労働審判手続とは、解雇や賃金不払いといった個別労働紛争について、実情に即して迅速・適正かつ実効的に解決するための制度である。裁判とは異なり、非公開で行われる点が特徴であり、プライバシーや企業イメージへの配慮がなされている。
労働審判手続は、裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会によって進められる。労働審判員は、雇用実務や労使慣行に関する専門的な知識と経験を有する者から選任される。中立・公正な立場で審理・判断に関与することで、実態に即した判断が可能となる。
原則として3回以内の期日で審理を終えるため、迅速な解決が期待される。実際に、平成18年から令和5年までに終了した事件の平均審理期間は約81.7日であり、約66.4%の事件が3か月以内に終了している。
労働審判委員会は、まず調停(話し合い)による解決を目指す。調停が成立しない場合には、審理を通じて把握した事実関係と法的評価を踏まえ、個別事情に応じた柔軟な判断を示す。これにより、訴訟よりも現実的で実効性のある解決が得られる可能性が高い。
労働審判の内容に不服がある当事者は、労働審判書の送達から2週間以内に異議申立てを行うことができる。適法な異議申立てがあった場合、労働審判は効力を失い、自動的に通常の訴訟手続に移行する。
労働審判手続を利用するには、地方裁判所の本庁または一部の支部(東京地裁立川支部、静岡地裁浜松支部、長野地裁松本支部、広島地裁福山支部、福岡地裁小倉支部)に申立書などの必要書類を提出する必要がある。
申立てが受理されると、労働審判官は原則として40日以内に第1回の期日を指定し、当事者双方を呼び出す。相手方には申立書の写しと期日呼出状などが送付される。
相手方は、労働審判官が指定した期限までに答弁書などの書類を提出しなければならない。
労働審判委員会は、原則として3回以内の期日で審理を実施する。事実関係や法律上の主張を整理したうえで、必要に応じて当事者本人や関係者からの事情聴取も行う。また、調停による解決の見込みがある場合は、期日中でも随時調停を試みる。
話し合いによって合意が得られた場合は、調停が成立し、手続は終了する。調停内容は調書に記載され、条項の内容によっては強制執行の申し立てが可能となる。
調停が成立しない場合、労働審判委員会が当事者間の権利関係および審理の経過を踏まえた判断を下す。労働審判に対して2週間以内に異議申立てがなければ、その内容は確定し、必要に応じて強制執行が可能となる。一方、異議申立てがあった場合は訴訟に移行することになる。
参考:裁判所「労働裁判手続」