今や危機管理は法令遵守だけでは不十分。「社会の目」に対応するコンダクトリスク管理の考え方
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企業と、企業を取り巻く重要な利害関係者(ステークホルダー)である「従業員」や「顧客」「取引先」「社会」の関係は時代とともに変化しており、その関係性を見誤れば企業の成長や存続に多大な影響を及ぼすことになります。一方で、「社会」の変化はより速く、「社会の要請(社会の目)」はより厳しくなっており、法令やガイドラインなど「守るべきルール」自体が時代に合わない(法令違反はしていなくても社会から批判されてしまう)という状況が頻繁に起きています。これが「コンダクトリスク」と呼ばれるものです。今回は、コンダクトリスクへの対応について見ていきます。
事例から考えるコンダクトリスクへの対応
コンダクトリスクは、金融庁の「健全な企業文化の醸成及びコンダクト・リスク管理態勢に関する対話結果レポート」(2025年6月)において、「社会規範にもとる行為、商慣習や市場慣行に反する行為、利用者の視点の欠如した行為等によって企業価値を毀損するリスク」と定義されています。
コンダクトリスクへの対応として、企業は常に社会の要請を意識し、その変化に柔軟に対応することが重要であり、そうした「しなやかさ」こそが、自らの健全性の確保や持続的な成長を可能にするといえます(そもそもコンプライアンスの本来の意味には「柔軟さ」「しなやかさ」などもあります)。そのための取り組みが、まさに危機管理(コンプライアンスリスク管理)であって、もはや危機管理なくして企業経営はなし得ない時代に突入しています。
この点については、金融庁が2020年7月に公表した「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」というリポートで、下記のような指摘をしています。
「コンプライアンス・リスク管理に関する傾向と課題」より抜粋(下線部が特に重要)
潜在的な問題を前広に察知することで、将来の問題を未然に防止することは容易ではなく、様々な手法を試行し、それぞれの金融機関に適した手法を追求すべきと考えられる。また、ルールの整備よりも、社会の目、社会の要請、対企業といった観点では各種ステークホルダーの要請といったものの方が、より早いスピードで変化している。そして、そのような要請に反する行為に対しては、たとえ明確に禁止するルールがない行為等であったとしても、それが不適切だとの見方が社会的に高まれば、容赦のない批判が寄せられ、コンプライアンス・リスクが顕在化し、企業価値が大きく毀損されることが起こり得ることから、経営陣を中心に想像力を柔軟に働かせつつ、企業価値の向上につながるコンプライアンス・リスク管理を実践すべく、継続的な検討を行っていくことが望ましいと考えられる。
コンダクトリスクへの理解を深めるために、具体的なミス・コンダクト事例を紹介します。たとえば、野村証券による「早耳情報」を巡る情報漏えい事案はその典型です。
金融庁が公表した「野村證券株式会社及び野村ホールディングス株式会社に対する行政処分について」(2019年5月)では、「本件行為は、法令等諸規則に違反する行為ではないものの、一部特定の顧客のみに市場構造に関する東証における検討状況に係る情報を提供して勧誘する行為であり、資本市場の公正性・公平性に対する信頼性を著しく損ないかねない行為であると認められる」と指摘しています。まさに、法律等諸規則には反しないものの、市場の信頼性を著しく損ねる行為との厳しい批判とともに、行政処分が下されたという事例です。
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