総務のトピックス

【会計トピックス】:

IFRS「のれん」の減損処理

2016-08-31 14:45

 日本国内でもIFRS(国際財務報告基準)を適用ないし適用を決定している上場企業が100社を超える状況となっていますが、IFRSと日本基準との差異の代表的なものとして「のれん」の会計処理が挙げられます。事業等を買収した際に生じたのれんは、日本基準においては20年以内に毎期償却する必要がありますが、IFRSにおいては償却しない代わりに毎年「減損テスト」を行うため、一時的に多額の減損処理が必要となることもあります。本稿では、のれんの会計処理に関する日本基準とIFRSの主な違いについて解説するとともに、IFRS適用会社におけるのれんの減損処理の事例についても解説いたします。


のれんの会計処理に関する日本基準とIFRSの主な相違点

 事業等を買収した際、会計処理においては買収時の投資額と買収対象事業等の時価純資産の差額が、「のれん」として認識されます。投資額が時価純資産より大きい場合、のれんは貸借対照表に資産として計上され、逆の場合は負ののれんとして一時に利益計上されます。
資産計上されたのれんの会計処理は、日本基準とIFRSで大きく異なっています。主な相違点としては(1)のれんの償却と(2)減損処理が挙げられます。

(1) のれんの償却

 日本基準では、のれんを20年以内で毎期規則的に償却します。資産計上されているのれんの残高は償却により減少し、償却額は損益計算書に費用計上されます。
これに対しIFRSではのれんの償却を行わないため、後述する減損がない限りのれんの残高は変わらず、損益計算書への費用計上もありません。
特にM&Aを積極的に行う企業においては、のれんの償却による費用負担が生じないという点をメリットととらえ、日本基準からIFRSに移行するケースが目立ちます。

(2) のれんの減損処理

 減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理をいいます。

 日本基準、IFRSいずれにおいても、一定のルールに基づきのれんの減損の判定(減損テスト)を行い、減損に該当すればその処理が必要となりますが、両基準でそのルールが異なっています。

 まず減損の判定の実施時期ですが、日本基準では、のれんに関連する事業の損益が継続してマイナスになるなど、減損の兆候がある場合にのみ減損の判定を行うのに対し、IFRSでは減損の兆候がある場合だけでなく、毎年一定の時期に減損の判定を行う必要があります。

 次に減損の判定に際し、日本基準では、のれんに関連する事業の割引前将来キャッシュ・フローの総額が事業の簿価を下回る場合にのみ回収可能価額を見積り、減損損失を認識するという2ステップのアプローチが採用されていますが、IFRSでは事業の簿価と回収可能価額を直接比較して減損損失を認識するという1ステップのアプローチが採用されています。

 割引前将来キャッシュ・フローの総額が簿価を上回っていたとしても、回収可能価額が簿価を下回っていることもありえますので、日本基準よりもIFRSの方が、減損損失を認識する基準が厳格であるといえます。

 上記のとおり、日本基準ではのれんの償却が規則的に行われるため、時の経過に伴いのれんの残高は減少し減損リスクも小さくなりますが、IFRSではのれんの償却が行われないため、減損リスクは将来にわたり残り続けることになり、減損処理を行った際の損益インパクトは大きなものとなる可能性があります。


IFRS適用会社におけるのれんの減損処理の事例

 楽天株式会社はIFRSを適用していますが、同社の2015年12月期決算では、過去最高の売上高を計上したにもかかわらず、のれんの減損損失を計上したことによる影響が大きかったため、結果として減益となっています。

 減損損失計上の理由としては、海外子会社のキャッシュ・フロー計画に遅れがあったこと等が挙げられています。

 同社は積極的にM&Aを行っており、2015年12月末時点の貸借対照表には369,428百万円ののれんが計上されているので、今後も大きな減損リスクを抱えているとも考えられます。

 このように、IFRS適用会社においてはのれんの償却による費用負担がない代わりに、減損損失として一時に多額の費用計上が行われるリスクがあることに留意が必要です。

<楽天株式会社の連結損益の状況>
(単位:百万円)
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連載協力:税理士法人AKJパートナーズ
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会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方

2016-06-24 17:12

 2016年2月18日に金融庁及び東京証券取引所より『会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上に向けた取締役会のあり方 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(2)』(以下「本意見書」という)が公表されました。本意見書は、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の諸原則のうち、取締役会のあり方に関し、コーポレートガバナンスを実現していく上で、現時点で重要と考えられる視点を示したものです。

