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日本の福利厚生には、歴史的な背景や慣習に基づく独自の特徴があった。働く環境が大きく変化する中で企業が求める方向へかじを切るには、それに伴う制度が不可欠だ。ボトムアップからトップダウンへ。福利厚生の過渡期である今、制度見直しのポイントなどについてマーサー マーシュ ベネフィッツの山浦拓さんにうかがった。
企業を取り巻く環境変化が福利厚生を変える

ベネフィット コンサルティング
山浦 拓さん
損害保険会社を経て、マーシュジャパン株式会社に入社。国内外の事業会社を対象とした福利厚生保険の制度設計および保険手配に従事し、健康保険組合移行支援やM&Aに関するプラン策定支援、大手自動車メーカーの福利厚生最適化コンサルティングなどの経験を有する。一橋大学社会学部卒業。マーサージャパン株式会社「人と仕事の未来 研究所」研究員。
企業によって違いが出てくる法定外福利厚生制度だが、「少ないコストでいかに効率よく従業員に寄り添うか」は共通したミッションといえるだろう。経団連は2019年度まで定期的に福利厚生費の調査を行っていたが、最後となる2019年度の結果は日本独自の特徴をよく表している(図表1)。
法定外福利費のほぼ半分を住宅関連が占め、ライフサポート、医療・健康などが続いている。なぜ日本の福利厚生は住宅関連の支援が手厚いのか。多くの企業の福利厚生の最適化にかかわる山浦拓さんに、その背景を尋ねた。
「福利厚生の黎明期である高度成長時代には、多くの地方出身者が都心に集まり就職しました。彼らにとって社員寮や社宅はニーズの高い、大変効果的な福利厚生だったのです。また、企業の給与体系は年功序列であり、若手の賃金が上がりづらい仕組みになっていました。住宅費の補てんが、低い給与をカバーする側面もあったでしょう。海外との比較でいうと、アメリカの企業では住宅よりも医療保障の方が手厚い傾向にあります。これは国の制度の違いによるもので、日本は健康保険が発達していて公的保障が十分に成熟している国です。医療の領域を、あえて民間がカバーする必要性はありませんでした。こうした歴史的な背景や文化の違いが、日本に特徴的な福利厚生制度を育んだのでしょう」
福利厚生には公的補助を補完する役割もあるため、国の方針による違いが出てくるわけだ。
しかし長らく日本的な特徴を備えていた制度も、ここ数年で大きな変化にさらされている。山浦さんは、福利厚生を取り巻く環境変化として、「ライフ」「ワーク」「セーフティーネット」「グローバル」という4つの観点を挙げる。
「ライフ」については、今や従業員の属性は女性、シニア、障がい者、外国籍など多様化している。世帯形態にしても、共働き世帯、独身、子供の有無など、バリエーションが増えた。世帯主でない従業員にとって、これまでのメインだった住宅関連の支援は受益感がそれほど高くないのが現状だ。
「属性および世帯形態の多様化が進む中で注目されているのが、両立支援です。働く年数が昔よりも長くなった社会のトレンドにより、病気の治療をしながら勤務する人も増えてきました。育児、介護、治療に代表される一人ひとりの事情と仕事との両立支援は、受益感を高める上で重みを増しています」
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