最近よく耳にするようになった「リスキリング」。欧米に遅れはしたが、日本でも多くの企業が意識し始めている。なぜ今、リスキリングは注目されているのか。リスキリングの研究を続けてきた石原直子さんに、あらためてその意味を問うとともに、リソースの限られた中小企業が取り組む際のポイントについてもうかがった。
取材・文◎武田 洋子
「自社で人材を育てる」欧米から始まった転換
石原直子さんは、リスキリングという言葉が他動詞であることを指摘する。「国が国民をリスキリングする」のように使われている場合、動作の主体となるのは国である。つまり企業におけるリスキリングでは、企業そのものが一番のプレーヤーとなる。
はたらく AI&DX 研究所 所長
石原 直子さん
銀行、コンサルティング会社を経て2001年からリクルートワークス研究所。人材マネジメント領域の研究に従事し、機関誌『Works』編集長、人事研究センター長を務める。2022年4月、株式会社エクサウィザーズに転じ、はたらくAI&DX研究所所長に就任。著書に『女性が活躍する会社』(共著、日経文庫)。近年は、デジタル変革に必要なリスキリングの研究などに注力する。
「基本形としては、会社が主体となって従業員に新たな職業能力を付けさせる、これがリスキリングです。よくリカレント教育との違いを聞かれますが、リカレント教育は、学びのステージと働くステージを数年ずつのスパンで交互に回していくイメージ。学ぶ時期と働く時期は重なりません。一方、リスキリングの場合は会社が主体であるため、従業員が学びのために休職や退社することは想定されていません。あくまでも働きながら学ぶことが前提になっています」
リスキリングは欧米から火がついた。いわゆるジョブ型の雇用環境の下では、戦略に基づいてジョブやタスクを先に決定し、あとからそれをこなせる人材を採用したり配置したりする。極論すれば、従業員の能力開発は企業の責任ではないといえるのだ。ところが2010年代後半になると、デジタルの時代に生まれる新しい仕事に必要なスキルを持った人材を確保するのが難しくなってきた。コンピューターサイエンスなどの高度な知見を持つ人材はもとより市場にも少なく、すでに多くの企業が奪い合っている。そこで注目されるようになったのが、会社が主導して、既存の従業員に新しいスキルを獲得させる、リスキリングだったのだ。
一方、日本の雇用環境は欧米とは大きく異なる。大半の企業はまず人材を確保し、その人材にどの仕事をしてもらうかは、あとから決める。さらにジョブローテーションも頻繁に発生し、新しい仕事に異動したら、その都度OJTを経て仕事をしながら新しい職業能力を身に付ける。仕事に必要な能力を職場で獲得するというのは、一見するとリスキリングと同じ構造であり、だからこそ、日本企業はリスキリングにおいて欧米企業に後れを取ったといえる。
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