 今回は、コードの適用状況を確認するとともに、本意見書が示す実効的なコーポレートガバナンスを実現していく上での視点について要約します。


コードの適用状況

 2015年6月よりコードが適用され、2015年12月末時点では全上場会社の約7割にあたる2,485社が適用状況を公表しています。なお、コードは法令とは異なり法的拘束力を有する規範ではないため、その適用に当たっては、「諸原則を"実施"するか、実施しない場合には、その理由を"説明"するか」が求められています。

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 上表のとおり、東証第一部・第二部の会社のうち約8割が、コードの諸原則の90%以上を"実施"している中、取締役会に関係する項目は"実施"の比率が比較的低くなっていることが特徴的です。これは、会社経営の根幹に係わり慎重な対応が必要な諸原則であるため、コード適用直後の2015年12月末時点では"実施"の状況まで至っていないのが実情と考えられます。

 ただし、取締役会の実効性の評価については今後の取組みとして"説明"している会社が多く、今後、本格的に"実施"することが予定されている会社が多くあることがうかがえます。


企業を取り巻く経営環境の変化と取締役会のあり方

 上述の背景のもと本意見書は、上場会社を取り巻く環境が大きく変化し続ける中、取締役会のあり方に関し、形式的な対応ではなく、実効的なコーポレートガバナンスを実現していく上で、次の項目に着目しています。

  ・最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方(補充原則4-1(3)、4-3(1)等)
  ・取締役会の構成(原則4-7から9、4-11等)
  ・取締役会の運営(原則4-8、4-10、4-12から14等)
  ・取締役会の実効性の評価(原則4-11)


(1) 最高経営責任者(CEO)の選解任のあり方(補充原則4-1(3)、4-3(1)等)

 CEOの選解任は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現していく上で、上場会社にとって最も重要な戦略的意思決定であり、そのプロセスには、客観性・適時性・透明性が求められます。
 そのため、CEO候補者の人材育成及び選任には、中長期的な観点から、十分な時間と資源を確保することが重要です。また、選任のための後継者計画の策定及び運用にあたっては、不透明なプロセスによらず、客観性・適時性・透明性を確保することが求められます。そして、CEOに問題があると認められる場合には、取締役会が適時・適切にCEOを解任できるよう、取締役会の経営陣からの独立性・客観性が十分に確保されていることが重要です。

(2) 取締役会の構成(原則4-7から9、4-11等)

 経営環境の変化や経営課題の複雑化に対応して求められる役割・責務を果たしていくため、取締役会は、必要とされる資質・多様性を備えるとともに、独立性・客観性を確保していくことが重要です。
そのため、取締役会の構成は、会社の事業・ステージ、経営環境や経営課題に応じて、資質のバランスや多様性を充実させていくことが求められます。また、取締役会の独立性・客観性を確保するとともに、監査委員会・監査等委員会(以下「監査委員会等」という)が業務監査・会計監査等の重要な役割・責務を適切に果たすべく、監査委員会等の独立性・客観性を確保することが必要です。そして、取締役会や監査委員会等の独立性・客観性が確保されるか否かは、CEOが経営判断等を行う上で、取締役会等の「独立した客観的な立場」という特性を活かす意思があるかどうかにかかっています。

(3) 取締役会の運営(原則4-8、4-10、4-12から14等)

 上場会社やその企業集団が経営環境の変化や経営課題の複雑化に対応していくためには、取締役会における戦略的な方向付けや会社の業績の適切な評価等に関する議論を充実させていくことが重要です。
 取締役会においてこのような議論を充実させていくためには、論点の明確化、議案の絞り込み等、運営上の工夫が必要です。また、社内業務執行取締役は、執行役としての役割にとどまらず、取締役として職務執行の監督等を行う役割も担っていることについて、認識を深めることが必要です。そして、会社が取締役会において、独立社外取締役も議論に貢献できるよう環境整備(常勤監査役等との情報交換等)を行うことや、独立社外取締役がステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映することが重要です。

(4) 取締役会の実効性の評価(原則4-11)

 取締役会の資質・多様性やその運営を充実させていくための取組みが有効に行われているかなど、取締役会全体としての実効性の評価を行い、次の取組みに継続的につなげていくことが重要です。
 そのため、評価の実施に際しては、取締役会メンバー1人1人による率直な評価がまずもって重要と考えられます。また、取締役会が果たすべき役割・責務を明確にした上で、それに照らして取締役会の構成・運営状況等が実効性あるものになっているかについて、実質的な評価を行うことが必要です。そして、取締役会が、その資質・多様性や運営を充実させていくためのPDCAサイクルを実現していくためには、自らの取組みや実効性の評価の概要について、ステークホルダーにわかりやすく情報開示・説明を行うことが重要です。


