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少子化が進む日本にとって、外国人労働者やその子供たちは希望であるはずだ。しかし、外国人にとって日本は暮らしやすい国ではない。「ドアを叩いてくれた人すべてに応えたい。」と起業した渡辺郁さんが考える人権とは、大上段に構えたものではなく、目の前にいる人と真摯に向き合うことだった。
取材・文◎武田 洋子
在日外国人の生活をサポートするために起業
山梨県甲府市を本拠地とする株式会社アンサーノックスは、従業員数16人。その小さな会社が昨年の秋、外務省が公表した「『ビジネスと人権』に関する取り組み事例集」に掲載された。代表取締役である渡辺郁さんは、2008年に同社を設立している。起業を決心させたのは、外国人労働者を取り巻く環境の悪さだった。
「日本語ができないと、履歴書の記入や面接の受け答えができません。選択肢がないので同国人が経営する会社に入るのですが、そこでは実際には払われていない保険料が天引きされるなど、同族搾取がまかり通っていました。子供の学校や役所から届く書類の翻訳を会社に頼むと、1枚2,000円も取られていたのです。欠勤の事情をうまく説明できず、周囲に誤解されているケースもありました。そうした現状に憤ったのが起業の理由です。不就学児童も少なくなく、その子たちが将来にわたって日本で暮らすなら、これはもう国全体の問題だと思いました」
渡辺さんは、外国人労働者の派遣事業を始めた。しかし、本当にやりたかったのは生活全般のサポートだ。「働く人から1円も取らない」を信条に、免許を持たない家族の車送迎や履歴書の代筆を無料で行い、ときには学校の三者面談にも付き添った。
社名のアンサーノックスには、人種、国籍、性別、年齢、障がいの有無、宗教、文化、ライフスタイル、性的指向にかかわらず、「ドアを叩いてくれた人すべてに応えたい。」という想いが込められている。起業直後のリーマンショックや2011年の東日本大震災など、労働需要が落ち込んで派遣先の企業を探すのに苦労した時期もあったが、少しずつ理念に共感して契約する企業が増えていった。
設立から14年が経ち、社会は変化した。外国人がコンビニエンスストアで働く姿も、もはやごく当たり前の風景だ。貴重な労働力を集めるため、これまで有料だった翻訳などのサポートを、多くの企業が福利厚生の一環として無料提供するようにもなった。
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