総務のトピックス

【会計トピックス】:

日本監査役協会公表「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」の再確認

2016-05-16 16:12

 2015年11月20日、公益社団法人日本監査役協会会計委員会より「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」(以下、「本指針」という。)が公表されました。本指針は、適切な監査の確保に向け、監査役もしくは監査役会、監査委員会、又は監査等委員会(以下、「監査役等」という。)が会計監査人を評価及び選定するに際し留意すべき点を、指針として提供するものです。

 会計監査人の選解任・不再任の議案決定権が監査役等に付与されたことで、監査役等が株主総会に提出する議案の内容を決定することになるため、議案決定権行使にあたって、より主体的な取り組みと判断が要請されます。また、判断のプロセス及び理由は、株主総会で株主からの求めに応じて説明を行うこととなります。これは、株主総会において会計監査人の不再任の決議がなされず再任とみなされた(会社法第338条第2項)場合も同様です。

 このような中、監査役等が行う判断の基準として本指針は有用な内容を提供しています。本稿では、本指針の内容の再確認を目的として、本指針を要約してお伝えいたします。


本指針の趣旨及び位置付け

1.本指針の趣旨
(1)策定の背景
 2015年5月に施行された改正会社法により、株主総会に提出する会計監査人の選解任・不再任議案の内容を監査役等が決定することとなりました。

 また、2015年6月より上場会社に適用されているコーポレートガバナンス・コードの基本原則3では、情報開示の重要性とともに開示される情報が正確で有用性の高いものとなることが求められており、適切な監査の確保に向けて監査役会が会計監査人の選定及び評価の基準を設けること等が規定されています(補充原則3-2 1号)。

 会計監査人の選解任等は、従来取締役会が決定していましたが、会計監査人の独立性と適切な監査の実施を確保するため、これらは監査役等の決定事項とされ、監査役等の役割及び責任はますます重要となっています。

(2)本指針の目的
 会計監査人の評価及び選定においては、各社の規模、業種、子会社及び海外展開の有無等、置かれている環境により考慮すべき事項やその重要度は異なるため一律に基準を設けることは難しく、また、コーポレートガバナンス・コードにおいては、各原則の適用はそれぞれの会社が自ら置かれた状況に応じて工夫すべきものとされています。

 そのため、本指針は、基準の策定において考慮すべき重要な事項をできる限り多く取り上げることで、各社の置かれている環境に応じ、取捨選択のうえ活用されることを期待しています。


2.本指針の位置付け

 日本監査役協会は、会計監査人の評価及び選定のほか会計監査人との連携に関連するものとして、「監査役監査基準」、「会計監査人との連携に関する実務指針」、「会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定権行使に関する監査役の対応指針」及び「監査役監査実施要領」を公表しています。

 本指針は、会計監査人を評価及び選定するに際しての留意点を詳細に列挙するものですが、会計監査人の評価は会計監査人との連携とも密接に関連するものであるため、監査役等の実務においては、上記の基準・指針等を併せて参照する必要があります。


評価基準

 会計監査人の評価は、事業年度中に得られる情報を基に行われます。通常、監査役等は、期中の会計監査人との連携や会計監査人による事業所往査への立ち会いや会計監査人の事務所への訪問等を通じた評価を継続して行い、再任手続において最終判断を実施します。また、会計監査人との連携に際し、会計監査人に対し改善事項等の指摘を行うこともありますが、これらの指摘に対し会計監査人がどのような対応を行うかについても評価に際しては重要なポイントとなります。

 本指針の「第1部 会計監査人の評価基準策定に関する実務指針」においては、下表のとおり14項目の評価基準を記載し、各項目について、関連する確認・留意すべき事項の例、関連する基準等を解説として補足しています。

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「第3 監査報酬等 3-1」では、会社の規模、複雑性、リスクに照らして監査報酬(報酬単価及び監査時間を含む。)が合理的であるかを判断することとされており、監査役等は、会計監査人の監査報酬の合理性をも説明する必要があります。


選定基準

 選定基準が必要となる場合としては、新規に会計監査人を設置する場合、会計監査人設置会社において会計監査人を解任又は不再任とする場合、もしくは会計監査人が辞任した場合などが想定されます。それぞれの局面に応じて選定に充てることのできる期間が異なるため、監査役等としては事前に選定基準を定めておき、手順について執行部門と確認しておくことが望まれます。

