月刊総務プラス

『月刊総務』本誌記事:

総務パーソンが押さえておきたい4月のトピックス

2020-03-31 10:40

■法務

執筆/小沢・秋山法律事務所 弁護士 香月裕爾


●会社法改正による社外取締役の義務化

 会社法改正によって、「監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る)であって金融商品取引法24条1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない」と規定されました。そこで問題となるのは、社外取締役が欠けた場合にどうすべきかという点です。
 特に唯一の社外取締役が死亡等によって欠如した場合、有効な取締役会決議ができるのかという問題が生じます。余裕を持って2人以上の社外取締役を選任することも考えられますが、監査役会設置会社では、監査役の半数が社外監査役であることから、4人の社外役員を選任することとなります。しかし、中小規模の上場企業もあるので、これは非現実的との声もあります。
 そこで、補欠の社外取締役を選任することが考えられます。会社法329条2項では、「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて補欠の役員を選任することができる」と定めています。
 ただし、実際に現任の社外取締役が欠けたときから社外取締役に就任することとなります。また、社外取締役の選任決議が効力を有する期間は、定款に別段の定めがない限り、当該決議後最初に開催する定時株主総会の開始のときまでとされています(会社法施行規則96条3項)。

■労務

執筆/斉藤社労士事務所 特定社労士 斉藤貴久


●時間単位の子の看護休暇・介護休暇

 2019年12月27日、育児・介護休業法施行規則が改正され、子の看護休暇と介護休暇について時間単位の取得が可能となりました。すでに、半日単位の取得は義務化されており、今回の改正はそれを一歩進めるものです。これまで対象外となっていた、1日の所定労働時間が4時間以下の短時間労働者についても、休暇を取得できるよう改正されています。
 改正省令の施行日である2021年1月1日までに、企業は就業規則や労使協定の改定を実施する必要があるでしょう。また、勤務管理システムの改修が必要になるかもしれません。1日の所定労働時間が八時間であれば、あまり問題になりませんが、端数の時間がある場合には1時間単位に切り上げて休暇を管理する必要がありますので注意が必要です。

●中途採用者比率の公表義務

 従業員300人を超える大企業は、2021年4月1日から中途採用者比率の公表が義務化される見込みです。大企業が新卒一括採用に偏ることなく、中途採用を拡大することが意図されています。直近3事業年度において、正社員に占める中途採用者の構成割合について、企業のホームページ等を利用して定期的に公表することが想定されています。パワーハラスメントの防止で注目される「労働施策総合推進法」に盛り込まれる予定です。

■税務

執筆/税理士法人AKJパートナーズ


●未婚のひとり親に対する所得控除

 2020年度税制改正大綱において、婚姻をしていない者のうち次の要件をすべて満たす者※は、その年分の総所得金額等から35万円(住民税は30万円)を控除するという、未婚のひとり親に対する所得控除が議論されています。
●生計を一にする子(総所得金額等が48万円以下)を有する
●本人の合計所得金額が500万円以下である
 なお、婚姻をしていない者のうち、住民票に「未届の夫」または「未届の妻」の記載がある(事実婚)場合には、本規定は適用されません。

●キャッシュレス決済の加盟店手数料補助に係る消費税の取り扱い

 2019年10月からの消費税増税に伴い導入された「キャッシュレス・消費者還元事業」において、小売店等の加盟店事業者が決済事業者に支払う加盟店手数料の3分の1を国が補助する制度が実施されています。この補助金は、決済事業者を通じて加盟店事業者に入金されますが、国庫補助金を財源とした補填(ほてん)金であり、資産の譲渡等の対価として支払うものではないため、補助金に係る消費税は不課税です。
 決済事業者が加盟店事業者に対し、加盟店手数料からその補助金相当額をあらかじめ控除して請求している場合においては、控除された補助金相当額を誤って「手数料の値引き」として処理しないよう、留意する必要があります。

※寡婦・寡夫を除く

『月刊総務』2020年4月号P7より転載

 

『月刊総務』本誌記事:

【総務部門】4月の業務ポイントと行事

2020-03-30 16:20

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◆4月の業務ポイント

【新入社員の社内研修の実施】

 新入社員に、活躍人材として成長してもらうためには最初の研修は非常に重要です。ビジネスマナーや社会人の基礎スキルを網羅的に習得させ、社会人になったという自覚を持てるように、研修を通じて新入社員の意識を変えていきましょう。

●新入社員研修の設計の流れ

(1)受講者のレベルを把握
(2)目的・項目の洗い出し
(3)研修期間の確認
(4)適切な手法を検討(グループワーク・ディスカッション、座学、OJT、ロールプレイング・ケーススタディー、レクリエーションなど)
(5)カリキュラム・スケジュール作成
(6)受講者への案内
(7)研修の実施
(8)振り返り・報告書作成

◆4月の月間&週間行事

▼4月6日-15日
・春の全国交通安全運動(国土交通省)
▼4月6日-12日
・春の新聞週間(日本新聞協会)
▼4月15日-5月14日
・みどりの月間(林野庁)

◆世界旅行気分

▼レバノン共和国(Lebanese Republic)
lebanon.jpg 西アジア・中東に位置する共和制国家。北から東にかけてシリアと、南はイスラエルと隣接し、西は地中海に面している。内戦が起こる前の首都ベイルートは、かつて「中東のパリ」と呼ばれ、金融やビジネスの中心地としても栄えた。中東といえば砂漠をイメージしてしまいそうだが、レバノンは中東で唯一砂漠がない国で緑に囲まれた自然豊かな国。ヨーロッパでは観光地としても有名だ。とはいえ、日本では保釈中だった前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告の逃亡先としての方が有名だろう。ゴーン被告以外で有名なものとしては、レバノン料理がある。豆や野菜を中心として、スパイスやハーブをふんだんに使った優しい味付けのメニューが多い。ヘルシーでおいしいと、最近日本でも注目が集まっている。


【DATA】(外務省HPより)
●人口:610万人(2018年)
●面積:1万452km2(岐阜県程度)
●首都:ベイルート
●言語:アラビア語



『月刊総務』2020年4月号P6より転載

 

『月刊総務』本誌記事:

【総務の現場から】階級も役職もなく、価値観を軸に エンゲージメント高く働ける会社

2020-03-13 10:00

誰もがイキイキと働ける理想の組織創りを優先

 2003年創業の同社は、成功報酬型求人メディア「Green」を主力事業とし、「世界中の人々を魅了する会社を創る」とのビジョンの下、事業領域を拡大。現在、エンゲージメントの測定サービス「wevox」、ビジネスマッチングアプリ「yenta」を加えた3事業を柱に展開している。2016年、東証マザーズに上場し、2018年東証1部に市場変更。働きがいのある会社ランキング(国内)のベストカンパニーには3年連続選出されている。とはいえ、社員のエンゲージメントを向上させようと、特別な取り組みをしているわけではない。「会社のために自分はどういう貢献がしたいのか。自分からしたいという感情があるから、そういう行動が生まれ、結果的に組織が良くなって、エンゲージメントが高い会社になる。そういったイメージの方が私たちにはしっくりきます」と、谷口孟史さんは話す。
 そもそも同社は、「理想の組織を創りたい」というトップの思いから生まれた会社。同社の代表の新居佳英さんは就職活動時、サラリーマンの姿に希望が持てず、唯一、いいなと思えたのが、スポーツ選手やアーティストだったという。それは、やりたいことに没頭しているからだと感じた。そんな思いがきっかけとなり、新居さんは他社でビジネスの経験を積んだあと、同社を起業。そのときから、「意欲ある人が無駄なストレスなく仕事に没頭できる、イキイキと働ける会社」であることを大切にしてきた。無駄なストレスとは、上司と部下の関係や、出世争い、派閥など。ゆえに同社は役職や階級のないホラクラシー型組織だ。そうした創業の経緯もあり、イキイキと働ける風土を大切にしてきた結果、エンゲージメントが高い会社として認知されるようになっていたという。

