総務のマニュアル従業員の自律性を高める ジョブ・クラフティング実践法

上司が仕事を用意する時代はもう終わり……今、注目される「ジョブ・クラフティング」とは何か

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員 藤澤 理恵
最終更新日:
2023年12月05日
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近年、「ジョブ・クラフティング」という学術研究から生まれた考え方が、産業界において注目されています。ジョブ・クラフティング研究は、経営学・組織行動論の分野において、2001年にその考え方のルーツとなる論文が発表されたのち、2010年代に実証研究が増え始め、その後さらに10年を経て多くの論文が蓄積されてきています。日本の産業界でも注目が高まり、ビジネスパーソン向けの解説記事や書籍を目にする機会も増えました。本企画は、そんなジョブ・クラフティングについて3回に分けて解説していきます。第1回となる今回は、ジョブ・クラフティングという考え方の特徴について理解していきましょう。

2人の経営学者によって提唱されたジョブ・クラフティング。その考え方の特徴とは

ジョブ・クラフティングという考え方は、エイミー・レズネフスキー氏とジェーン・ダットン氏という2人の経営学者によって2001年に提唱されました。仕事を自分にとってやりがいや手応えのあるものに自らつくり上げている人と、そうでない人の違いに着目し、その考え方や行動をジョブ・クラフティングとして概念化しました。

彼らの初期の研究では病院の清掃員や、レストランの調理師など比較的裁量の幅が狭いように見える仕事が取り上げられていますが、その後、企業の管理職や企画職などを対象とした研究も行われています。仕事にやりがいや手応えを感じている人々は、定められたタスクを淡々とこなすだけでなく、自分の価値観や強みに合わせて、仕事のタスクや他者とのかかわりをデザインし直して(リ・デザインして)いたのです。具体例は次回ご紹介します。

学術研究論文においては、レズネフスキー氏とダットン氏による「個人が自らの仕事のタスク『境界』もしくは関係的『境界』においてなす物理的および認知的変化」という定義が必ずといっていいほど引用されます。この「境界」という見慣れない表現が、ジョブ・クラフティングという考え方の特徴の源泉となっています。

「境界」と表現されているのは、自分の仕事を決める「枠」のようなものと考えてみてください。この仕事で行うタスクはあれとこれで、その過程で誰とかかわって、こういう意味のある(この程度の意味しかない)仕事なんだ、ということを思い定める「枠」です。それは、上司や関係者から提示された「枠」でもあり、自身が思い込んでいる「枠」でもあります。この「枠」が、高くて分厚い壁に思える場合もあるでしょう。

しかし、そうでなく、可動式のデザイン性の高い間仕切りをイメージするならどうでしょうか。それらを自分の考え方や工夫次第で、あるいは上司や同僚との相談次第で、一部を組み直したり、飾り付けたり、取り払ったり、ほかの人の仕事とつなげたりもできるとしたら、少しずつでも仕事の意味やそこで経験する出来事が変わっていくような気がしませんか。

自分の仕事や役割の範囲内にあるものとそうでないものを隔てる認知的な境界線を新しく引き直すことで、自分自身の仕事における経験がガラッと変わってしまうこともある、そこに着目したのがジョブ・クラフティングです。

ジョブ・クラフティングはジョブ・デザインとどう違うのか

ジョブ・クラフティングという考え方の特徴を理解するために、もう少し背景についてご紹介します。こうしたジョブ・クラフティングの考え方は、ジョブ・デザインという考え方と対になるものとして提案されました。経営学におけるジョブ・デザイン研究は、経営効率の追求だけでなく、働く人のモチベーションを引き出すような仕事の設計(ジョブ・デザイン)とはどのようなものかについて、半世紀以上の研究蓄積がある分野です。

たとえば、人は細切れのタスクではなく、それが意味のある結果につながっていると感じられ、しかも自分のスキルをさまざまに生かしたり伸ばしたりできている手応えのある仕事をおもしろいと思うことがわかっています。また、仕事上の裁量や組織内外の人とのかかわりが、仕事の意味付けやモチベーションに影響を与えることが繰り返し実証されています。

ジョブ・クラフティングは、こうしたジョブ・デザイン研究が長らく見落としてきた視点に光を当てました。それは、組織や上司からの指示によってトップダウンでデザインした「誰もが満足するはずの仕事」だけで十分なのか?という視点です。働く個人は、与えられたデザインをただ受け取るだけでなく、ボトムアップでカスタマイズする能力と主体性を持っている。そんな個人の存在に光を当てたのがジョブ・クラフティングという考え方でした。

上司や組織が、より良いジョブ・デザインを考える努力をする必要がなくなったということではありません。ジョブ・デザインとジョブ・クラフティングは、どちらもより良い仕事を生み出すプロセスに欠かせないものです。両者は、組織・上司が、意味ある仕事をデザインし、個人がカスタマイズを加えるという、協力関係にあると考えられるようになってきたのです。

ジョブ・クラフティングが産業界で注目される背景

産業界でジョブ・クラフティングが注目されるようになったのも、トップダウンからボトムアップへの着目という、同様の意識転換が起こったからではないかと考えられます。「キャリア自律」という言葉が盛んにいわれるようになりました。また「ジョブ型」の人材マネジメントのトレンドもそこに重なっています。組織が、全ての個人の期待を満たすような仕事や仕事人生を用意することは難しくなったと考えることもできるでしょう。そうした環境変化に伴い、多くの個人の考えが、組織の内外にある仕事(ジョブ)は他人から与えられるものではなく自分で選び取っていくものであり、それによって職業人生(キャリア)を自らデザインしていくのだというように変化してきたことを感じます。

そのような時代にジョブ・クラフティングという考え方が注目されるようになったのは、必然でもあり、幸運なことでもあると感じています。必然だというのは、ここまで述べてきたように、ジョブ・クラフティングが個人の自律性や主体性に着目する概念だからです。幸運なことでもあると申し上げたのは、個人の主体性に関連する数ある概念の中でも、ジョブ・クラフティングが仕事の境界で行うとても小さな活動に着目しており、より多くの人にとって手の届きやすいものと感じられるはずの考え方だからです。

レズネフスキー氏とダットン氏は、働く個人をジョブ・クラフターと呼び、「職人」のイメージを重ねています。その言葉から、私は、素材の温かみや作り手のこだわりや持ち味を生かしながらも高い品質を実現するプロフェッショナルというイメージを受け取ります。また職人は、経済的価値を生み出すだけでなく、社会を豊かにする文化の担い手でもあります。そのようなイメージを踏まえて考えると、ジョブ・クラフティングを行う仕事人生は、出来合いの仕事(ジョブ)を選んで組み合わせていくだけの仕事人生ではないはずです。自分が仕事やキャリアに対して思い定めている「枠」を捉え直し、自分や同僚が納得できる手触り感のある仕事を工夫してつくり上げ、顧客や社会にも良い影響を与えるような仕事を生み出していくイメージが、今これからの時代にとてもフィットしていると思うのです。

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著者プロフィール

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株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所 主任研究員
藤澤 理恵

人事制度設計のコンサルティングや、研修開発、組織調査などに従事したのち現職。
東京都立大学大学院 社会科学研究科 経営学専攻にて、2021年博士号取得。同大学博士研究員。「ビジネス」と「ソーシャル」の間の「越境」、仕事を自らリ・デザインする「ジョブ・クラフティング」「HRM(人的資源管理)の柔軟性」などをテーマに研究を行っている。
経営行動科学学会第18回JAAS AWARD奨励研究賞(2021年)・第25回大会優秀賞(2022年)、人材育成学会2020年度奨励賞受賞。

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