 なお、後任となる会計監査人に対して十分な引継期間を設けることは円滑な監査を確保するために重要であり、監査役等は会計監査人間の引継に関する方針及び手続について説明を受ける必要があります。

 本指針の「第2部 会計監査人の選定基準策定に関する実務指針」においては、下表のとおり7項目の選定基準を記載し、各項目について関連する確認・留意すべき事項の例を補足しています。

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「第2 監査の実施体制等 2-1」では、会社の事業内容に対するリスク及び会社の規模・業容を踏まえた不正リスクに照らして監査計画が合理的であるかを判断することとされており、監査役等は、会計監査人の監査計画の合理性をも説明することが必要となります。

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企業会計基準委員会が「権利確定条件付き有償新株予約権」の
会計処理につき検討を開始

2016-03-29 14:21

役職員へのインセンティブ目的で付与される権利確定条件が付された有償新株予約権は現在多くの上場企業で導入されていますが、会計基準上はその取り扱いが必ずしも明確になっておらず、現行の会計実務ではストック・オプション会計基準の適用範囲外として会計処理が行われています。この点につき企業会計基準委員会(ASBJ)が検討を開始し、ストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることが適切との方向性で議論が進められておりますので、その検討内容につき解説いたします。

権利確定条件付き有償新株予約権の概要

 役職員へのインセンティブ目的で発行される有償新株予約権には通常、権利確定条件として業績条件が付されています。業績条件には様々なものがありますが、主たるものとしては将来の特定年度において利益目標値を達成できた場合に新株予約権の権利行使が可能になるといったものが挙げられます。

 業績条件が付された有償新株予約権は、業績条件を達成してはじめて権利行使可能になることから、業績条件が付されていない場合と比較して公正価値が低く算定されることが特徴です。

 役職員にとっては低い公正価値相当額の払込みとなるため当初の資金負担を抑えることができ、さらに後述のとおり発行会社にとっても会計上費用計上が不要であるという大きなメリットがあることから、多くの上場企業で導入されています。

権利確定条件付き有償新株予約権に関する現行の会計実務

 権利確定条件付き有償新株予約権について、既存の会計基準では、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下「複合金融商品適用指針」といいます。)、及び当該新株予約権が企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下「ストック・オプション会計基準」といいます。)が関連すると考えられるところ、いずれの適用対象となるのかについて、必ずしも明らかになっていません。これは、権利確定条件付き有償新株予約権のような取引が、ストック・オプション会計基準を定めた当時は想定されていなかったことによるものと考えられます。

 現行の会計実務においては、権利確定条件付き有償新株予約権について、複合金融商品適用指針を適用しているケースがほとんどであると考えられます。この場合、発行時の払込金額を新株予約権として貸借対照表に計上し、費用計上は行われません。

権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準の適用範囲に含めるかどうか

 権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理の検討に際し、ASBJの事務局提案では、権利確定条件付き有償新株予約権が公募ではなく役職員に限定して付与される点や権利確定条件が付されている点から、発行会社は追加的な労働等のサービスの提供を役職員に期待しているものと推定され、報酬と類似の性質を有すると考えられるとし、その報酬としての性質を反映するようにストック・オプション会計基準の適用範囲に含めることが適切であるとの考え方を提示しています。

 実務対応専門委員会でも概ね事務局提案に賛成する意見が述べられています。

ストック・オプション会計基準の適用範囲に含める場合の会計処理

 権利確定条件付き有償新株予約権をストック・オプション会計基準の適用範囲に含める場合、以下のような会計処理が考えられます(複合金融商品適用指針を適用する場合の会計処理と比較するかたちで示しています)。

【設例】権利確定条件付き有償新株予約権にストック・オプション会計基準を適用した場合の会計処理

(1)権利付与日

新株予約権の払込単価:@10(業績条件考慮後の評価単価)
新株予約権の公正な評価単価:@100(業績条件考慮前の評価単価。ストック・オプション会計基準では、業績条件は評価単価ではなく行使見込数量に反映します。)
1名当たりの新株予約権:40個(新株予約権1個当たりの付与株式数は1株)
付与対象役職員:20名
付与時点の見込:役職員の退職による失効見込はゼロ、業績条件を考慮すると権利確定が見込まれる新株予約権の総数は80個(業績条件達成可能性は10%)

