心の病と思われて 理解されにくい「気象病」、休職・退職してしまう前に企業&個人ができる対処法
前回「雨が降ると頭痛やダルさが…… 梅雨の時期にこそ気を付けたい『気象病』、なりやすい人の特徴は?」では「気象病」の原因やなりやすい人の特徴について解説しました。今回は、症状を抑えるセルフケアや気象病の社員のために企業ができることについて、せたがや内科・神経内科クリニック 院長の久手堅 司さんにお話をうかがいました。
取材・文◎武田 洋子
症状が出たときの対処法
院長
久手堅 司さん
医学博士。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修医師。「自律神経失調症外来」などの特殊外来を立ち上げ、「気象病・天気外来」ではこれまでに5000人以上の患者を診察している。『気象病ハンドブック 低気圧不調が和らぐヒントとセルフケア』(誠文堂新光社)など著書多数。
以下に個人が日常でできることや、クリニックでの治療を紹介します。
マッサージで血流を良くする
気圧の変化を感じるのは耳から、という話をしましたが、耳鳴りやめまいがつらい人は、あごの食いしばりが強いことが多いです。顔やあご周りのマッサージをしたり、耳を温めると、血流が良くなって症状が和らぎます(図表)。このマッサージは、気付いたときにいつでも行ってかまいません。
デジタル機器の過度の使用をやめる
パソコンやスマホなど、デジタル機器の過度の使用は首肩こりの原因です。連続使用は1時間を目安にし、途中2、3分は画面から目を離して首・肩を軽く動かします。特に避けていただきたいのは寝る前のスマホ。ベッドに持ち込むことはやめましょう。
適度に運動をする
運動習慣をつけましょう。朝のラジオ体操や週に数回のウオーキングなど、軽いものでいいのです。体を動かすと倦怠感が軽くなっていきます。
十分に睡眠を取る
睡眠は体を回復させる非常に重要な役割を担います。入浴とセットにすると改善しやすいでしょう。入浴は、38~40度のお湯に10~15分、首までつかります。その後、約90分で体の深部の体温が下がり始め、眠気を感じるので就寝してください。
首周りを冷やさない
入浴と同様、体を温めることは有効です。冬場は特にマフラーで首周りが冷えないようにします。
体調が悪くなるタイミングを把握する
「頭痛ーる」のような気圧予報アプリがあると、体調不良が起こりそうな日時を自分で把握できます。うまく活用して対策に役立てていただきたいと思います。ただし、あまり神経質になるとストレスが強くなるので要注意。体調のベースが整っていけば、気圧も少しずつ気にならなくなっていきます。
発酵食品を積極的に摂取する
脳と腸には相関関係があります。ストレスを感じると胃腸が痛くなるのは、脳が自律神経を介して腸を刺激するためです。逆に、胃腸の状態が良いと免疫機能が上がることがわかっています。ぜひ、発酵食品であるヨーグルト、味噌や納豆を日常の食事に取り入れましょう。
このほか、当クリニックでは気象病の治療として漢方薬を出しています。特に気圧差で起こる不調に対して非常に有効だと実感するのが、「五苓散」です。五苓散は体内の水分バランスを改善する薬で、頭痛、めまい、むくみ、二日酔いなどに広く使用されています。副作用もほとんどなく、市販もされているので使いやすいのです。
投薬だけでなく、筋肉や骨格、運動に関するプロフェッショナルと行うパーソナルトレーニングを組み合わせることもあります。骨格のずれやゆがみをはじめ、自律神経に良い呼吸法や運動、食事、生活習慣、メンタルまで一緒に学んでもらうのですが、会社に行けなくなっていた方がみるみる改善して、復職を果たす事例が増えてきました。
天候を自分で変えることはできませんが、健康になるためのちょっとした努力をすることは可能です。ただ薬をもらうだけでなく、その薬が何に効くのか、なぜ必要なのか、自分ごととして理解する姿勢も大事です。
望まない休職防止のために企業は制度で対策を
体はもちろんですが、周囲に理解されづらいことも気象病のつらさの特徴です。認知は進んできたと話しましたが、まだまだ緒に就いたばかり。「気象病」が正式な病名でなく、検査でも異常が発見されるわけではないので、今も多くは「心の問題」にされてしまいます。平常時と不調時の差が激しいこともメンタルに結び付けられやすい要因です。さっきまで元気だったのに、天気が崩れるといきなり体調が悪くなるわけですから。天気が悪いとたいていの人はブルーになるものですが、気象病の人は正常範囲をやや外れ、うつや不安などの症状が出やすい面は確かにあります。しかし、それは決してメンタルの弱さなどではなく、気象変化という明らかな原因によるものです。企業のみなさんには、こういう病があることをひとまず理解していただきたいと思います。知るだけでも、より良い変化への第一歩になるで しょう。
心の問題と診断された場合、投薬と休職のセットが治療方法としては一般的です。しかし気象病なら、対策次第で働き続けることができると考えます。私はこれまでに、会社側のちょっとした理解、職場の変化により復帰が早まった患者を、多く見てきました。
たとえばシフトの制度を変えるのはどうでしょうか。気象病による不調がピークになるのは、5~7月と秋の台風時季です。夏季休暇と冬季休暇をずらして取ることができれば、うまく調整できる可能性が高まります。
総務部門ができることも少なくないはずです。健康経営が重視されるようになっていますが、社員が運動習慣を身に付けるサポートをしてもらいたいと思います。ジムとの提携はコストがかかるので、せめて日常のちょっとした時間に体を動かすように啓発してみてください。また、職場に気圧計を置くのも有効です。温度、湿度、気圧の変化を教えてくれるようなゲージがあると、気象病の該当社員は「これから温度や気圧が下がるのか。では体を温めておこう」などの準備ができるようになります。
気象病の患者数は増えつつあり、ここ数年で、気象病に対応する医療機関も増加傾向です。背景として、異常気象が頻発することで気象変化が激しくなったことや、パソコンやスマホの使用時間が増えたことがあるでしょう。また、「気象病」という病名の認知度が多少なりとも上がったことで、自分もそうだったのかと気付く人が増えた面もあると思います。
現代社会はストレスが多く、人々は自律神経が乱れやすい生活をしています。つまり気象病になりやすい環境下にいるわけで、今後も患者は増えていくと考えられるでしょう。しかし前述のように、個人も組織も、今日から対策できることはあるのです。日常の積み重ねが、気象病への最大の防御になります。
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