おわりに

 本意見書では、資質とリーダーシップを有する取締役を計画的に育成・選任し、独立性・客観性を備えた取締役会を構成すること、取締役会の適確な評価を行うことにより、取締役会の実効性向上に向けたPDCAサイクルを作り上げることが期待されています。従来、黙示的には認識されていた事項ですが、経営環境が変化し経営課題が複雑化した今日においては、これらの示唆を明示的な課題として受け止め、会社を積極的に変化させていくことが取締役に求められている役割であると考えられます。


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日本監査役協会公表「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」の再確認

2016-05-16 16:12

 2015年11月20日、公益社団法人日本監査役協会会計委員会より「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」(以下、「本指針」という。)が公表されました。本指針は、適切な監査の確保に向け、監査役もしくは監査役会、監査委員会、又は監査等委員会(以下、「監査役等」という。)が会計監査人を評価及び選定するに際し留意すべき点を、指針として提供するものです。

 会計監査人の選解任・不再任の議案決定権が監査役等に付与されたことで、監査役等が株主総会に提出する議案の内容を決定することになるため、議案決定権行使にあたって、より主体的な取り組みと判断が要請されます。また、判断のプロセス及び理由は、株主総会で株主からの求めに応じて説明を行うこととなります。これは、株主総会において会計監査人の不再任の決議がなされず再任とみなされた(会社法第338条第2項)場合も同様です。

 このような中、監査役等が行う判断の基準として本指針は有用な内容を提供しています。本稿では、本指針の内容の再確認を目的として、本指針を要約してお伝えいたします。


本指針の趣旨及び位置付け

1.本指針の趣旨
(1)策定の背景
 2015年5月に施行された改正会社法により、株主総会に提出する会計監査人の選解任・不再任議案の内容を監査役等が決定することとなりました。

 また、2015年6月より上場会社に適用されているコーポレートガバナンス・コードの基本原則3では、情報開示の重要性とともに開示される情報が正確で有用性の高いものとなることが求められており、適切な監査の確保に向けて監査役会が会計監査人の選定及び評価の基準を設けること等が規定されています(補充原則3-2 1号)。

 会計監査人の選解任等は、従来取締役会が決定していましたが、会計監査人の独立性と適切な監査の実施を確保するため、これらは監査役等の決定事項とされ、監査役等の役割及び責任はますます重要となっています。

(2)本指針の目的
 会計監査人の評価及び選定においては、各社の規模、業種、子会社及び海外展開の有無等、置かれている環境により考慮すべき事項やその重要度は異なるため一律に基準を設けることは難しく、また、コーポレートガバナンス・コードにおいては、各原則の適用はそれぞれの会社が自ら置かれた状況に応じて工夫すべきものとされています。

 そのため、本指針は、基準の策定において考慮すべき重要な事項をできる限り多く取り上げることで、各社の置かれている環境に応じ、取捨選択のうえ活用されることを期待しています。


2.本指針の位置付け

 日本監査役協会は、会計監査人の評価及び選定のほか会計監査人との連携に関連するものとして、「監査役監査基準」、「会計監査人との連携に関する実務指針」、「会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権行使に関する監査役の対応指針」及び「監査役監査実施要領」を公表しています。

 本指針は、会計監査人を評価及び選定するに際しての留意点を詳細に列挙するものですが、会計監査人の評価は会計監査人との連携とも密接に関連するものであるため、監査役等の実務においては、上記の基準・指針等を併せて参照する必要があります。


評価基準

 会計監査人の評価は、事業年度中に得られる情報を基に行われます。通常、監査役等は、期中の会計監査人との連携や会計監査人による事業所往査への立ち会いや会計監査人の事務所への訪問等を通じた評価を継続して行い、再任手続において最終判断を実施します。また、会計監査人との連携に際し、会計監査人に対し改善事項等の指摘を行うこともありますが、これらの指摘に対し会計監査人がどのような対応を行うかについても評価に際しては重要なポイントとなります。

 本指針の「第1部 会計監査人の評価基準策定に関する実務指針」においては、下表のとおり14項目の評価基準を記載し、各項目について、関連する確認・留意すべき事項の例、関連する基準等を解説として補足しています。

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「第3 監査報酬等 3-1」では、会社の規模、複雑性、リスクに照らして監査報酬(報酬単価及び監査時間を含む。)が合理的であるかを判断することとされており、監査役等は、会計監査人の監査報酬の合理性をも説明する必要があります。