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(2)業績条件の充足が明らかになった会計期間

業績条件を充足することが明らかになり、株式報酬費用を見直し

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 ストック・オプション会計基準では、業績条件を行使見込数量に反映させるため、達成可能性が10%から100%に増加したことで、行使見込数量が80個から800個に増加します。これにより株式報酬費用が一時に多額に計上されることとなります。

(3)権利行使日

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 上記のとおり、ストック・オプション会計基準を適用すると、業績条件の充足が明らかとなった時点で株式報酬費用が一時に計上されるため、権利確定条件付き有償新株予約権を発行している企業にとっては業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

(参考)IFRSにおける取り扱い

 なお、国際財務報告基準(IFRS)では、権利確定条件付き有償新株予約権はその取引の実質(行使条件として勤務条件が定められている等)を踏まえ、IFRS2号(株式報酬)の適用範囲に含められ、上記のストック・オプション会計基準の会計処理と概ね同様の処理が行われるものと考えられます。

最後に

 権利確定条件付き有償新株予約権の会計処理については現在ASBJで検討中ですが、これまでの動向を見る限り、ストック・オプション会計基準の適用範囲とされる可能性が高いと考えられます。
 権利確定条件付き有償新株予約権の発行会社にとっては、ストック・オプション会計基準の適用範囲とされることによる財務的影響は大きいものと考えられますので、ASBJにおける会計処理の明確化に関する検討結果とその適用時期、経過措置の有無等、今後の動向が注目されるところです。

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【会計】わが国の役員報酬に関する近時の動向

2016-02-08 10:39


わが国の役員報酬は欧米諸国と比較して固定報酬の比率が高く、業績向上のインセンティブが不足しているといわれていますが、最近はストック・オプションや信託型株式報酬の導入等により、業績連動型報酬の比重を高める企業が増えてきています。また、政府も税法上の損金算入の条件緩和を予定するなど、役員報酬改革を後押しする方向です。これらの近時の動向につき解説します。


わが国における株式報酬導入の状況

まず、欧米諸国においては役員報酬として自社株を報酬として付与することが一般的であり、具体的には以下のような株式報酬が普及しています。

・パフォーマンス・シェア
中長期的な業績目標の達成度合いによって交付される株式報酬。業績目標の達成度合いによって報酬が変動することから、役員の業績目標へのインセンティブ効果が期待されます。

・譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)
一定期間の譲渡制限が付された株式報酬。譲渡制限を付すことにより役員を一定期間会社につなぎとめる効果が期待されます。

これに対しわが国では、株式の無償発行が会社法上想定されていないことなどから、これらの株式報酬を支給することは難しいと考えられてきました。
代わりに、実質的には譲渡制限付株式と同等の効果が得られる株式報酬型ストック・オプションがわが国において広く用いられてきました。これは、権利行使価額が1円等の極めて低い価額に設定された新株予約権であり、株式自体を報酬として付与するのと同等の効果があります。
また、信託型株式報酬制度の導入事例が最近になり急速に増加しています。これは、報酬相当額を信託に拠出し、信託が当該金額を原資に市場等から株式を取得し、将来において一定の条件のもとで役員に株式を交付するもので、制度設計により上述のパフォーマンス・シェアや譲渡制限付株式と同様の効果を得ることができます。

政府による役員報酬改革の促進

わが国の政府も、固定報酬中心の役員報酬制度から業績連動型の報酬体系への移行を促進すべく、制度整備を進めています。
2016年度税制改正大綱では、役員報酬として付与された譲渡制限付株式を損金算入の対象とする等の所要の制度整備を行うことが記されています。株式報酬以外においても、法人税法において損金算入が可能である「利益連動給与」の対象指標の範囲について、従来の純粋な利益指標(営業利益等)に加え、ROE(株主資本利益率)等の一定の利益関連指標が含まれることを明確化すると記されています。
また、2015年7月に公表された経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」による報告書では、「法的論点に関する解釈指針」において、金銭報酬債権を現物出資する方法を用いてパフォーマンス・シェアや譲渡制限付株式を導入する方法が考えられると記されており、今後わが国でも株式報酬制度が広く用いられることになるのではないかと思われます。

