総務のトピックス

【会計トピックス】:

「企業における営業秘密管理に関する実態調査」調査報告書について

2017-06-15 12:00

 独立行政法人情報処理推進機構は2017年3月、「企業における営業秘密管理に関する実態調査」調査報告書(以下「本調査報告書」)を公開しました。
 これは、近年の営業秘密漏えいに関する大型訴訟事件が発生している状況等を受け、営業秘密の保護強化に資する有効な対策の促進を図ることを目的としたものです。
 本調査報告書では、企業における営業秘密の漏えいの実態や営業秘密の管理に係る対策状況について調査・分析を行い、その結果をまとめています。
 本稿では、本調査報告書について、調査の概要と調査・分析結果のポイントを紹介します。


調査概要

1.調査期間

  2016年10月から2017年1月

2.主要実施項目

  アンケート調査
  無作為に抽出した12,000社に対しアンケート調査票を郵送、2,175社から有効回答(内訳は下表のとおり)。
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※ 業種または従業員数が無回答の24社については表に含まれていません。


調査結果のポイント

1.漏えい実態・営業秘密管理を取り巻く環境の変化
(1)漏えい実態

1.過去5年間における営業秘密の漏えい状況

・過去5年間に営業秘密の漏えいを経験した企業:8.6%(前回調査では13.5%)

2.営業秘密の漏えい発生ルート

・現職従業員等のミスによるもの:43.8%(前回調査では26.9%)
・中途退職者(正規社員)によるもの:24.8%(前回調査では50.3%)
・取引先や共同研究先を経由したもの:11.4%(前回調査では9.3%)

(2)営業秘密漏えいリスクの高まりを感じる社会動向の変化

1.過去5年間程度で感じる社会動向の変化の上位3項目

・標的型攻撃の増加:51.9%
・スマートフォン・タブレット機器等の急速な普及:51.4%
・データの活用機会の増加:41.8%

2.その他、過去5年間に営業秘密の漏えいを経験した企業が感じる社会動向の変化の主な項目

・人材の流動化:59.3%
・他社との協業・連携機会の活発化:29.1%

 漏えいを経験していない企業でも、日頃からこれらの観点を「社会環境変化に基づくリスク要因」として認識し、転職や他社協業に備えた施策が有用であることが示されています。
  

2.営業秘密漏えい対策への取り組み
(1)予防的な漏えい対策の遅れ

1.中小規模企業

 大規模企業と比較して、全体的に取り組みが遅れています。また、中小規模企業ではシステム的対策が十分に取り組めていない傾向が顕著でした。

(大規模企業と比較して取り組めていない主なシステム的対策)
・社内PCにUSBメモリ等を接続することの制御:製造業3.4%・非製造業7.1%
・情報システムログの記録・保管:製造業7.3%・非製造業12.4%

2.大規模企業

 中小規模企業と比較して、「情報システムログの記録・保管(製造業79.3%・非製造業73.1%)」はすでに取り組めているといえる一方、予防的な対策等はまだ十分に取り組めていない状況でした。

(主な予防的な対策等)
・不自然なアクセスの上司等への通知:製造業20.4%・非製造業18.9%
・不自然なアクセスの本人への警告:製造業19.1%・非製造業20.9%
・外部送信メールのチェック体制が整っている:製造業19.1%・非製造業16.9%

3.有効性を感じている対策

 企業自身が有効性を感じている対策として、以下の項目が多く挙げられました。これらは基本的な対策ですが、取り組みが遅れている企業が今後対策を検討する際には参考にできると考えられます。

(有効性を感じている主な対策)
・PC等の情報端末にアンチウイルスソフトを導入している:21.7%
・営業秘密の保存領域にはアクセス権を設定している:21.0%


(2)管理対象の明確化の重要性

 営業秘密として管理対象とするか否かの情報区分の実施について、調査結果は以下のとおりでした。

・大規模企業:製造業69.9%・非製造業61.4%
・中小規模企業:製造業25.8%・非製造業31.1%

 調査結果から、情報区分がしっかりとできている企業ほど、具体的な漏えい対策に関する取り組みも進んでいることが示されています。


(3)漏えいを検知する活動(漏えい未然防止、漏えい後の対策)

 多様化・高度化した手口による漏えいを完全に防ぐことは困難であっても、漏えいを検知する活動に取り組んでいればその行為に気付くことができます。また、漏えいを未然に防止する効果も期待できます。漏えい検知活動の実施について、調査結果は以下のとおりでした。

