高年齢者雇用安定法改正と環境整備

「65歳までの雇用確保」完全義務化目前! 4月までに確認しておきたい4つのポイント

日本橋人事賃金コンサルタント・社会保険労務士小岩事務所  代表 特定社会保険労務士 小岩 和男
最終更新日:
2025年03月12日
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前回「2025年4月から義務化される「65歳までの雇用確保」 改正のポイントをあらためてチェック」では、高年齢者雇用に関する2つの制度の改正内容について解説しました。今回は、企業に求められる環境整備について、特定社会保険労務士の小岩和男さんにお話をうかがいました。

2025年4月までに準備すべきこと

1.就業規則や賃金制度の見直し

前回の「65歳までの雇用確保」の完全義務化、および高年齢雇用継続給付の縮小に伴い、2025年4月1日までに企業が対応すべき内容を解説します。

(1)就業規則の改定
65歳までの継続雇用制度(再雇用制度や勤務延長制度)を経過措置で導入していた企業は、継続雇用制度の対象者を「希望者全員」に改定する必要があります。なお常時10人以上の事業場の就業規則は、改定版を事業所管轄の労働基準監督署への届け出る必要があります。

(2)賃金制度の見直し
高年齢雇用継続給付と賃金の合計額で収入設計をしていた場合、本給付金の縮小により60歳代前半の賃金制度に影響が出てきます。本給付金は将来的に縮小または廃止される可能性が高いため、今般の法改正は賃金制度見直しのタイミングです。その際のポイントは、いわゆる「同一労働同一賃金」への配慮です。同一労働同一賃金は、一般的に正規従業員と非正規従業員の不合理な待遇差を禁止する制度です。希望者全員65歳までの雇用確保義務が完全義務化となった場合、非正規型で雇用する従業員も存在するため、特に留意して見直したいものです。

賃金は労働時間とともに従業員にとって重要な労働条件であり、モチベーションが低下しないような設計が求められます。従来、定年後の労働条件は、昇給なし・賞与なし・人事評価 制度なしで運用する企業が多くありました。一般的に定年後は賃金が低下するケースが多いため、定年前同様、人事評価制度をきちんと導入して対応することで、モチベーションの維持がはかれます。

(3) 70歳までの就業機会確保(努力義務)を見据えた賃金制度の構築
高年齢者雇用安定法の2021年4月の改正で、70歳までの就業確保措置(努力義務)も規定化されています。現在では「65歳までの雇用確保(義務)+70歳までの就業確保(努力義 務)」ということです。努力義務は将来的に義務になるため、これを見据えて制度を設計しておきたいものです。

努力規定であるため、継続雇用の対象者を限定する(絞る)ことは可能です。なお雇用以外の形態(業務委託等)も導入できるため、就業確保という表現になっています(図表1)。

図表1:高年齢者就業確保措置について
【対象となる事業主】

  • 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
  • 65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入している事業主

【対象となる措置】

次の(1)~(5)のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じるよう努める必要があります。

(1)70 歳までの定年引き上げ

(2)定年制の廃止

(3)70 歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入

※特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む

(4)70 歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

(5)70 歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

※ (4)、(5)については過半数労働組合等の同意を得た上で、措置を導入する必要があります(労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、そして労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者の同意が必要です)。
出所:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正の概要」

(4) 無期転換ルールへの対応(継続雇用高齢者特例の申請)
「65歳までの雇用確保」の完全義務化により実務上留意が必要なのが、無期転換ルールへの対応です。労働契約法により、有期労働契約が更新されて通算5年を超えたときは、従業員からの申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルールがあります。このルールは定年後の継続雇用を「有期契約にて再雇用」した場合にも当てはまります。多くの企業が定年後は1年ごとの雇用契約を更新するため、注意が必要です。

更新を重ね5年を超えると、無期転換申込権が発生しますが、有期雇用特別措置法により、(a)適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けると、(b)定年に達したあと、引き続いて雇用される有期雇用労働者(継続雇用の高齢者)については、無期転換申込権が発生しない、とする特例が設けられています(図表2)。つまり、定年後の有期契約を5年経過後もずっと継続できる(無期契約にならない)特例です。特例の適用を受けるためには、本社・本店を管轄する都道府県労働局に認定申請を行います。忘れずに対応しておきましょう。

図表2:継続雇用の高齢者の特例

出所:厚生労働省「無期転換ルールの継続雇用の高齢者に関する特例について」

なお、認定を受けない場合、無期転換された従業員は無期雇用(ずっと雇用され続ける)されることになるため、就業規則等で「第2定年制度」を設ける必要が出てきます。認定を受ける・第2定年制を設けるなど、忘れずに対応してください。

事業主が活用できる助成金

最後に、企業が活用できる助成金(現在厚生労働省HPにて公開されているもの)をご紹介します。助成金は予算枠等があるため、年度ごとに制度が見直される(廃止・新設等)ことがあります。申請予定がある場合は、必ず担当窓口(管轄ハローワーク等)に確認して申請してください。

特に「65歳超雇用推進助成金」は、「65歳までの雇用確保」の完全義務化の次の段階導入(70歳までの就業機会確保)の際に活用できる助成金です。

1.特定求職者雇用開発助成金 (特定就職困難者コース)

高年齢者(60歳以上)や障がい者等の就職困難者を、ハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されます。

2.65歳超雇用推進助成金

高年齢者が意欲と能力のある限り、年齢にかかわりなく働くことができる生涯現役社会を実現するため、65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成されます(図表3)。

図表3:65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)
【A. 65歳以上への定年の引き上げ、B. 定年の定めの廃止】

【C. 希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入】

【D. 他社による継続雇用制度の導入】

(注) 60歳以上被保険者数とは、支給申請日の前日において1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者の数となります。また、A~Dのいずれの措置を実施する場合も、実施前の定年または継続雇用年齢(Dの場合、他の事業主における継続雇用年齢も同様)が70歳未満である場合に支給します。
出所:厚生労働省「令和6年度65歳超雇用推進助成金のご案内」

(1)65歳超継続雇用促進コース
65歳以上への定年引き上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかを実施した事業主に対して助成するコース

(2) 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者向けの雇用管理制度の整備等に係る措置を実施した事業主に対して助成するコース

(3)高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換させた事業主に対して助成するコース

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プロフィール

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日本橋人事賃金コンサルタント・社会保険労務士小岩事務所  代表 特定社会保険労務士
小岩 和男

中央大学法学部法律学科卒業後、東武不動産株式会社(東武鉄道グループ)に入社。以降、不動産営業を経て人事総務業務に従事。2004年、社会保険労務士試験合格後独立。現在、日本橋人事労務総研代表・特定社会保険労務士として、企業の労務顧問・講演・執筆業務で経営者を支援している。主な著書に『ぜんぶわかる人事・労務』(成美堂出版)、『図解即戦力社会保険・労働保険の届け出と手続きがこれ1冊でしっかりわかる本』(技術評論社)がある。

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