投資の判断基準として広まったESG。ESG投資の運用資産額から見えてくる、2030年に向けた世界の動向を探る。株式会社QUICKESG研究所の広瀬悦哉さんに、来るべき社会でステークホルダーに選ばれる企業は何を重視すべきなのか、お話をうかがった。
取材・文◎武田 洋子
運用総資産額の36%をESG投資が占める
ESG(環境、社会、ガバナンス)に配慮している企業を重視・選別して行うESG投資は、今、世界でどの程度の影響力を持っているのだろうか? QUICKESG研究所の広瀬悦哉さんにうかがった。
常務執行役員 リサーチ本部 ESG研究所 主幹
広瀬 悦哉さん
1984年に市況情報センター(現株式会社QUICK)に入社。2011年営業本部長、2013年取締役、2014年にESG研究所を設立し所長に就任。同年GPIFより受託した「年金積立金管理運用独立行政法人におけるスチュワードシップ責任およびESG投資のあり方についての調査研究業務」における統括責任者を務める。現在は、機関投資家ならびに企業向けのESGアドバイザリーに従事
「昨年7月に、世界のESG投資額の統計を集計しているGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)が、2020年の統計を発表しました※1。米国、カナダ、日本、オーストラリア、EU各地域のデータをまとめたもので、ESG投資額は世界で35兆3,000億米ドルと、この2年で15%増加しています。これは、調査対象市場における運用資産全体の36%に相当します。ヨーロッパでは投資額が減少していますが、それはEUで法律が定められ、ESG投資の定義が改訂され、データの測定方法が変更になった影響であり、本質的に増加傾向は変わりません」
ここまで伸びている背景には、コロナ禍の影響もあると広瀬さんは指摘する。なぜなら、感染症問題もまた、世界が解決すべきESG課題の一つといえるからだ。コロナ禍で一気に課題が顕在化し、企業は従業員の健康と安全のための感染リスク対策や雇用の維持、サプライヤーの支援などさまざまな対策を講じ、投資家も企業に、危機管理対策や行動を促すエンゲージメントを実施した。
また、新型コロナウイルスの発生源についてはいまだ結論が出ていないが、気候変動とウイルスには深い関連性がある。温暖化により、感染源となる動物の生息地が人間の居住地に近くなったり、シベリアの永久凍土から未知のウイルスが溶け出したりするリスクが高まるのだ。こうした気候変動に対する危機感が、ESG投資をあと押ししたといえる。環境に配慮したグリーン産業市場は拡大を続け、長引く自粛で低下した経済活動を復活させるカギになるのではと期待されている。一方、日本の状況はどうか。
「国内のデータを見ると、ESG投資額は約2.9兆米ドルで、2年前と比べ34%の増加、総運用資産額に占める割合も18%から24%となり、目覚ましい成長を感じさせます。日本の資産の大きさに鑑みれば、ESG投資はまだまだ伸びる余地が大きいといえます。カナダの運用総資産額に占めるESG投資の割合は約62%ですが、日本も追い付いていくと思います」
広瀬さんによれば、日本の転換期は2015年だという。この年に起きた3つの出来事がエポックメーキングとなった。1つはパリ協定だ※2。気候変動課題への国際的な新たな枠組みが定められ、投資家の目もグリーン投資に向いた。2つ目が9月に国連サミットで採択されたSDGs。
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