・大規模企業:製造業78.8%・非製造業75.0%
・中小規模企業:製造業20.1%・非製造業26.5%

 調査結果から、漏えいを検知する活動を実施している企業の方が、様々な対策への取り組みが進んでいるほか、漏えい行為を行った者への処罰・法的対応ができています。先進的な企業では個別対策と不可分の措置として漏えいを検知する活動に取り組んでおり、その重要性が示唆されています。


3.組織的な取り組み(経営層の関与と組織横断的な検討)

 調査結果から、営業秘密管理を経営の問題として捉えている企業の方が、総じて様々な取り組みが進んでいることが示されています。経営層が積極的に関与し、経営に直結する問題として捉え組織横断的に営業秘密対策の検討等を推進していくことの重要性が示唆されています。


最後に

 情報漏えい対策に関する取り組みは一部の管理部署のみで対応するものではなく、経営層による積極的な関与のもと組織横断的な取り組みが、これを機能させる重要な要因となります。経営層による強力なリーダーシップのもと、本調査報告書を参考に、有用な取り組みが実施されることが期待されます。


連載協力:税理士法人AKJパートナーズ
    ( http://www.akj-partners.com/

 

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改正「中小企業の会計に関する指針」について

2017-05-08 11:00

 平成29年3月9日に「中小企業の会計に関する指針」(以下、「中小会計指針」という。)が改正されました。この改正により、従来「今後の検討事項」とされていた資産除去債務への対応として、新たに固定資産項目に敷金に関する会計処理が明記されました(同改正指針第39項)。また、税効果会計について、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が公表されたことに伴い、それに合わせて関連項目の見直しが行われました。中小会計指針の概要と今回の改正点を解説します。


「中小会計指針」の概要

 「中小会計指針」は、中小企業が会社法上の計算書類(決算書)を作成する際、過度な経理負担とならないように、中小企業に関係する諸団体(日本商工会議所等)が、計算書類等の開示先や会社の経理体制等の観点から実態に則した会計処理のあり方の指針となるよう取りまとめたものです。

 中小企業においては、会計情報の利用者が大企業(上場会社など)に比べて限られることから、会計基準を一律に強制適用することがコスト・ベネフィットの観点から必ずしも適切ではないケースがあります。そのため、中小会計指針は、中小企業の利害調整に期待される点(会社法目的の配当制限や税務目的の課税所得計算など)を考慮して、中小企業の経理の拠りどころとなる役割を持ちます。

 また、中小会計指針の適用対象は、以下を除く株式会社とされています。
 (1) 金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社
 (2) 会計監査人を設置する会社及びその子会社

 さらに、特例有限会社、合名会社、合資会社又は合同会社についても、中小会計指針に拠ることが推奨されています。


今回の改正点

(1)資産除去債務

 資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるものをいいます。

 今回の中小会計指針の改正においては、資産除去債務への対応として、賃貸借契約における原状回復義務について中小企業に過大な事務負担をかけないことを前提として、以下の項目が追加されました(同改正指針第39項)。
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 上記の会計処理の具体例を以下に示します。

敷金 100(うち、返還されないことが明示されている部分:40)
返還されないことが明示されていない部分 60( = 100 - 40 )のうち、原状回復義務の履行に伴い回収が見込まれない合理的な見積金額:20

(1) 敷金等の計上
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(2) 資産除去費用の計上
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(3) 繰延資産の償却(賃貸借期間5年)
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繰延資産40 ÷ 5年

(2)税効果会計

 中小企業の多くは税務会計をベースとしているため、会計と税務のズレがほとんど発生しません。この場合、税効果会計を適用してもしなくても重要な違いはみられません。しかし、一時差異に重要性がある場合には、中小会計指針に従い積極的に税効果会計を適用することで有利な銀行融資を受けられることもあります。
平成27年12月28日に企業会計基準委員会から企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する指針」が公表されました。これに合わせて、改正中小会計指針において下記のとおり関連項目の見直しは行なわれましたが、税効果会計の記載内容に変更はありません。

【関連項目】
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 なお、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(企業会計基準適用指針第26号)については、2017年3月31日付投稿の「繰延税金資産の回収可能性について」をご参照ください。


最後に

 従来に比べ改正後は、敷金のうち返還されないことが明示されていない部分の金額について、原状回復義務の履行に伴い回収が見込まれない合理的な見積額を敷金から減額し、資産除去費用として計上することに違いがあります。
 中小企業においては、期待される利害や計算書類の利用目的によって中小会計指針に従って経理処理を行うことが望ましいと考えられます。


