月刊総務プラス

『月刊総務』本誌記事:

【総務の現場から】時間に制約ある働き方を疑似体験!「なりキリンママ・パパ」研修

2019-05-13 11:56

疑似体験で、時間に制約のある働き方への理解を促進

 キリンホールディングス株式会社、キリンビール株式会社、メルシャン株式会社、キリンビバレッジ株式会社では、独自の働き方改革を実践している。同社の人事総務部多様性推進室室長の岩間勇気さんは、「キリンでは、新しい価値の創造に向けて常に新しいチャレンジをし、そこで得た学びを次のチャレンジに生かすという風土を大事にしています。働き方改革もその中の重要な要素として、さまざまな施策に取り組んできました」と話す。そうした中、取り組んだ施策の一つが、キリン独自の「なりキリンママ・パパ」研修だった。
 「なりキリンママ・パパ」は、育児や介護など、時間に制約がある働き方を1か月間体験するシミュレーション研修。本人はもちろん、組織全体で疑似体験することで、多様な働き方や立場への理解が進み、多様な人が活躍できる組織風土を醸成することを目的としている。

研修誕生のきっかけは、営業女性5人チームの提言

kirin01.jpg そもそも、この施策は、2016年、「新世代エンジョイカレッジ」(営業女性活躍推進のための異業種合同プロジェクト)で大賞を受賞した、キリングループの営業女性5人チームの提言から誕生したもの。その背景には、彼女らが抱える問題意識があった。男性は仕事優先で育児は手伝うものという文化や、ワークライフバランスを知らずに過去の成功体験だけで組織運営をしている上司、何より、営業ママのロールモデルが極めて少ないという現実に、「子供を産んだあとも営業部門で活躍し続けられるだろうか」との不安があった。「ならば、自分たちでできるかどうかやってみよう」と、時間に制約のある働き方を体験し、労働生産性をはかる1か月間の実証実験を実施。結果、残業時間51パーセント削減に成功。業績は前年を維持。「ママ営業も活躍できる!」との自信を得た。
 同時に周囲の意識にも変化が表れた。ある組織長は、「なりきりママ」が成長をしていくようすを目の当たりにし、「営業女性の活躍には、リーダーの意識改革がキーとなる。この取り組みは全社でやるべきだ」と人事に訴えた。「実際に営業部門で子育てと両立しながら働いている人はまだ少ない。ですからこうした取り組みでマネジメントする側も事前に準備をしていくことが大切だ、と実感されたのだと思います」。
 このメッセージも踏まえて人事で検討し、トライアル導入がスタート。労働生産性が高まるとともに、相互理解や、チーム対応、連携力といった組織力の向上が見られたことから、有効な施策だと経営側も判断。2018年2月、営業部門やコーポレート部門の約100人を対象に先行実施することになった。

「突発的なお休み」も発生予行演習で組織を強く

kirin02.jpg 研修内容は、育児、親の介護、パートナーの病気、の3つのシチュエーションから選べる形にブラッシュアップ。選んだ状況で起こるだろう制約のある働き方を1か月徹底する。基本NO残業。ただし、パートナーがサポートしてくれる(育児や介護をしてくれる)という設定の「配偶者サポート制度」を利用すれば、時間外労働は可能だ。
 「利用は週に1回というルールでしたが、現実の世界でもパートナーの意識は変わってきている。部署ごとに利用回数は変更可能としました」
 また、外部のベビーシッターを利用したと仮定し、代金を支払って時間外労働をする『ベビーシッター制度』も用意。利用代金は記録するだけでもいいが、実際に部門に預けて研修後に返金してもらう、合意の上で部門の懇親会経費に充てるなど、運用は部門に任せている。
 注目は、「突発的なお休み」も発生すること。システムがランダムに選んだ研修中の社員に対して、突然、「保育園に預けている子供が発熱した」というような電話が入る。社員は指示に従って、お迎えのために即時退社したり、看病で翌日は休むことになる。どうしても休めない日は、事前に配偶者サポート制度を申請しておく。ちなみに研修なので休んでも給与は発生する仕組みだ。また、休みや退社後の時間をどう使うかは自由。自分磨きをしたり、部門ごとに決めたカリキュラムを行ってもいい。ただし、仕事をするのはNG。「私の場合は、平日昼間の百貨店に行って、通常、行くことのできない時間帯にどんなお客さまがいらっしゃるのかを体感してきました」。
 これまでに研修を途中で棄権した人はいない。ただ研修後、働き方がリバウンドしてしまった人は少なからずいる。そこは意識改革ができるよう、労働生産性を評価制度に組み込むなど、人事としても考えていく。

多様な人材を生かすにはリーダーの意識改革が必須

 2018年2月から6月の先行実施では、所定労働時間約6割削減の生産性向上を実現。今年からは全国全部門で拡大展開していく。ちなみに、研修は全社員対象だが、優先順位は、(1)現在の管理職、(2)次世代の管理職候補、(3)育児や介護などの未体験社員、としている。
 「今後、一層両立事情を抱える人は多くなる。過去の成功体験や意識のままで組織運営をしていくわけにはいきません。管理する側もプレーヤーも、先にトレーニングをしておきましょう、というのがこの施策のコンセプトです」
 ただし、研修をやるかどうかは強制ではない。今後はまず、部門長が、この課題にしっかりと向き合い、自らの判断によって進めると準備をした部門だけに導入してもらう。「やるためにはどうするか。業務の分担や情報共有の仕方を考えたり、ITや在宅勤務などの仕組みをフル活用していくようになる。必要があれば上司自ら、お客さま先まで赴いて説明もするといったサポート体制も取りながら、部門主導で取り組んでいきます」。


【会社DATA】
キリンホールディングス株式会社
本社:東京都中野区中野4-10-2 中野セントラルパークサウス
設立:1907年2月23日(2007年7月1日持株会社化に伴い「麒麟麦酒株式会社」より商号変更)
代表者:代表取締役社長 磯崎功典
資本金:1兆20億4,579万3,357円
従業員数:30,464人(2018年12月31日時点)
https://www.kirin.co.jp/