2025年6月、公益通報者保護法の一部を改正する法律が成立・公布されました。これにより通報者の保護がより強化されることとなります。本稿では、法の基礎や改正点の概要を解説するとともに、実務上取るべき具体的な対応策について解説していきます。今回は、まず公益通報者保護法の基礎を整理します。
公益通報者保護法とは
2000年頃から、事業者による食品偽装やリコール隠しなど、国民生活の安心・安全を損なう事業者の不祥事が相次ぎました。
これらの不祥事の多くは、事業者内部の労働者やその他の関係者による外部への通報を契機として明らかになったものです。
ですが、労働者は事業者内部の不正行為を最も早く知り得る立場にある半面、その事実を勤め先の事業者や上司の意に反して通報した場合、解雇、懲戒、不利益な配置転換、嫌がらせといった不利益な取り扱いを一方的に受ける恐れがあります。
このため、2004年6月に公益通報者保護法が制定されました。どのような内容の通報をどこへ行えば、労働者が不利益な取り扱いから保護されるのかが明確化されたのです。
公益通報者保護法では、労働者が不正の目的でなく、法の別表や政令に列挙された一定の法律違反(以下、「通報対象事実」)を通報することを「公益通報」と定義し、公益通報が通報先に応じて定められた要件を満たした場合には、公益通報を理由とする解雇を無効とし、その他不利益な取り扱いを禁止しています。
公益通報の対象となる通報先として、(1)事業者内部に対する公益通報(以下、「1号通報」)、(2)権限を有する行政機関に対する公益通報(以下、「2号通報」)、(3)「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生またはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対する公益通報(以下、「3号通報」)があり、それぞれに異なる保護要件が規定されています。
1号通報については、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」に保護の要件を満たしますが、2号通報には「不正があると信じるに足りる相当の理由(目撃情報、証拠など)」など、1号通報よりも厳しい要件が求められ、報道機関等を想定した3号通報にはさらに厳しい要件が規定されています。
2020年改正の要点
公益通報者保護法は、2020年に改正法が成立・公布され、2022年6月から施行されています。これが現行法です。2020年改正では、常時使用する労働者の数が300人超の事業者に対しては、内部からの公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を取る義務(以下、「体制整備義務」)を課されることとなりました。
また、常時使用する労働者の数が300人超の事業者においては、内部からの公益通報を受け付け、調査をし、その是正に必要な措置を取る業務に従事する者(以下、「従事者」)を定める義務(以下、「従事者指定義務」)および従事者の守秘義務についても法定されています。
これらの体制整備義務および従事者指定義務に関する具体的な措置は、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(以下、「法定指針」)の規定に委任されています。
改正に至る経緯
2020年改正法により、通報者の秘密が守られ、利益相反になりにくい体制が確保されて、労働者等が安心して公益通報できるようになり、事業者の自浄機能の発揮につながることなどが期待されていました。
しかし、事業者の体制整備の不徹底や実効性に関し、課題もありました。たとえば、従業員数が数千人を超える事業者において、内部通報制度が十分に機能せず、外部通報によって、国民生活の安心と安全を脅かす重大な不祥事が発覚する事例や、事業者が従事者指定義務や体制整備義務を一切履行せず、不正について内部で指摘があったものの特段の対処をせず、是正までに時間を要した事案もあったと指摘があります。
また、消費庁の2023年度「民間事業者の内部通報対応実態調査」によれば、内部通報制度を「導入している」と回答した事業者の30%が、内部通報窓口の年間受付件数を「0件」と回答しており、内部通報窓口の利用は限定的であることなどが明らかとなっています。
こうした背景から、2025年改正に至ったのです。
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