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繰延税金資産の回収可能性について

2017-03-31 10:00

 税効果に係わる会計上の実務指針と監査上の実務指針が1998年と1999年に公表されました。その後、2014年にはこれら実務指針の見直しが順次開始され、2015年12月に企業会計基準委員会は「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下、「適用指針」)を公表しました。本稿では税効果会計の基本的な考え方と、適用指針に基づき、繰延税金資産の回収可能性の概要を解説します。


税効果会計の基本的な考え方

 税効果会計は、会計の収益・費用と、課税所得計算の益金・損金の認識時点が異なることから、会計と課税所得計算の資産・負債に差異がある場合に、法人税その他所得を課税標準とする税金を、適切に期間配分することで、税引前当期純利益と税金費用の合理的な対応を目的とする会計手法です。

 会計と課税所得計算の資産・負債の差異を「一時差異」といい、税効果会計の対象とするのに対して、会計の収益・費用になるが、税務上は永久に益金・損金にならないものは、将来の課税所得を加減算させる効果を持たないため、「永久差異」として税効果の対象から除きます。

 一時差異には将来減算一時差異と将来加算一時差異があります。将来減算一時差異は、差異が生じたときに課税所得上加算され、将来、差異が解消するときに減算されるものです。一方、将来加算一時差異は、差異が生じたときに課税所得上減算され、将来、差異が解消するときに加算されるものです。税務上の繰越欠損金は一時差異ではありませんが、課税所得が生じた場合、法人税等を軽減させるため、一時差異に準ずるものとします。

 税効果会計では、将来減算一時差異と繰越欠損金に法定実効税率を乗じた金額を貸借対照表に繰延税金資産として計上し、将来加算一時差異に法定実効税率を乗じた金額を繰延税金負債として計上します。損益計算書では、繰延税金資産と繰延税金負債の差額を、期首と期末で比較した増減額を法人税等調整額として計上します。


繰延税金資産の回収可能性に関する要件

 繰延税金資産は将来の税負担を軽減することが認められることを条件に計上が認められる資産です。従って、将来、税負担の軽減が認められる範囲で計上します。繰延税金資産の計上要件は次の通りです。

(1) 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性

 要件の1つは収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性です。これは、将来減算一時差異の解消見込年度または税務上の繰越欠損金の繰越期間に、一時差異等加減算前所得が生じる可能性が高いかにより判断されます。ここで、一時差異等加減算前課税所得とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、その事業年度に解消が見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の金額を除いた額のことです。

(2) タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得

 次にタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得であることが要件です。タックス・プランニングとは、将来減算一時差異の解消見込年度や税務上の繰越欠損金の繰越期間に、具体的な一時差異等加減算前課税所得の発生を計画することをいいます。例えば、含み益のある固定資産や有価証券の売却で、将来減算一時差異等の減算が生じる年度の一時差異等加減算前課税所得を確保し、繰延税金資産の回収可能性を確実にすることです。

(3) 将来加算一時差異

 上記(1)と(2)に、将来加算一時差異の解消状況を加味します。具体的には将来減算一時差異の解消見込年度に将来加算一時差異の解消や、繰越期間に税務上の繰越欠損金と相殺される将来加算一時差異の解消が見込まれるかを判断します。


これらに従い、繰延税金資産の回収可能性を判断した結果、将来減算一時差異および税務上の繰越欠損金が、将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額および将来加算一時差異の解消見込額と相殺され、税金負担額を軽減できると認められる範囲で繰延税金資産を計上します。


企業分類に応じた取扱い

 企業を次の5つに分類し、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定します。

(1) 分類1

 過去3年および当期に、期末の将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じており、かつ当期末に、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない場合、繰延税金資産の全額に回収可能性があります。

(2) 分類2

 過去3年および当期に、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末の将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じており、重要な税務上の欠損金が生じておらず、かつ当期末に、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれず、一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合は、回収可能性があります。
 一方、スケジューリング不能な将来減算一時差異に係わる繰延税金資産は、原則的には回収可能性はありませんが、企業が合理的な根拠により説明する場合、回収可能性があると考えられます。

(3) 分類3

 過去3年および当期に、臨時的な原因で生じたものを除いた課税所得が大きく増減しており、かついずれの事業年度でも重要な税務上の欠損金が生じない場合、将来の合理的な見積期間(概ね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づき、繰延税金資産を見積もる場合は、回収可能性があります。
 ただし、5年を超えるものでも、合理的な根拠により説明する場合、回収可能性があると考えられます。 