コアの価値観を軸にしたぶれない判断がポイント

 同社にとって、「組織に貢献したい」という気持ちがわく風土を維持することは大前提。そのためには、経営がビジョンを語るのはもちろん、採用も働き方も、すべては「無駄なストレスなく、イキイキと働けるか」を判断軸にしてきた。中途採用だと軸がぶれる人もいたので、同じ思いを持つ人を新卒から育てる形を大切にしている。採用基準は、いわゆる利他、ワン・フォー・オールの考え方の人。施策で重視しているのは、情報の透明化だ。会社の情報には全社員がアクセスできる。議論も、社内チャットツールなどオープンな場で行われ、1対1のダイレクトチャットは原則禁止。情報格差がストレスになるからだ。また、月に1回、全社員参加で、会社の価値観やビジョンについて、さまざまなテーマでディスカッション。「理想の組織を創る」という原点に立ち返っている。

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仕事ぶりは成果ではなく、貢献を360度評価で見る

 働き方の自由度は高い。コアタイムなしのスーパーフレックス。仕事も、事業部ごとにやることは決まっているが、誰が何をするかは自由。自ら手を挙げる、あるいは、みんなで相談して決める。「子供も、遊ぶときと学級会ではリーダーが違いますよね。ビジネスでもそのときどき、自然とそれに長けている人がリーダーシップを取るのが理想的。その方が、生産性も上がると考えています」。部門を超えての仕事も多い。組織を良くするためのプロジェクトもある。「私は、『Green』に属して、企画の仕事をしていますが、ほかに、評価制度、社内クレドの策定、内部統制のプロジェクトを持っています。時間の割合としては、本業の方が少ないですね」。
 もちろん結果は求められるが、それも、自分たちで「この人はどれだけ貢献したか」と360度評価で決める。ノルマはない。目標は半年に一度、自分で決める。「1、自分が人生で何をしたいか 2、自分が周囲から期待されている貢献は何か」の2つの問いに対する答えの重なる部分を目標とし、全社に公開する。大事なことは、どちらかを犠牲にするのではなく、どちらも取る方法を考え続けること。「会社はそれを応援します。たとえば、子供と一緒にいたいけれど、会社での貢献も落としたくない、という人には、リモートワークするなり、会社に子供を連れてくるなりしていいよ、との形で応える。そうやって、その人なりの貢献や、いろいろな方面からのアイデアが集まることで、組織は強くなっていくのではないでしょうか」。

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人が嫌がる仕事こそ評価が上がるチャンスに

 当然、誰もやりたがらない仕事が出てくることもある。が、同社の評価は貢献で決まる。誰もやったことのない重要な仕事をした人は、会社に貢献していることになり、評価は上がる。あるいは、誰もやりたがらない仕事なら、なくす方法を考えることも。ちなみに、みんなが嫌がる煩雑なチェック作業を伴う業務があったが、それは、社内のエンジニアに頼んで自動化した。
 「やらされ仕事が生まれた瞬間に、好きな仕事をしている人と、そうでない人という偏りができる。その瞬間に当社の考え方とずれてしまう。基本的には、自分が貢献につながると思ってやっている仕事だけにしたい。多少コストがかかっても、結果、生産性は上がるという考え方です」
 今後の課題は、新しい価値を生み出していける人材をいかに育てていくか。事業もやりたい人が手を挙げて、立ち上げるのが同社のやり方。一人ひとりがそういう能力を身に付けていけたら、と考えている。「あとは、一人ひとりの生きがいを仕事に組み込むという当社のやり方が、価値あるものなのか。それを世に問うていくことが一番のチャレンジ。最終的には一つのグッドケースとして、世の働き方が変わっていくきっかけになればうれしいです」。
 同社のやり方は特別に思えるかもしれない。しかし、会社の価値観を見直して、あらためて宣言し、それに基づいた判断を徹底していく。そこからなら、どんな企業でも始められそうだ。


【会社DATA】
株式会社アトラエ
本社:東京都港区三田1-10-4 麻布十番日新ビル2F
設立:2003年10月24日
代表者:代表取締役 新居佳英
資本金:10億9,800万円
従業員数:54人(2019年12月31日現在)
https://atrae.co.jp


 

『月刊総務』本誌記事:

【緊急企画】新型肺炎から社員を守る 企業の対応策(2)

