バックヤードからも紙をなくす真のデジタル化を達成するためには、先にも述べた通り、法的な要件を実装する必要があります。
 その中でも特に留意すべきポイントを最後にまとめます。
(1)電子帳簿保存法第10条の遵守
 電子帳簿保存法第10条「電子取引に係る電磁的記録の保存義務」は、ほか3つの事項が任意規定であるのに対して「義務規定」となっていることに留意が必要です(図表3参照)。
 これから、ますます電子商取引が活発になり、紙が介在しないデジタル取引が増えていくことが予想されますが、まさにそれらの取り引きが本条の対象になります。ですが、そのことを意識している企業はあまり多くないと感じています。
 PDF化された見積書、請求書等をメールで授受する場合や、EDI取引(コラム参照)、さらには電子契約について適用され、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を「改ざん等できないように規程等で運用する」。または「認定事業者のタイムスタンプを付して」保存しなければなりません。人手を介さない省力化の体制を構築しようとするのであれば、明らかに後者のタイムスタンプ処理になります。
(2)電子契約の充足すべき要件
 紙での契約であれば「紙とはんこ」で完結していますので、その保存形態を意識することはないと思います。しかしながら、電子契約になった場合、データには種々の法規制から保存要件の充足が求められることに留意が必要です。
●電子署名法を遵守する場合、PKI基盤活用の電子署名の利用が不可欠です。
●電子契約は電子帳簿保存法第10条の取引に該当します。契約管理の効率性を重視するならば、デジタル保存要件である認定事業者のタイムスタンプ、一括検証機能等の充足が義務となります。
●法定監査を受ける会社であれば日本会計士協会IT委員会研究報告第50号の検討が必要になります。

まとめ

 デジタル化は、すべての企業にとって今後一層避けて通れない分野となります。一歩、いや、半歩進んでデジタル化に着手し、来たるべきときに備えることが重要です。そのためには、本稿で解説した「真のデジタル化」を実行し、「紙とはんこ」からの脱却が必要なのです。
 さまざまな法規制の緩和状況、メガバンクの電子契約基盤の整備状況や聞こえてくる情報を鑑みますと、想像以上にデジタル化の波は早くやってくるでしょう。


COLUMN EDI取引とは?
 EDIとは、「Electronic Data Interchange」の略称で、「電子的データ交換」という意味です。企業間でお互いの取引情報を専用回線(オンラインを含む)で接続することにより、受注・発注、出荷・納品、請求・支払等のさまざまなやり取りを、紙伝票や電話・FAXを使用することなく、自動化できます。業務効率化に一役買いますが、取引先と同じシステムを導入しなければいかないので、その点に注意しましょう。



ペーパーロジック株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 横山公一さん
公認会計士・税理士。1991年監査法人トーマツに入所し、監査業務、株式公開支援業務、関与先のABS発行の会計税務等を担当。1999年創業メンバーとして金融特化型の会計事務所を設立、代表パートナーとして同社を取扱ファンド数1,500、管理金額4兆円へと成長させ、金融特化型会計事務所としては国内最大手にまで成長させる。ファンド管理のスペシャリスト。
https://paperlogic.co.jp/


『月刊総務』2020年5月号P58-59より転載