(4) 分類4

 次のいずれかの要件を満たし、かつ翌期に一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる場合は分類4に該当します。

・過去3年または当期に重要な税務上の欠損金が生じている。
・過去3年に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。
・当期末に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。

 分類4の場合、一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づき、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合、回収可能性があります。ただし、重要な税務上の欠損金が生じた原因等を勘案し、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積もる場合、将来5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを合理的な根拠により説明するときは、分類2に該当します。また、将来おおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを合理的な根拠により説明するときは、分類3に該当します。

(5) 分類5

 過去3年および当期に、重要な税務上の欠損金が生じており、かつ翌期にも重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる場合、原則として繰延税金資産の回収可能性はないものとします。


最後に

 税効果会計は、会計と税務の違いを調整するための会計手法であり、それにより計上する繰延税金資産の回収可能性は慎重に判断する必要があります。

 なお、適用指針は2016年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用されます。


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改訂版「事業承継ガイドライン」

2017-02-21 11:00

 中小企業経営者の高齢化が進み、今後5年から10年程度で、多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えようとしています。中小企業に蓄積されたノウハウや技術といった価値を次世代に受け継ぎ、世代交代によるさらなる活性化を実現していくために、円滑な事業承継は重要な課題です。
中小企業庁では近年の中小企業を取り巻く現状を踏まえ、「事業承継ガイドライン(以下「本ガイドライン」)」を10年ぶりに改訂し2016年12月5日に公表しました。
本稿では、本ガイドラインに示された中小企業の事業承継を取り巻く現状と、本ガイドラインの主な内容を概説します。


中小企業の事業承継を取り巻く現状

1.後継者確保の困難化

 日本政策金融公庫総合研究所が2016年に公表した調査によれば、調査対象企業約4000 社のうち60歳以上の経営者の約半数が廃業を予定していると回答しています(図表1)。


図表1:後継者の決定状況

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 同調査では、経営者に廃業予定の理由を聞いたところ、「子供に継ぐ意志がない」「子供がいない」「適当な後継者が見つからない」といった後継者難によるものが廃業予定企業の約29%に達した、と報告しています。

 この背景には、経営者の息子・娘の職業選択の自由をより尊重する考え方の広がりや、自社の将来性が不透明であること等、事業承継に伴うリスクに対する不安の増大等の事情があるとされています。


2.親族外承継の増加

 後継者確保の困難化の影響から、近年、親族内承継の割合の減少と親族外承継の割合の増加が生じています。

 2015年に中小企業庁が実施した調査によれば、経営者の在任期間が35年以上40年未満(現経営者が事業を承継してから35年から40年経過している)の層では9割以上が親族内承継、すなわち現経営者は先代経営者の息子・娘その他の親族であると回答しています。

 一方、在任期間が短いほど親族内承継の割合の減少と従業員や社外の第三者による承継の増加傾向が見られ、特に直近5年間では親族内承継の割合が全体の約35%にまで減少し、親族外承継が約65%に達しているとの結果が示されています(図表2)。


図表2:経営者の在任期間別の現経営者と先代経営者との関係

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本ガイドラインの主な内容

1.早期取組みの重要性

 上述のように、後継者の決定が困難なために、業績が要因ではなく廃業の道を選んでしまう実態が存在します。そのような中小企業がやむを得ず廃業に至ることなく、円滑な事業承継を実現するためには、早期に事業承継の計画を立て、後継者の確保を含む準備に着手することが効果的です。

 本ガイドラインでは、事業承継に向けた準備に着手が必要と考えられる時期について、後継者の育成期間も含めれば、平均引退年齢が70歳前後であることを踏まえると、60歳頃には事業承継に向けた準備に着手する必要があると言及しています。

2.事業承継に向けた5ステップ

 事業承継の円滑化のためには、早期に準備に着手し、専門家等の支援機関の協力を得ながら、事業承継の実行、さらには自社の10年後をも見据えて、着実に行動を重ねていくことが必要です。

 本ガイドラインでは、円滑な事業承継の実現のためには、5つのステップ(図表3)を経ることが重要である旨を明記しています。


図表3:事業承継に向けたステップ

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3.事業承継支援体制の強化

 現状における事業承継支援は、商工会議所、金融機関等の身近な支援機関をはじめ、税理士・弁護士・公認会計士等の専門家や、事業引継ぎ支援センター等の公的・専門的な支援機関が、それぞれの立場から支援業務に関与し、その役割を担っています。