2020-03-09 10:00

流行の初期段階に行う社内の感染防止対策

新型インフルエンザ、新感染症ともに、流行の初期段階においては体内に免疫を作るためのワクチン、あるいは特効薬のようなものが存在せず、また作製するのにも時間がかかります。そのため、微生物による感染症を防止するためには、そもそも感染しないことが重要になります。


感染ルートを把握して対策を検討

 感染防止対策を行う際には、「感染方法」を確認することが重要です。
 新型インフルエンザや新型コロナウイルスの感染ルートは、「飛沫感染」と「接触感染」です。「飛沫感染」は、感染者の咳やくしゃみでまき散らされた「飛沫」を、別の人が直接吸い込むことで生じます。「接触感染」は、感染者が自分の咳やくしゃみを押さえた手で周囲のモノに触れ、ほかの人がそのモノに触れた手で自分の目や鼻や口などの粘膜を触ることで生じます。
 つまり、「(1)感染者がウイルスをまき散らさない」「(2)まき散らされたウイルスを除去する」「(3)手指を消毒し、不用意に自分の目や鼻や口を触らない」という対策を講じれば、感染リスクを低下させることができます。いわゆる「咳エチケット」や「手洗いの徹底」は、これらに有効であるため推奨されているのです。
 致死率が低いということが明らかになれば、そこまで厳重な対策を取る必要はありませんが、致死率が高い場合、あるいは国内流行の初期段階でまだ判断ができない場合は、社内の感染防止対策を実施するとよいでしょう。

マスクは感染防止ではなく拡散防止に役立つ

 ドラッグストアなどで手に入る"普通"の高機能マスク(サージカルマスク)は、正面の咳やくしゃみはある程度ブロックすることができますが、上下左右に隙間が空いているので飛沫を完全に防御することはできません。一方、感染者がマスクを着用すると、咳やくしゃみの拡散防止に効果があります。感染が明らかであれば確実にマスクを着用させましょう。よくわからない場合や、症状が出る前に感染力を持つタイプのウイルスの場合は、社内の全員がマスクを着用するのが効果的です。

マメな手洗いとモノの消毒はほかの対策とセットで行う

 こまめな手洗いや、感染者が触れやすいモノの消毒は有効です。ただし、ウイルスや感染症の原因となる微生物の種類により、有効な消毒方法が変わりますので確認が必要です。新型インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスは、石けんによる手洗いやアルコール消毒が有効です。モノの消毒については、次亜塩素酸ナトリウムの希釈水を布や紙に含ませて拭き上げる方法も効果があります。
 ただし、手指の消毒をした直後にトイレの蛇口やドアなどの「モノ」に触れると、その時点で手にウイルスが付着します。この状態で自分の目や口などに触れると感染する恐れがあるため、手洗いは「不用意に目や口に触れない」という啓発とセットで行わなければ意味がありません。
 また、ドアノブ・スイッチ・手すり・事務機器・トイレ周りなどを消毒しても、新たなウイルスが付着するのでは意味がありませんから、感染者のマスク着用や、くしゃみを手で受けないなどの「咳エチケット」対応とセットで行うことが重要です(図表4)。

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国内流行が広がる状況において必要な対策とは

致死率が高い、あるいはまだはっきりしないウイルスによる感染症が国内にも広がる場合は、さらなる対策の強化が必要になります。具体的には、対面による接触時間の最小化で、ポイントは「密室」を避け、「集団」化させず、「距離」を取ることです(図表5)。

不要不急の会議や出張の抑制

42-43_5.jpg まずは「会議」の抑制です。密室で、複数人が、長時間にわたり会話を交わす会議は、重大な感染ルートになる可能性があるためです。重要でない会議・集会・朝礼などをできるだけ減らし、時間を短くし、どうしても必要な場合は全員がマスクを着用、会議前後に会議室のドア・スイッチ・机・ホワイトボード器具などの消毒を実施します。
 次に「出張」の抑制です。新幹線や航空機などを用いる長距離移動は、不特定多数と長時間空間をともにするため、飛沫感染・接触感染が生じやすい環境です。また、自社周辺に感染者が少ない状況で、感染者の多い地域や大都市へ移動することは、感染確率を高めることになります。会議を含めてオンラインでの対応に切り替えることなどが必要です。

