【事例】素材メーカーが点火するSDGs注目される存在感 —— 雪ヶ谷化学工業株式会社
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化粧品、産業、医療、スポーツなどさまざまなシーンで利用されるスポンジを製造する雪ヶ谷化学工業株式会社。SDGsへの取り組みを本格化させたのは2019年だが、短期間でフェアトレードを軸とする新たな規範の創出を成功させ、注目されている。これまでの軌跡や社内の意識を聞いた。
取材・文◎武田 洋子
素材の開発と認証マークの制作
雪ヶ谷化学工業株式会社は、天然ゴムを用いた産業用素材メーカーとして1951年に創業した。1976年に同社が開発した合成ゴムスポンジは、その優れたユーザビリティで化粧用具、自動車部品、建材、音響機器など多方面で使用され、今や世界的トップシェア企業として成功を収めている。しかし2019年、同社社長の坂本昇さんは、脱石油に対する社会のニーズが高まりつつあるのを感じていた。
「国連がSDGsゴールを決めたときから、世界的な潮流が来るだろうと思っていました。では何をするかと考えていたときに、『事業自体にSDGsを乗せるべきである』という講演を聞いて、腹落ちしたのです」
メーカーが主力である自社製品を見直すというのは、相当に勇気がいることに思える。しかし坂本さんは、3か月後には社内で話をし、石油由来の原料に頼らない新素材の開発に取り掛かった。そして、合成ゴムに天然ゴムを混ぜた、新しい製品をリリースしたのだ。
「油に対する耐性が異なる2つを混ぜるというのは、この業界に長くいるほど思いつかないものなのです。当社は、石油由来原料を従来のものから10〜90%削減できる素材の提供が可能になりました。あとは取引先が何%の削減を目指すかです。共感して採用する企業も増えていますが、多くの企業は残念ながらまだコスト最優先なのが現実です」
そもそも石油というのは、加工がしやすい大変優秀な素材だ。そこから脱却するには当然ながら痛みを伴う。問題は、そのコストを誰が負担するのかだ。製品の提供側だけにコスト増を負わせることは現実的ではなく、たとえば化粧用スポンジならコスメ業界全体で適正価格に値上げし、さらに消費者もそれを受容しなければならない。消費行動まで巻き込み社会全体で分担していくべき課題なのだ。
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