専門業務型では本人の同意が必要に 4月から改正される「裁量労働制」、企業に求められる対応は?
前回「『裁量労働制』とは? 対象業務やメリット・デメリット、ほかの働き方との違いを解説」では裁量労働制の基礎知識について解説しました。今回は、2024年4月1日からの変更点についてお伝えします。
改正法は2024年4月1日から
労働時間制度が労使双方にとって有益な制度になることを目的として検討が行われ、関係省令等が改正されました。改正法は2024年4月1日から施行・適用され、これに伴い、裁量労働制の導入および継続に新たな手続きが必要となります。
対象業務の追加
専門業務型裁量労働制の対象業務はこれまで19業務でしたが、「銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)」が追加され、全部で20業務になります。
専門業務型裁量労働制の労使協定
専門業務型裁量労働制の労使協定で定めなければならない事項が追加されます。追加事項は下記の通りです。
- 労働者本人の同意を得なければならない
- 同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしてはならない
- 同意の撤回の手続き
- 同意および同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中およびその期間満了後3年間保存す
さらに、協定の内容等の制度概要、賃金・評価制度の内容、同意しなかった場合の配置・処遇について明示した上で説明して同意を得ること、同意は書面によること等、その具体的な手続きを労使協定で定めると良いでしょう。
加えて、同意を得るに当たって、苦情の申出先、申出方法等を書面で明示する等、苦情処理措置の具体的内容を説明することも望ましいです。
同意の撤回の手続きを協定するに当たっては、申出先の部署および担当者、撤回の申し出の方法等を明らかにすることが必要です。また、同意の撤回後の配置および処遇について同意の撤回を理由として不利益な取り扱いをしてはなりません。同意の撤回後の処遇等についてはあらかじめ協定で定めておくことが望ましいでしょう。
企画業務型裁量労働制の労使委員会の決議
企画業務型裁量労働制の労使委員会運営規程に次の事項の追加が必要です。
- 労使委員会に賃金・評価制度を説明する
- 労使委員会は制度の実施状況の把握と運用改善を行う
- 労使委員会は6か月以内ごとに1回開催する
また、運営規程を改定した上で、労使委員会で決議しなければならない事項が追加されます。
- 制度の適用に関する同意の撤回の手続き
- 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行う
- 同意および同意の撤回の労働者ごとの記録を決議の有効期間中およびその期間満了後3年間保存す
さらに、決議の内容等の制度概要、賃金・評価制度の内容、同意しなかった場合の配置・処遇について明示した上で説明して同意を得ること、同意は書面によること等、その具体的な手続きを労使委員会で決議すると良いでしょう。
加えて、同意を得るに当たって、苦情の申し出先、申し出方法等を書面で明示する等、苦情処理措置の具体的内容を説明することも望ましいです。
同意の撤回の手続きを決議するに当たっては、申し出先の部署および担当者、撤回の申し出の方法等を明らかにすることが必要です。また、同意の撤回後の配置および処遇について同意の撤回を理由として不利益な取り扱いをしてはなりません。加えて、同意の撤回後の処遇等についてあらかじめ決議しておくことが望ましいでしょう。
健康・福祉確保措置の拡充
専門業務型および企画業務型ともに、適用労働者の労働時間の状況や勤務状況に基づいて、健康・福祉確保措置を明確に協定または決議することが必要です。
健康・福祉確保措置は、「長時間労働の抑制や休日確保をはかるための事業場の適用労働者全員を対象とする措置」と「勤務状況や健康状態の改善をはかるための個々の適用労働者の状況に応じて講ずる措置」からそれぞれ1つずつ以上実施することが望ましいとされています。
このうち特に把握した対象労働者の勤務状況およびその健康状態を踏まえ、図表2の「3 労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除」の措置を実施することが健康確保をはかる上で望ましいとされます。
たとえば、「1週間当たりの労働時間が40時間を超えた時間が、1か月当たり60時間を超えた労働者については、裁量労働制の適用を解除する」というような措置になります。
対応が必要な事項
2024年4月1日以降、新たにまたは継続して裁量労働制を導入するためには、裁量労働制を導入する全ての事業場で必ず改正内容を踏まえた対応をする必要があります。
なお、すでに裁量労働制を導入しており、労使協定や決議の有効期間内であっても、2024年4月からの変更点の対応をする必要があります。
そのため、2024年3月末までに、専門業務型裁量労働制では労使協定を締結し直し、企画業務型裁量労働制では労使委員会で決議し直し、労働基準監督署に協定届・決議書の届け出を行う必要があります。
加えて、専門業務型裁量労働制を導入している場合、2024年3月末までに制度の適用労働者から同意を得る必要があります。この対応に時間がかかることも想定されるので、早めの対応が必要であることとともに丁寧な説明が求められます(※)。
※ 本記事は『月刊総務』2024年3月号(2024年2月8日発売)の内容を転載したもの
※掲載されている情報は記事公開時点のものです。最新の情報と異なる場合があります。
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