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においマネジメント【その8】たばこをやめられない脳の仕組み

2019年12月11日

 来年、2020年4月施行の改正健康増進法に関心が集まっています。施行されれば、これまで努力義務だった同法の受動喫煙防止は完全に義務化されます。

■なぜたばこがやめられないのか

 昔からたばこは「百害あって一利なし」といわれていましたが、果たしてそうでしょうか。下記の図を参考に、詳しく見てみましょう。

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 このデータからは、「リラックス」「気分転換」「ストレス」「集中力」「コミュニケーション」など、自分の感情や気分を切り替えて、仕事に臨みたいという認識からたばこをやめない理由が見えてきます。しかし、どうしてたばこに頼らなければいけないのでしょうか?

 通常、私たちの脳では、副交感神経が優位になったり運動したりすると、感覚が刺激され、アセチルコリンという神経伝達物質がムスカリン受容体やニコチン受容体に作用し、気持ちよさやリラックスといった快感をもたらしてくれます。一方、たばこを常習的に吸ってしまうようになると、たばこの成分のニコチンがアセチルコリンを経由せず、ニコチン受容体と直接結び付いてしまうため、たばこなしでは気持ちよさやリラックスといった快感が得られなくなってしまいます。

 そのため、たばこがないとイライラ・そわそわするようになるのです。この快感をもたらす脳の経路は「快感回路」というのですが、とどのつまり、たばこが快感回路をハイジャックしてしまうのです。

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■企業における喫煙のコスト・影響

 では、喫煙行為にかかる企業コストを考えてみましょう。たばこを吸う世代の多くは40歳代〜50歳代であると統計が出ています。日本のオフィスワーカーの平均時給は2,400円前後といわれているので、仮に彼らの時給を3,500円だとしましょう。場所は、社外の喫煙場所と仮定します。

一日当たりの平均企業コスト:15分×3,500円/60分×喫煙回数5回=4,375円
一か月当たり:4,375円×21日=91,875円
一年当たり:91,875円×12か月=1,102,500円

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 つまり、喫煙者1人につき年間約110万以上の経済損失が発生しているという見方ができます。

 さらに、喫煙したあとに席に戻った際のにおいの問題があります。においは0.2秒で本能といわれる大脳辺縁系に到達します。そうすると喫煙者は隣の人のたばこのにおいが気になり、集中していた仕事がそこでいったん途切れてしまうのです。つまり、たばこは本人の問題だけではなく、周囲にも影響します。特に女性の嗅覚は、男性のそれよりも鋭敏です。

■禁煙対策に取り組む企業

 こうした結果を受けてか、「健康経営」を取り入れる企業の中には、従業員の健康維持・管理、業務効率化を目的に、喫煙対策に取り組む企業もいるようです。たとえば、「禁煙手当」や「健康維持促進手当」など、福利厚生の一環として禁煙を実行した喫煙者や禁煙を継続している非喫煙者を対象に、月額5,000〜1万円の手当を支給している企業もいます。

 ある企業では、禁煙する旨の誓約書を社員が企業に提出し、喫煙した場合、あるいは不当に手当を受け取った場合は、手当が取り消され、全額返金もやむなしといった措置が講じられるといった事例も出ているようです。ほかにも、禁煙へ取り組む雰囲気作り、たばこが吸えない環境作り、サポーター制度、上長からの働きかけ、禁煙成功者への表彰などが行われており、「義務」として禁煙に積極的に取り組んでいるように感じられます。

■喫煙者へのアロマの効果

 さて、話は変わりますが、2019年4月、米国心理協会は多くの愛煙家の禁煙の手助けとなる「人間は自分にとって心地の良い香りを嗅ぐと喫煙したいという要求にブレーキがかかる」という発表を、医学誌『ジャーナル・オブ・アブノーマル・ サイコロジー(Journal of Abnormal Psychology) 』に掲載しました。

 被検者は、18歳〜55歳の232人の愛煙家たち。喫煙したくなったらより心地良いと感じるアロマ(ハッカ、 レモン、バニラ、その他香料)を嗅ぐように要請したところ、結果、心地良い香りを嗅いだ被験者たちは喫煙したいという要求が減少したことが示されました。

 実験提案者の1人、米・ピッツバーグ大学マイケル・セーエット博士は、禁煙を望む人たちにとって、「これはニコチンへの要求を低下させる上で有効な手段となる」と強調したそうです。

 アロマセラピーが日本に上陸してから、もう35年にもなろうとしています。果たして、アロマの香りは、たばこの救世主になれるのでしょうか?

青木 恵
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