選定基準

 選定基準が必要となる場合としては、新規に会計監査人を設置する場合、会計監査人設置会社において会計監査人を解任又は不再任とする場合、もしくは会計監査人が辞任した場合などが想定されます。それぞれの局面に応じて選定に充てることのできる期間が異なるため、監査役等としては事前に選定基準を定めておき、手順について執行部門と確認しておくことが望まれます。

 なお、後任となる会計監査人に対して十分な引継期間を設けることは円滑な監査を確保するために重要であり、監査役等は会計監査人間の引継に関する方針及び手続について説明を受ける必要があります。

 本指針の「第2部 会計監査人の選定基準策定に関する実務指針」においては、下表のとおり7項目の選定基準を記載し、各項目について関連する確認・留意すべき事項の例を補足しています。

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「第2 監査の実施体制等 2-1」では、会社の事業内容に対するリスク及び会社の規模・業容を踏まえた不正リスクに照らして監査計画が合理的であるかを判断することとされており、監査役等は、会計監査人の監査計画の合理性をも説明することが必要となります。

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企業会計基準委員会が「権利確定条件付き有償新株予約権」の
会計処理につき検討を開始

2016-03-29 14:21

役職員へのインセンティブ目的で付与される権利確定条件が付された有償新株予約権は現在多くの上場企業で導入されていますが、会計基準上はその取り扱いが必ずしも明確になっておらず、現行の会計実務ではストック・オプション会計基準の適用範囲外として会計処理が行われています。この点につき企業会計基準委員会(ASBJ)が検討を開始し、ストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることが適切との方向性で議論が進められておりますので、その検討内容につき解説いたします。

権利確定条件付き有償新株予約権の概要

 役職員へのインセンティブ目的で発行される有償新株予約権には通常、権利確定条件として業績条件が付されています。業績条件には様々なものがありますが、主たるものとしては将来の特定年度において利益目標値を達成できた場合に新株予約権の権利行使が可能になるといったものが挙げられます。

 業績条件が付された有償新株予約権は、業績条件を達成してはじめて権利行使可能になることから、業績条件が付されていない場合と比較して公正価値が低く算定されることが特徴です。

 役職員にとっては低い公正価値相当額の払込みとなるため当初の資金負担を抑えることができ、さらに後述のとおり発行会社にとっても会計上費用計上が不要であるという大きなメリットがあることから、多くの上場企業で導入されています。

権利確定条件付き有償新株予約権に関する現行の会計実務

 権利確定条件付き有償新株予約権について、既存の会計基準では、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下「複合金融商品適用指針」といいます。)、及び当該新株予約権が企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」といいます。)が関連すると考えられるところ、いずれの適用対象となるのかについて、必ずしも明らかになっていません。これは、権利確定条件付き有償新株予約権のような取引が、ストック・オプション会計基準を定めた当時は想定されていなかったことによるものと考えられます。

 現行の会計実務においては、権利確定条件付き有償新株予約権について、複合金融商品適用指針を適用しているケースがほとんどであると考えられます。この場合、発行時の払込金額を新株予約権として貸借対照表に計上し、費用計上は行われません。

権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準の適用範囲に含めるかどうか

 権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理の検討に際し、ASBJの事務局提案では、権利確定条件付き有償新株予約権が公募ではなく役職員に限定して付与される点や権利確定条件が付されている点から、発行会社は追加的な労働等のサービスの提供を役職員に期待しているものと推定され、報酬と類似の性質を有すると考えられるとし、その報酬としての性質を反映するようにストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることが適切であるとの考え方を提示しています。

 実務対応専門委員会でも概ね事務局提案に賛成する意見が述べられています。

ストック・オプション会計基準の適用範囲に含める場合の会計処理

 権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準の適用範囲に含める場合、以下のような会計処理が考えられます(複合金融商品適用指針を適用する場合の会計処理と比較するかたちで示しています)。

【設例】権利確定条件付き有償新株予約権にストック・オプション会計基準を適用した場合の会計処理

(1)権利付与日

新株予約権の払込単価:@10(業績条件考慮後の評価単価)
新株予約権の公正な評価単価:@100(業績条件考慮前の評価単価。ストック・オプション会計基準では、業績条件は評価単価ではなく行使見込数量に反映します。)
1名当たりの新株予約権:40個(新株予約権1個当たりの付与株式数は1株)
付与対象役職員:20名
付与時点の見込:役職員の退職による失効見込はゼロ、業績条件を考慮すると権利確定が見込まれる新株予約権の総数は80個(業績条件達成可能性は10%)

