はじめまして。ブランシェ国際知的財産事務所の弁理士 鈴木徳子です。今回より地理的表示に関するコラムを書かせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
「地理的表示」とは?
「地理的表示」をご存じでしょうか?特許、商標、著作権などと同じ知的財産の一種なのですが、まだまだ知名度は低いようです。
地理的表示とは、「地域で育まれた伝統と特性を有する農林水産物食品のうち、品質等の特性が産地と結び付いており、その結び付きを特定できるような名称」のこと。平たく言うと地域の伝統的農産品の原産地表示のことです。
わが国では、この地理的表示を知的財産として保護することを定めた地理的表示法が2014年に制定され、昨年(2015年)6月1日に施行され同時に地理的表示保護制度の運用が開始されました。
日本では諸事情により制度の導入が遅れ、運用開始から1年数ヵ月しか経過していないという状況なのですが、国際的に見ると同様の制度はすでに100ヶ国以上の国で導入されています。フランスのチーズ「カマンベール・ドゥ・ノルマンディー」やイタリアの生ハム「プロシュート・ディ・パルマ」などの名称は地理的表示として保護されています。
この制度の何がすごいかというと、産品の「品質」について国のお墨付きがもらえ、不正な地理的表示やGIマークの使用に対しては行政側が取り締まってくれる点です。地理的表示と同じ知的財産といえども、特許や商標などは製品等の品質までを保証してくれるものではありませんし、模倣品に対しては権利者側が費用を負担して訴訟等により対応する必要があります。地理的表示は今までになかった類の知的財産だといえるでしょう。
「地理的表示」の登録・申請
前述の通り、地理的表示保護制度の運用は昨年6月1日にスタートし、この日から農水省で申請の受付が開始されました。初日に申請された産品は合計19件で、「夕張メロン」「神戸ビーフ」「市田柿」「鹿児島の壺造り黒酢」などの有名どころの産品が多くを占めました。
弊所も登録第1号の取得を目指して愛媛県の高級生糸「伊予生糸」をこの日に申請しました。
「伊予生糸」については別の機会に書こうと思いますが、初日の申請の模様は、マスコミに大きく取り上げられ、一時は地理的表示の話題で盛り上がりました。しかし、ここ最近は地理的表示の情報を見聞きする機会もめっきり少なくなりました。 現時点(2016年8月)で、登録された産品は僅か14件にすぎず、いずれも登録されてから1年も経過しておりませんので、登録の効果などの重要な情報が少なすぎるのです。これでは報道ネタにもならないのでしょう。登録産品の数が今後もっと増えてくると、状況も変わってくるかもしれません。
ところで、弊所が代理をした「伊予生糸」は申請から8ヵ月後の2016年2月2日に登録されました。登録第10号です。目標としていた登録第1号取得の実現は叶わなかったものの、非食用農産物としては「くまもと県産い草」「くまもと県産い草畳表」と並んで国内初の登録となりました。ちなみに登録第1号は「あおもりカシス」で、2015年12月22日に登録されました。
弊所は特許や商標の権利取得の出願代理を業務として行っておりますので、特許庁とは日常的にやり取りをしています。
しかし、地理的表示の管轄は特許庁ではなく農水省ですので、今回初めて農水省とやり取りをしました。
申請書の内容については、農水省から厳しい指摘がなされ、審査官を納得させる証拠資料の収集など対応が非常に大変でした。農水省とは面談を含めて何度もやり取りをすることになり、行政庁とのやり取りには慣れている弊所にとっても登録までの道のりは厳しく、正直なところ大変でした。
今となって言えることは、地理的表示は単に申請すれば即OK、登録、という代物ではないということです。初日に申請された19産品の中でも、登録を拒否されたものや、未だに登録されていないものもあります。
逆に言うと、これだけの厳しい審査をくぐりぬけて登録されたものだからこそ、品質について国のお墨付きが与えられた価値ある産品だと胸を張って言えるのではないでしょうか。
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