 しかし、各支援機関の取組みは、中小企業からの個別の要請に対し、単発の支援を行っている次元に留まっており、上記2.で述べた、より良い事業承継の実現に向けてステップを踏むような、切れ目の無い支援がなされているとはいえない状況にあります。

 本ガイドラインでは、各々の支援機関が自らの専門分野に責任をもって取り組むことはもちろん、支援機関相互の連携を図りつつ、ステップごとの支援を切れ目無く行う体制を構築する必要があるとされています。

 具体的には、地域の将来に責任を有する都道府県のリーダーシップのもと、地域に密着した支援機関をネットワーク化し、よろず支援拠点や事業引継ぎ支援センター等とも連携する体制を国のバックアップの下で早急に整備することを言及しています。


最後に

 中小企業は雇用の担い手、多様な技術・技能の担い手として我が国の経済・社会において重要な役割を果たしています。将来にわたり、その活力を維持していくためには、円滑な事業承継によって事業価値を次世代に引き継ぎ、事業活動の活性化を実現することが不可欠です。

 本ガイドラインを活用し、円滑な事業承継を成し遂げ、世代を超えた事業の継続・発展が図られることが期待されます。


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会計に強い社員を作るための最低限知っておきたい財務分析

2017-01-10 13:00

 企業の決算書には、企業の経営活動の内容やその結果に関する情報が包括的に表現されています。決算書を正しく読み取り財務分析を行うことができれば、企業の経営状態のみならず、今後の経営判断にも大いに役立ちます。
本稿では、財務分析の一般的分類とされる収益性・安全性・生産性・成長性の内容と具体的な指標について、数値例も交えて解説します。

財務分析の内容と指標

 財務分析は、一般的に以下の4つに分類されます。

(1)収益性
企業活動により利益の獲得能力があるのか。
(指標:売上総利益率、営業利益率、経常利益率、株主資本利益率など)

(2)安全性
 企業財務が健全であるのか。
(指標:株主資本比率、流動比率、固定比率など)

(3)生産性
 経営資源をいかに効率的に使用して、付加価値を生み出すのか。
(指標:労働生産性(=付加価値/平均従業員数)など)

(4)成長性
 企業の将来の成長可能性があるのか。
(指標:売上高成長率、経常利益成長率など)


財務分析の例示

 上記の財務分析のうち「(1)収益性」と「(2)安全性」に焦点を当て、以下に例示した同業種を営む3社の財務数値(3期分)を用いて、ここでは売上総利益率と株主資本比率の指標を比較します。

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 売上総利益率は、売上高に対する売上総利益の割合であり、この指標が高ければ高いほどその企業の市場競争力の高さを示します。しかし、少ない利幅で大量販売して売上総利益額を得るという戦略もとり得ることから、一概に売上総利率が高ければよいというわけでもありません。また、株主資本比率は、総資産に対する株主資本(自己資本)の割合であり、企業の長期的な財務安全性を示し、この指標が高ければ高いほど財務安全性が高いとされます。

 A社の売上総利益率と株主資本比率の指標は、B社・C社と比べていずれも低い水準を示しています。しかし、A社は、売上高は最も高い金額を計上していることから、B社・C社と比べて事業拡大に力を入れていることが想定されます。

 そこで、次にA社のみに焦点を当て、2つの指標の年度推移をみることにします。

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 年度推移から読み取れることは、X3期において売上総利益率と株主資本比率はいずれも低下しています。これらの原因としては、例えば売上総利益率の悪化については事業規模の拡大戦略(X3期売上高は、X2期の売上高の1.5倍に拡大)を採った結果と考えられます。また、株主資本比率の悪化は、事業規模に伴う運転資金の増加を借入資金などによって賄った結果、総資産を大幅に増加させたと考えられます。事業規模の拡大戦略によって過大な借入金負担が企業の財務健全性を損なうおそれもあります。


最後に

 財務分析は、客観的に把握できる財務数値を用いて行われます。対象会社の財務数値だけでなく、同業他社の財務数値や同業種の業界標準の数値を用いることができるのであれば、それらの財務指標と対象会社の財務指標を比較することでより有用な分析が可能となります。また、財務分析にあたっては、単年度のみの財務数値を用いるだけでは不十分な場合も多いため、通常は最低3年分の財務数値を用いて分析することが望ましいです。

 なお、財務分析の結果は、今後の経営戦略や経営判断に活用することが目的ですので、財務分析の結果のみにとらわれすぎないよう留意が必要です。


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