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国連の指導原則やイギリスの現代奴隷法に対応すべく、2016年に人権方針を公表したANAホールディングス。国内の前例がほとんどない中、担当者は多方面から話を聞き、人権DDへの理解を深めた。それから6年。ここまでの評価と今後の展望を聞いた。
取材・文◎武田 洋子
五輪を契機に人権問題を意識不完全でも、まず情報開示を
ANAグループが人権DDに取り組んだきっかけは3つ。1つは、東京五輪だった。来日する各国の人々を運ぶ航空会社として、オリンピック憲章に沿った人権の取り組みを意識したのだ。2つ目はイギリスで現代奴隷法が制定されたこと。同国内で事業活動を行い、かつ年間の売上高が一定基準額を超える企業に対し、奴隷労働や人身取引への対応措置公表を義務付けるもので、ANAグループも対応を迫られると考えた。最後は、ANAの制作したCMが当時「ステレオタイプな人種表現である」として批判され、放映中止に至ったことだ。この3つが2014年から2015年の間に次々に起こり、社内でビジネスと人権に関する危機感を強く意識するようになった。「企業として人権方針を策定すべきだ」という声が上がり、その担当者となったのが杉本茂さんだった。
まだ国内に前例がほとんどなかった頃だ。杉本さんは人権に関する有識者やNPOなどに話を聞き、「人権方針」策定の重要性を経営陣と共有した。国連の指導原則に沿った自社の人権方針を公表したのは2016年。2018年には日本で初めて「人権報告書」を発行し、各界から注目された。
「人権方針策定の検討に際しては、客観性を担保するため、一時的ではなくずっと伴走してくれる外部パートナーを探しました。そうして組ませていただいたのが、特定非営利活動法人経済人コー円卓会議日本委員会(CRT日本委員会)です。以来、今日までずっと当グループの人権DDを支援してもらっています」(杉本さん)
人権報告書の公表については社内から反対もあった。幅広いサプライチェーンを抱えるANAグループが想定する人権リスクは、多様かつ膨大だ。1年や2年でその全てに完璧に対応することなど不可能であり、「完璧でないものを公表することこそリスクが大きいのでは」と懸念する声もあった。これに対しても社外の有識者や機関投資家と対話し、公表しないことは社外から見れば何もしていないのと同じであり、逆に何か隠ぺいしているのではないかと疑念を持たれる可能性があるとのアドバイスを受けた。
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