時差出勤の実施や通勤手段の拡大

 さらに対策を推進する場合は、通勤や業務空間における人との接触を減らす対応を行います。
 都市部に事業所があり、電車通勤の社員が多い場合は、「時差出勤」を検討します。満員電車は濃厚接触による飛沫・接触感染が非常に生じやすい環境です。一時的にでも時差出勤制度を導入し、満員電車に乗らずに済むようにすることで、通勤時の感染確率を低下させることができます。時差出勤制度は、台風や大雪などの影響で鉄道の遅延や計画運休が行われる際にも有効ですので、感染症対策に限らず導入をしておくと役立ちます。

リモートワークによる在宅勤務

 社内の感染防止対策としてもっとも有効な方法は、そもそも出勤させないことです。リモートワークによる在宅勤務ができれば、通勤やオフィス内の濃厚接触による感染リスクを限りなく減らすことができます。業種によってはリモートワークが難しい職種も多くありますが、一人の出社を減らすことができれば、それだけオフィスにいるほかの社員への感染確率を下げることができますので、全員実施できないからやらない、というのは早計です。
 リモートワークによる在宅勤務は、大地震や浸水害などの自然災害発生時にも極めて有効な対策となりますし、平時の労働環境改善にも効果があります。また非常時にのみ取り入れる制度や仕組みは、いざというときにうまく運用できない可能性もあります。BCP専用にするのではなく、できるだけ平時から活用できるようにし、非常時に「も」使えるようにするのがよいでしょう。
 リモートワークによる在宅勤務が難しい業務については、出勤者の人数を減らす準備が必要です。感染のピーク時に最低限維持しなければならない業務はどれか、その業務を行うために最小限必要な人員は何人か、などを確認しておきます。出勤者を減らせれば、それだけ社内感染の可能性を低下させることができます。

 これらの対策は、あくまでも「致死率の高い感染症が国内で大流行」する場合の対応となります。流行シナリオをきちんと把握し、冷静な対応を行えるようにしましょう。

『月刊総務』2020年4月号P42-43より転載


 

『月刊総務』本誌記事:

【緊急企画】新型肺炎から社員を守る 企業の対応策(1)

2020-03-09 10:00

繰り返し発生する新感染症・新型インフルエンザ

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」の流行が騒がれていますが、このような感染症の突発的な流行、あるいはパンデミック(世界的大流行)の発生は、BCP(事業継続計画)において想定外の要素ではなく、織り込んでおかねばならない「自然災害」であるといえます。


繰り返し発生する新感染症

 世界ではさまざまな感染症が常に流行しており、国内で注目を集めたものだけを並べても図表1のように多岐にわたります。今回の流行と同じ「コロナウイルス」を原因とした、2002年の「重症急性呼吸器症候群(SARS)」と2012年の「中東呼吸器症候群(MERS)」などは、その致死率の高さが問題となりましたが、パンデミックには至りませんでした。また「エボラ出血熱」「ジカウイルス感染症(ジカ熱)」「新型コロナウイルス感染症」は、WHO(世界保健機関)から、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」が宣言されるなど、対策が必要な脅威として認識されています。

新型インフルエンザパンデミックはいつ生じてもおかしくない

 40-41_1_2.jpgまたパンデミックに発展した感染症としては「新型インフルエンザ」が挙げられます(図表2)。近代で最悪のパンデミックとなった1918年の新型インフルエンザ(スペインかぜ)は、世界人口の最大30%が感染し、2,000万-5,000万人が死亡したと推定されます。このときの「致死率(感染者÷死亡者)」は2.5%程度と推定されています。最近のパンデミックは、2009年に発生した新型インフルエンザで、WHOからパンデミック宣言が発表され、国内でも約2,000万人が感染しましたが、幸い致死率が「季節性インフルエンザ」並みであり、人類の脅威という状況には至りませんでした。
 新型インフルエンザは10年から数十年おきに生じており、次のパンデミックがいつ生じてもおかしくなく、致死率が高い(数パーセント以上)ものであれば、事業継続はもちろん、自分自身の生命の安全が脅かされる事態になる可能性があります。政府も、大地震や浸水害と同じく「いつ発生してもおかしくない脅威」として、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」の策定など、準備を行っています。
 しかし、大地震や新水害に被害の大小があるように、新感染症やパンデミックが常に事業継続の脅威になるとは限りません。致死率の高い感染症は恐ろしい対象ですが、国内で発生していなければ、少なくとも社員の安全に対する影響は最小限です。一方、致死率が低い感染症であっても、そう判明するまでは「よくわからない恐怖」の対象となり、パニック状態となる可能性がありますし、国内感染者が増加すれば一時的に業務に支障をきたします。

