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仕事と介護は両立できる【第1回】なぜ、家族だけの介護は失敗するのか

2018年04月12日

 初めまして。NPO法人「となりのかいご」代表理事の川内潤です。「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」ことをミッションに、誰もが自然に家族の介護に向かうことができる社会の実現を目指して日々奮闘しています。

 私は自著『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』や介護セミナーなどで必ず「介護のために仕事を辞めてはいけない」「仕事を続けることこそ親孝行」という話をしています。親の介護と仕事はてんびんにかけなくてもよいのです。実際にどうすればそれを実現できるかについて、これからお話しできればと思っています。

■「自分で全部やらなきゃ」という思い込みを捨てる

 「介護は突然やってくる」という話をよく耳にしますが、ほとんどの場合、過去の病歴や日常生活の中に介護の予兆は存在します。しかし、家族にはそれが見えない。「見えない」というより、「元気でいてもらいたい」という思いから気付けないでいるのです。

 親が認知症や寝たきりになったら、「自分が面倒を見るしかない」と思い込んでしまうのも同じ理由からです。このとき、多くの人は自分の労働力しか視野に入っていません。
 
 しかし視野を広げれば、介護保険で日帰りのデイサービスや、数日間だけ預かってくれるショートステイ、自宅に居ながら訪問診療や訪問看護(投薬や体調管理)、リハビリや入浴、散髪だってお願いできます。食事についても宅配サービスがあり、訪問ヘルパーを利用すれば家事を代行してもらうことだってできます。「自分で全部やらなきゃ」というのはただの思い込みにすぎません。その気になれば、ほとんどのことはプロの手を借りることで解決できるのです。

■プロであっても「自分の親」の介護は難しい

 自分や家族だけで介護をするのは本当にたいへんで、私のような介護のプロですら、自分の親が介護状態になったときには「できない」と思ってしまいます。

 なぜなら、介護する人の元気だったときの姿を知っているからです。「かつての状態」と「今の状態」とを比べてしまうからこそ、その落差に苦しんでしまうのです。この心理的な負担は、想像以上に大きいものです。しかも自分だけ、家族だけで介護をしようと思うと、その負担から仕事を辞めざるを得なくなるかもしれず、経済的な安定も失いかねません。
 
 たとえば、訪問入浴1回あたりの負担は1500円くらいです。本当は週3日来てほしくても経済的に余裕がないと、週1日だけ。親の体が便まみれになっても、全部自分できれいにするしかありません。親と一緒に自宅に引きこもり社会と隔絶された状況でストレスをためてしまう......、ふとした拍子で虐待につながった、というケースをたくさん見てきました。決して自分一人でやろうと思わず、いろいろな人を頼りながら、チームで介護をしていきましょう。介護も、「親の面倒を見るために仕事を辞めなきゃ!」と思い悩むより、「親がたいへんだからがんばって稼ごう!」と前向きに気持ちを切り替えた方がうまくいきます。

■家族だけで最期まで面倒を見るのは難しい

 特に認知症は日々症状が進行するので、親を思う気持ちが強い方ほど、向き合っていくのが難しいという面があります。著名人が認知症のパートナーを一人で介護し、みとったなどという"美談"が報じられますが、そうしたケースはまれです。認知症の方を家族だけでケアするのは、介護する側にとっても、される側にとっても良い状況とはいえません。

 また、一人で介護する中で、自分流の介護の「型」もでき上がっていきます。着替えるときはこの順番といったように「型」ができると、介護スタッフがその通りにやらないと出入り禁止にしてしまうなど、ますます「自分でやるしかない」という状況ができ上がってしまいます。誰かに任せるハードルを乗り越えた先に、あなたにとっても、被介護者にとってもプラスになる介護の選択肢があります。

■仕事を辞めずに人に任せる心構えを持つ

 実践的な知識やテクニックは、介護が始まってしまえばどうとでもなるものです。ケアマネージャーや周囲に十分に頼り、任せることができれば、彼らが知識不足をカバーしてくれます。
 
 いちばん大切なのは、「仕事を辞めずに人に任せる」というマインドセットです。心構えさえしっかりしていれば、少なくともパニックになったり、初動の段階で致命的なミスを犯してしまったりすることもなくなるでしょう。

川内 潤
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