総務のトピックス

【税務トピックス】:

D&O保険(会社役員賠償責任保険)料の新たな取り扱い

2016-06-30 09:57

=== 社外取締役のいない未上場会社は特約部分も従来どおり給与課税 ===

 平成28年2月に国税庁より、「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取扱いについて(情報)」として新たな取扱いが公表されました。
 新たな取扱いとしては「株主代表訴訟担保特約」部分についても条件を満たすことにより、会社役員等に対して給与課税を行う必要が無いことを明確にしました。
 会社役員賠償責任保険は、D&O(Directors and officers)保険とも呼ばれています。このD&O保険の従来の取扱いは、以下が基本とされてきました。
1. 基本契約の保険料(「1.会社役員の責任とD&O保険の概要」参照)は給与課税の必要なし。
2. 株主代表訴訟担保特約の保険料は給与課税。

 今回「2.」について、コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会が取りまとめた報告書「コーポレート・ガバナンスの実践 - 企業価値向上に向けたインセンティブと改革 -」においては、会社が利益相反の問題を解消するための次の手続を行えば、会社が株主代表訴訟敗訴時担保部分に係る保険料を会社法上適法に負担することができるとの解釈が示されました。
1. 取締役会の承認
2. 社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意又は社外取締役全員の同意の取得

 これに対応して経済産業省が国税庁に照会し、国税庁は上記の手続きを行うことにより会社法上適法に負担した場合には、役員個人に対する給与課税を行う必要はないと公表しています。


1.会社役員の責任とD&O保険の概要

 D&O保険は、経営に関わる多くのリスクに備え、幅広い補償に対応している保険です。保険期間中に被保険者に対して損害賠償請求がなされたことにより、被保険者が被る損害を填補する保険をいい、いくつかの保険会社から商品が販売されています。
 すなわち、保険商品ですので各保険会社が取り扱う具体的な内容は各保険会社との契約により異なります。実際、様々な特約等により填補が拡大されているようですので、税務上の判断は今後においても慎重に行う必要がある点は変わりません。
 今回の新たな取扱いをより理解していただくため、会社役員の責任を下記の通り整理します。

    <会社役員の責任>
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 これらを国税庁から公表されたものに当てはめると、「基本契約の保険料」は、会社役員が第三者(取引先・株主等)に損害を与えた場合に損害賠償を求める訴えを提起するものに対する保険料と考えられます。また、「株主代表訴訟担保特約」は株主が会社に代わって会社役員に対して損害賠償を求める訴えを提起するものに対する保険料と考えられます。
 言い換えると、従来は基本契約の保険料は「経済的利益の供与」は無いものとして取り扱われ、株主代表訴訟担保特約の保険料は「経済的利益の供与」があるのではないかと解釈上の争いがあったことから、その取扱いは実務上の安全策をとったとされています。
 なお、各保険会社のD&O保険は、株主が提訴した株主代表訴訟であれば、保険による填補の対象となることが多いと考えられますが、会社が独自に役員に対して損害賠償を求める訴えを提起した場合の損害賠償は免責となっている場合があります。つまり、いわゆる社内の不祥事があった場合に、社内の第三者委員会等で役員に対して損害賠償請求を請求した場合等は保険契約の対象とならないことがあります。平成27年7月24日にコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会が取りまとめた報告書においても、標準的なD&O保険は、犯罪行為や法令違反を認識しながら行った行為等の悪質な行為は免責とし、職務執行から不可避的に生じるリスクに対しての保険とされています。


2.取扱いの変更により想定される上場会社・未上場会社への影響

 今回の取扱いが認められた条件を鑑みれば、「社外取締役」がいることがD&O保険の「株主代表訴訟担保特約」部分の保険料を会社が負担した場合に会社役員の給与課税とならないための必須条件ともいえます。
 ただ、社外取締役の選任がそもそも必須とされているのは、公開会社かつ大会社である監査役会設置会社等ですので、これに該当しない限りは社外取締役が存在する会社はごく少数と考えられます。
 すなわち、上場会社からしてみれば、社外取締役の必要性が高まる中、今回の変更は社外取締役の就任を承諾してもらうための有効な材料になると考えられます。一方、会社法上の問題が解消されたとはいえ、未上場会社は社外取締役を選任しない限りにおいては給与課税が免除されることは無いと考えられます。しかし、条件として「社外取締役全員の同意」があれば良いとされているので1名選任し同意を得ることにより条件をクリアすることが可能と考えられることから、そもそも社外取締役の意義が未上場会社においても見直されることにつながる可能性もあります。


連載協力:税理士法人AKJパートナーズ
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