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番外編「人事労務リスク対処法(2)」

2010年12月15日

 前回と今回の2回にわたって、番外編として人事労務リスク対応について説明しています。

 前回は人事労務リスク増加の背景、リスク対処の基本的考え方を述べました。 
 今回は次の2つの事例で、人事労務リスク対処法を具体的に解説していきます。

■事例(1)「パワーハラスメントとセクシャルハラスメント」(以下「ハラスメント」)
■事例(2)「過剰労働と社員のメンタルヘルス低下」(以下「メンタルヘルス低下」)

 発生件数が増加傾向にあるこの2つの事例ですが、その背景には共通のものがあります。
 さらに、管理職が自身のストレス解消にハラスメントを行い、その部下である被害者のメンタルヘルス低下を生むなど負の連鎖がある場合もあります。

 予防策を中心に、2つの事例の具体的な対処策を示します。


1.社員への正しい理解の促進
 ハラスメントもメンタルヘルス低下も、社員に正しく理解してもらうことがスタートです。
(1)ハラスメント
 まず、「ハラスメントは組織内で絶対にあってはならない」という基本方針を明確にし、就業規則に記載した上で、社員への理解促進を行います。

セクシャルハラスメントでは「悪気はなかった」「ちょっとジョークを言っただけで、傷つけるつもりはなかった」
パワーハラスメントでは「指導の一環で叱っただけ」「本人のためを思って強く注意した」というような言葉をよく聞きます。

 しかし、ハラスメントに該当するか否かの判断基準は、「行為者の意図」ではなく、行為を受けた側が苦痛・不快感を感じたかという受け手の主観が重視されます。

 故意に行うことは論外ですが、理解不足、誤解によるハラスメントの発生は、理解促進によってかなり減少させることができます。
 

(2)メンタルヘルス低下
 メンタルヘルス対応では、精神疾患に対する理解促進と誤解解消の両方が必要になるでしょう。

 近年、発症者が増えている「うつ病」などは、病気の認知は高まっていますが、まだまだ誤解や偏見も多く残っています。
理解不足や誤解は、「なまけ病」「甘え」と捉えて厳しく接する人と、「腫れ物に触る」ように接する人という両極端な反応を生み、どちらも事態を悪化させます。

 ハラスメントもメンタルヘルス低下も、管理職(上司)と一般社員それぞれに研修を行うことが望ましいです。
テキストは、厚生労働省などのホームページからダウンロードできる資料を使ったり、参考にしたりすると良いでしょう。

 管理職には、理解促進を行った上で、具体的な対処策のスキル研修をあわせて行うと良いでしょう。
具体例としては「正しい褒め方&叱り方」、「積極的傾聴(けいちょう)法」、「部内問題の予兆を知るチェックポイント」などです。


2.相談窓口の設置
 ハラスメントにも、メンタルヘルス低下にも「相談窓口の設置」は有効です。

 業務が複雑化、専門化するにつれ、組織のフラット化が進み、仕事が「個別化」しています。同じ部署内でも同僚の仕事内容が見えづらくなり、集団ではなく一対一の個人間で仕事を進めるということが増えています。それによって、相談相手を見つけられず、問題を一人で抱え込んで悩み続ける人が増加しているようです。

 相談窓口を設置することで、問題の早期発見ができるとともに、問題発生を抑制する牽制(けんせい)機能が生まれます。

 人事部や顧問弁護士、社外機関などを相談窓口とする企業が多いですが、「相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益取扱いを行わない」、「被害者などの当事者だけでなく、問題を見聞きした社員からの報告を奨励する」、「匿名での相談、連絡も認める」などを定め、周知すると効果的です。


3.社員の観察、コミュニケーションの促進 
 人事部スタッフや管理者(上司)は問題の予兆を見逃さないように社員、部下の様子を観察しましょう。

 ハラスメントもメンタルヘルスも問題が顕在化する前に、必ず小さな予兆がありますが、組織や管理者自身に余裕がなく、見逃してしまう場合が少なくありません。 

 予兆は、部下の行動、表情などの変化に現れます。今までになかったようなミスが続く、遅刻や欠勤が増える、表情が暗くなる、口数が減る、身だしなみが乱れる、などはハラスメントの被害者やメンタルヘルスが低下した社員によく現れる変化です。

 日頃からの観察と、部下とのコミュニケーションがこれらの変化を察知する方法であり、それは管理者の重要な責務です。

 
4.発生後は迅速な対応
 万一、不幸にして問題が発生した場合は、当事者などに事実関係を確認し、迅速に対応しましょう。早期発見、早期対応が事態を悪化させず、対応コストを最小にする鉄則です。

 ハラスメントの場合は、事実関係を確認し、その行為を行った社員には厳正な処分を行います。
「ハラスメント行為は絶対許さない」「快適に業務を行える職場環境を守る」という経営の強い意思を示すことが、再発を防ぐとともに、社員に対する安心感を生みます。  

 メンタルヘルス低下については、該当しそうな社員に上司や人事部が面談を行いましょう。
センシティブな問題ですので、まずは本人の話を「聴く」ことが大切です。必要に応じて専門医の受診や休養を勧めなければいけないこともあるでしょう。

 ハラスメントやメンタルヘルス低下の問題は被害者本人に影響を与えるだけでなく、職場全体の雰囲気を悪化させ、士気・労働生産性の低下をもたらします。
また、企業も管理責任を問われる場合があり、訴訟となった場合は金銭的コスト、社会的制裁など大きな損失を生みます。

 私事になりますが、私も会社勤務時代、過労とストレスで体調を大きく崩したことがありました。その時、会議室で上司に相談すると、上司は話をしていた会議室から内線電話ですぐに人事部長を呼び出してくれて、その場で私の休職を決めてくれました。

「必要最小限の引継ぎをして、一刻も早く休んでください。仕事のことは心配しなくていいから、体のことを第一優先に考えてください」と上司が言ってくれたこと、「ご迷惑をおかけしてすみません」と謝る私に、豪快な人事部長は「たいしたことねーよ。気にすんな。ゆっくり休んで、早く戻って来いよ! ガハハハ」と笑いながら私の肩を何度も強く叩いてくれたことを今でも時々思い出します。

 そして、その時の感謝の気持ちは、会社への信頼感を高め、復職後に恩返しをしたいというモチベーションに繋がりました。

太期 健三郎
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