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国連の指導原則で定められた人権デュー・ディリジェンス(DD)。日本でも2年前に国内行動計画(NAP)が公表されたが、企業への影響はどのくらいあったのだろうか。今夏には実践に焦点を当てたガイドラインが公表予定であり(7月末現在)、関心が高まっている。世界の潮流や日本の動向についてEY Japanの名越正貴さんと大内美枝子さんのお二人に取材した。
取材・文◎武田 洋子
「指導原則」以降、先行して取り組む企業も
人権尊重が国際的な課題として浮上したのは、第二次世界大戦後だ。その頃から国境を越えたビジネスが盛んになり、1990年代になるとサプライチェーンに組み込まれた途上国の労働問題が顕在化する。国際人権団体などからの指摘を受けて、国連も多国籍企業の活動を規制するルールを提言したが、当時は反対の声が大きく、成立には至っていない。それでも人権を守るために、国際的なコンセンサスは必要とされていた。
潮目が変わったのは2005年。ハーバード大学のジョン・ラギー教授が、「企業と人権」に関する国連事務総長特別代表に就任したのだ。教授は経済界をはじめとする関係者とのネットワークを構築しながら枠組みをつくり、2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を提唱する。名越正貴さんは、この人権理事会の決議の場に居合わせたが、47の理事国が全会一致で支持するという非常に珍しいケースだったと当時を振り返る。
「1990年代に紛糾した経緯を乗り越え、人権尊重に関する企業の責任感がある程度醸成されていたということもありますが、NGOなどの市民社会や企業関係者をうまく巻き込んだラギー教授の功績でもあります」
「ビジネスと人権に関する指導原則」は、「人権を保護する国家の義務」「人権を尊重する企業の責任」「救済へのアクセス」の3つの柱で構成される(図表1)。
決議の結果を受け、各国では実施に向けた行動計画の作成に着手した。2013年からイギリス、イタリア、オランダ、ノルウェー、アメリカ、ドイツ、フランスなどが相次いで自国の行動計画を公表している。後れを取っていた日本がようやく行動計画を公表できたのは、2020年の秋だ。
「日本らしい配慮もあり、関係各所の調整に時間がかかってしまったという一面は否めません。関係省庁も、日本企業がどれだけ付いてきてくれるのか判断しかねたのでしょう。しかし全ての企業が世界から遅れていたわけではありません。一部の企業は人権リスクの重要性を理解し、政府の施策に先行して取り組みを始めていました」(名越さん)
EY Japanには2015年から、海外取引先からの人権尊重要請への対応、人権方針策定支援などの相談が寄せられていた。これらの先行企業には明確な傾向がある。
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