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(2)業績条件の充足が明らかになった会計期間

業績条件を充足することが明らかになり、株式報酬費用を見直し

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 ストック・オプション会計基準では、業績条件を行使見込数量に反映させるため、達成可能性が10%から100%に増加したことで、行使見込数量が80個から800個に増加します。これにより株式報酬費用が一時に多額に計上されることとなります。

(3)権利行使日

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 上記のとおり、ストック・オプション会計基準を適用すると、業績条件の充足が明らかとなった時点で株式報酬費用が一時に計上されるため、権利確定条件付き有償新株予約権を発行している企業にとっては業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(参考)IFRSにおける取り扱い

 なお、国際財務報告基準(IFRS)では、権利確定条件付き有償新株予約権はその取引の実質(行使条件として勤務条件が定められている等)を踏まえ、IFRS2号(株式報酬)の適用範囲に含められ、上記のストック・オプション会計基準の会計処理と概ね同様の処理が行われるものと考えられます。

最後に

 権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理については現在ASBJで検討中ですが、これまでの動向を見る限り、ストック・オプション会計基準の適用範囲とされる可能性が高いと考えられます。
 権利確定条件付き有償新株予約権の発行会社にとっては、ストック・オプション会計基準の適用範囲とされることによる財務的影響は大きいものと考えられますので、ASBJにおける会計処理の明確化に関する検討結果とその適用時期、経過措置の有無等、今後の動向が注目されるところです。

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【会計】わが国の役員報酬に関する近時の動向

2016-02-08 10:39


わが国の役員報酬は欧米諸国と比較して固定報酬の比率が高く、業績向上のインセンティブが不足しているといわれていますが、最近はストック・オプションや信託型株式報酬の導入等により、業績連動型報酬の比重を高める企業が増えてきています。また、政府も税法上の損金算入の条件緩和を予定するなど、役員報酬改革を後押しする方向です。これらの近時の動向につき解説します。


わが国における株式報酬導入の状況

まず、欧米諸国においては役員報酬として自社株を報酬として付与することが一般的であり、具体的には以下のような株式報酬が普及しています。

・パフォーマンス・シェア
中長期的な業績目標の達成度合いによって交付される株式報酬。業績目標の達成度合いによって報酬が変動することから、役員の業績目標へのインセンティブ効果が期待されます。

・譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)
一定期間の譲渡制限が付された株式報酬。譲渡制限を付すことにより役員を一定期間会社につなぎとめる効果が期待されます。

これに対しわが国では、株式の無償発行が会社法上想定されていないことなどから、これらの株式報酬を支給することは難しいと考えられてきました。
代わりに、実質的には譲渡制限付株式と同等の効果が得られる株式報酬型ストック・オプションがわが国において広く用いられてきました。これは、権利行使価額が1円等の極めて低い価額に設定された新株予約権であり、株式自体を報酬として付与するのと同等の効果があります。
また、信託型株式報酬制度の導入事例が最近になり急速に増加しています。これは、報酬相当額を信託に拠出し、信託が当該金額を原資に市場等から株式を取得し、将来において一定の条件のもとで役員に株式を交付するもので、制度設計により上述のパフォーマンス・シェアや譲渡制限付株式と同様の効果を得ることができます。

政府による役員報酬改革の促進

わが国の政府も、固定報酬中心の役員報酬制度から業績連動型の報酬体系への移行を促進すべく、制度整備を進めています。
2016年度税制改正大綱では、役員報酬として付与された譲渡制限付株式を損金算入の対象とする等の所要の制度整備を行うことが記されています。株式報酬以外においても、法人税法において損金算入が可能である「利益連動給与」の対象指標の範囲について、従来の純粋な利益指標(営業利益等)に加え、ROE(株主資本利益率)等の一定の利益関連指標が含まれることを明確化すると記されています。
また、2015年7月に公表された経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」による報告書では、「法的論点に関する解釈指針」において、金銭報酬債権を現物出資する方法を用いてパフォーマンス・シェアや譲渡制限付株式を導入する方法が考えられると記されており、今後わが国でも株式報酬制度が広く用いられることになるのではないかと思われます。

最後に

わが国において業績連動型報酬の比重を高める企業が増えてきているとはいえ、欧米諸国と比べると、まだまだ低い水準にあります。
しかし、2015年6月より上場企業において適用されている「コーポレートガバナンス・コード」では業績連動型報酬の導入が促されており、政府による制度整備も行われつつあることから、近い将来において急速に業績連動型報酬の比重が高まる可能性があり、今後の動向が注目されます。


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