コラム

リスクマネジメント / メンタルヘルス / 中小企業のメンタルヘルス

中小企業のメンタルヘルス〜0次・1次予防の実践へ
【第4回】現状のメンタルヘルス対策の限界と0次予防の取り組みについて

2015年03月20日

こんにちは、健康経営コンサルタントの宮川浩一です。

今回は、現状のメンタルヘルス対策の限界と今後取り組むべき方策として0次予防の取り組みの重要性についてお話します。

中小企業が限られた予算や人材の中で最も取り組むべきは、職場を起因としたメンタルヘルス不調者を出さない職場風土づくり、つまり0次予防と言われる取り組みです。

1次予防・2次予防・3次予防の必要性は変わりませんが、経営の観点から見るとどちらかといえばリスク回避というネガティブな側面が強い取り組みです。

また、2013年に実施された三柴近畿大教授の研究チームの調査でも企業のメンタルヘルス実務担当者へのアンケートから以下の状況が確認されています。


● 社内で実際にメンタルヘルス対策を講じているとした213人のうち、139人(65.3%)が「効果を認識できていない」と回答。17人(8%)は「効果が表れていない」と答えた。

● 具体的に講じている対策(複数回答可)としては、相談窓口の設置(70.4%)や管理職研修(58.7%)などの"定番"が多かった。
効果が高いとみられるメンタルヘルスの専任者配置は11%と最も少なかった。

● 社内の不調者がここ3年間で減っていないと分析する実務者と、今後10年間は増加または横ばいで推移すると予測する実務者が、いずれも9割以上にのぼる。


 このことから見えるのは従来重視されてきた2次予防や3次予防の重要性は変わらないものの、不調者の増加にはなかなか対処できていないというものです。

 特に中小企業においては効果が高いとされるメンタルヘルス専任者の配置は難しいのが現状です。

このようなことから近年、健康経営の観点からポジティブな側面からの取り組みである0次予防・1次予防が注目されているのです。

特に0次予防とは、職場の生産性向上や業績アップに加え、結果としてメンタルヘルス不調者の発現を抑え、自然な形でのメンタルヘルス対策を可能とするような取り組みをいいます。
このような取り組みが有効な理由として以下のような概念が近年注目されています。

職場のストレス状況を踏まえた対策を考える上で重要な概念のひとつとして首尾一貫感覚(Sense of Coherence ; SOC)をあげることができます。これはいわゆる「打たれ強さ」を醸成していく有効概念として近年注目されているものです。

mental_4-1.png


首尾一貫感覚は、第二次世界大戦中にユダヤ人強制収容所に収容されたのちに生存した、ユダヤ人のフォローアップ研究からアントノフスキー(Antonovsky)により提唱された、健康生成論の中核概念です。

SOCは、様々な身の回りの出来事に対し、ある程度予想でき、どのようなものか理解できるという「把握可能感」(わかる感)、何とかなる、何とかやっていけるという「処理可能感」(できる感)、自分にとつて意義ある挑戦とみなせる「有意味感」(やるぞ感)の3つの下位尺度から構成されており、ストレスの対処能力を測る指標として注目されているのです。


言葉だけだと難しいのですが、SOCとは、自分の生きている世界が「コヒアレント(coherent)、首尾一貫しているという確信の感覚」、「筋道が通っている、腑に落ちるという感覚」です。

自分や、日々の生活の出来事を、仮に自分では不本意であったとしても「まあ、しょうがないな」「まあ、いいか」と納得して、受け入れられる感覚です。

そして、そういう出来事に対して「これには何らかの意味があり、何とかなるに違いない」という確信ともいえます。SOCは、持って生まれた素質や性格ではなく、その人の生き方や物事の受け止め方、向き合い方、関わり方、志向性等に大きく影響され、生まれてから後天的に獲得される感覚とされています。


そして職場における様々な研究においても、このSOCはメンタルヘルスの悪化を防ぐ方向に働くことが報告されています。職場のSOCをテーマにした研究はアメリカやヨーロッパをはじめ、世界的にも多く行われています。

社員一人ひとりのSOCが上がれば、心身の健康も保たれ、企業の生産性の向上、成長に繋がるとされ、企業として、取り組む価値は大きいと思われます。

SOC向上につながる職場の経験としてアントノフスキーはいくつかの要素を上げています。
この中で主な要素として「仕事上の喜びや誇り」、「自由裁量度」、「仕事の複雑さ(複雑であるほど良い)」、「価値観の共有」等がありますが、これらを満たす職場や仕事の取り組みがSOCを向上させるといえます。


次回は0次予防としてSOC向上に有効で具体的な組織開発の事例をご紹介します。

宮川 浩一
​​MENU