コラム

法務関連 / 契約書 / 国際ビジネス契約書

国際ビジネス契約書のポイント【第1回】国際ビジネス契約における契約書の重要性(その1)

2019年10月07日

 初めまして。弁護士(日本国及び米国ニューヨーク州)の安田健一と申します。この度「国際ビジネス契約書のポイント」というタイトルで連載をさせていただくこととなりました。

 海外との取り引きは、今や企業にとって日常的に生じる可能性のある出来事です。また、市場拡大のために海外進出を検討されている企業もますます増えています。一方、海外企業との交渉、特に外国語で契約書を作成するときの交渉では、勝手がわからず苦戦されているご担当者も少なからずいらっしゃるかと思います。

 私は日本で弁護士としての経験を積んだあと、米国のロースクールへの留学と、中国・タイでの勤務を経て帰国し、今は国内外の企業法務を取り扱っています。この連載を通じて、海外企業とビジネスをするときに押さえておくべきポイントをご紹介させていただき、少しでもみなさまのお役に立つことができれば幸いです。

 まずは今回と次回の記事で、海外企業とビジネスをするときになぜ契約書が重要なのかという基本のポイントをご説明していきます。

■法律・文化・慣習が違うため、「話し合って解決する」ための前提がそもそも異なる

 海外企業との契約交渉を扱った方なら、日本の契約書と比べたときの契約書の長さ、細かさにへきえきとされたご経験がおありかと思います。しかし、国際ビジネス、特に欧米企業との取り引きの世界では、このような細かい契約書を作成する方が一般的ですし、適切であるといえます。

 なぜなら、国際ビジネスにおける契約書は「どこの誰が読んでも契約内容を明確に理解できること」を重要視しているからです。国によって法律、文化や商慣習は異なるため、こちらが当然と考えている前提も、相手にとっては非常識な要求になるかもしれません。

 たとえば、英米法では契約書に明記されない限り「不可抗力」による責任の免除は原則認められません。海外企業が提示してくる契約書のひな型に、延々と不可抗力事由(force majeure)が定められているのをご覧になった方もいるかと思いますが、あのように詳細な記載があるのは、契約書内に明記しておかないと認められない可能性が高い、という意識があるためです。

 「いわなくてもわかる」という期待、あるいは甘えを持っていないからこそ、海外企業は細かい契約書を準備してきます。私たちも、「あとで何か起きても、話せばわかってくれる」という姿勢ではなく、自社を守るため、要求すべきポイントや誤解を防ぎたいポイントは、すべて契約書の中に定めて記録に残しておく必要があります。

■しっかり契約書を作ることが、紛争の発生を防ぐ

 契約相手からの過度な要求や、トラブルが発生したときの責任の押し付け合いは、契約の条項が曖昧だったために発生してしまっていることが少なくありません。契約書は両当事者の理解を確認する記録であり、将来トラブルが発生したときにそれを処理する指針でもあります。

 海外企業との契約交渉や外国語の契約書に対して修正案を提案する作業は、慣れていないとハードルが高いかもしれません。ですが、ときにシビアな要求をしてくる海外企業に対して、曖昧な契約や、相手が一方的に有利な契約を締結することは非常に危険です。モノとカネが動く前のタイミングで契約書の交渉に時間とコストをかける判断は容易ではないかもしれませんが、海外での紛争に巻き込まれると、海外の弁護士費用等、手続きコストだけで莫大な支出を余儀なくされることになります。双方が契約の内容をしっかり理解し、円滑にビジネスを進められるように、腰を据えて契約交渉に臨みましょう。

 次回も引き続き、契約書の重要性について解説していきます。今後ともよろしくお願いします。

安田 健一
​​MENU