感染症流行のシナリオと確認すべき情報

では、こうした新しい感染症による流行が突発的に始まった場合、どのようなシナリオが考えられるのでしょうか。

感染力×致死率で予測する

 今回の新型コロナウイルス感染症に限らず、家庭や会社で感染症の流行の推移を見守る際には、「感染力(感染者数)」と「致死率(死亡者数)」の組み合わせで、その脅威や対応すべき方向性を推し量ることができます。
 図表3は、横軸に「世界レベルでの流行度合い」の高低を、縦軸に「致死率・影響度」の高低を表して、さまざまなウイルスがどのような特性を持っているかを表したものです。厳密な数値を表したグラフではないので、イメージをするための図として見てください。

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A:人類の危機「生命の安全を最優先し、最小の業務構成とする」

 事業への影響がもっとも大きいのは右上の「A」ゾーンで、一説に人類の25%を死亡させたという感染症「ペスト(黒死病)」や、近代最悪のパンデミックとなった1918年の新型インフルエンザ(スペインかぜ)」が当てはまります。流行中の感染症がこのゾーンに入る場合は人類の危機です。最大限の感染防止対策のほか、BCPを発動して事業所を閉鎖することなどが必要となる場合があります。

B:大騒ぎとなるが影響小「季節性インフルエンザと同じ対応で」

 右下の「B」ゾーンは、二十世紀に発生した「パンデミックとなったが死者はそれほど発生しなかった(といっても数十万-数百万人単位では生じていますが)新型インフルエンザ」が当てはまります。パンデミックが起きると全世界で数千万-数億人の感染者が発生するため、一時的にはパニック状態になりますが、「致死率が低く、感染しても命を落とす可能性は低い」ことがわかると、一気に沈静化します。
 2009年の新型インフルエンザも、流行の初期段階においては一時的に店頭からマスクがなくなりましたが、致死率が低いことが広く伝わるにつれて沈静化していきました。このような感染症が流行している場合は、季節性インフルエンザと同じような対応で十分です。

C:海外発生時は冷静に「国内発生時は要対策。適切な情報収集を」

 左上の「C」ゾーンは、致死率が高いため感染国では大変な状態となりますが、流行が広まらない国においては冷静な対応で問題なしという状況です。今回の新型コロナウイルスは、現在(記事執筆時点)このゾーンに当てはまります。中国以外で爆発的な流行が生じずに沈静化すれば、中国ビジネスが主力である企業以外への影響は最小限となります。
 国内での流行が増加した場合は、致死率が低下すれば「B」ゾーンへ移行するので大きな問題にはなりませんが、致死率2%程度を維持したままで爆発的流行となった場合は、社内でも死者が発生する可能性があるため、徹底した感染防止対策や在宅勤務などの対応が必要です。

流行シナリオを把握し、適切な対応を取るようにする

 新感染症や新型インフルエンザの流行初期は、さまざまな憶測が飛び交うため不安になりがちです。「感染力(感染者数)」と「致死率(死亡者数)」をきちんと調べ、両方が高い場合は対策が必要ですが、いずれかが低い場合の影響は最小限です。感染力は、感染者数が正しく発表されている間はコントロールされた状態にあるため、大きな心配はいりません。致死率は、当初は高い数字となりますが、検査キットなどが出回り「感染者数」が増加すれば、一般的に低下します。情報に一喜一憂せず、冷静な判断をしましょう。

『月刊総務』2020年4月号P40-41より転載

 

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