最後に

わが国において業績連動型報酬の比重を高める企業が増えてきているとはいえ、欧米諸国と比べると、まだまだ低い水準にあります。
しかし、2015年6月より上場企業において適用されている「コーポレートガバナンス・コード」では業績連動型報酬の導入が促されており、政府による制度整備も行われつつあることから、近い将来において急速に業績連動型報酬の比重が高まる可能性があり、今後の動向が注目されます。


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【会計】不正会計と上場廃止

2015-12-18 10:06

昨今話題になることの多い不正会計ですが、過去には不正会計を原因として上場廃止になったケースがみられます。そのような理由で上場廃止になった企業は、ブランド・イメージを大きく毀損することになり、その影響は甚大です。今回は、不正会計の意味と不正会計に関係する上場廃止基準について触れるとともに、その実例を紹介します。


不正会計の意味

不正会計とは、経営者等によって意図的に真実とは異なる会計操作が行われることを意味しています。赤字決算や巨額の損失等を隠ぺいするために、虚偽の業績が表示【虚偽記載】されることがほとんどです。
不正会計による有価証券報告書等の虚偽記載は、証券市場のルールにおいて上場廃止基準に抵触することがあります。


上場廃止基準

虚偽記載を原因とする上場廃止基準として、日本取引所グループは以下のように定めています。

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この基準は、虚偽記載を行っただけでは上場廃止になるわけではなく、虚偽記載に加えて「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかである」ことを証券取引所が認めることではじめて上場廃止となることがポイントとなります。
なお、「直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかなとき」とは、例えば、上場前から債務超過であったなど虚偽記載により上場基準の著しい潜脱があった場合や、実態として売上高の大半が虚偽であったなど虚偽記載により投資者の投資判断を大きく誤らせていた場合など、そのまま当該銘柄の上場を維持すれば当取引所の金融商品市場に対する投資者の信頼を著しく毀損すると認められる場合が想定されています(「特設注意市場銘柄の積極的な活用等のための上場制度の見直しについて」平成25年6月17日 株式会社東京証券取引所より)。


上場廃止の実例

過去に証券取引所が虚偽記載を原因に上場廃止とした実例として、西武鉄道、カネボウ、ライブドアが挙げられます。それぞれの上場廃止の理由(虚偽記載の内容)やその影響は以下のとおりです。
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最後に

上記を含め過去の事例をみると、虚偽記載を原因に上場廃止となった企業では、経営者層による組織的な不正会計への関与が明らかとなっています。
一時凌ぎのつもりで不正会計に手を染めてしまった結果、不正会計の発覚により、これまで積み上げてきた企業価値が一瞬にして失われることになります。株価の暴落や企業イメージの悪化による売上減少、最悪の場合では存続不可能となり企業解体に至る等、そのコストは甚大なものとなり、株主の他、債権者や従業員等に多大な負担を与えることになります。
これらの実例から、不正会計は企業の信用の失墜はもとより、社会に与える影響が極めて大きいということを強く心に留めておきたいと思います。


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【会計】東芝不正会計が示唆すること

2015-11-27 14:38

株式会社東芝による不正会計の全容が、2015年7月に公表された東芝第三者委員会調査報告書の中で明らかになりました。その後、東芝より2015年9月に「過年度決算の修正、2014年度決算の概要及び第176期有価証券報告書の提出並びに再発防止策の骨子等についてのお知らせ」が公表され、2008年度から2014年度第3四半期までの不正会計による追加損失総額が2,248億円に上ることが報告されました。

1.不正会計の大部分は単純な手口

東芝の不正会計は、複数の手口で複合的に実行されていましたが、本稿では工事進行基準を利用した手口に注目します。以下に記載の通り、非常に単純な手口であることが特徴です。

  工事進行基準における見積工事原価総額の過小見積り(影響額479億円)

東芝は大規模工事の売上計上基準に、工事進行基準を採用しています。この基準は、工事完成時に総額を売上計上する工事完成基準と異なり、工事進行度に応じて売上計上する基準のため、業務実態に即した会計処理とされています。工事進行度は下記算式で算定されますが、見積工事原価総額は確定数値ではないため、この金額を合理的に見積もることが重要なポイントとなります。
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【例示】
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上表のとおり、見積工事原価総額を少なく見積ると工事進行度は高くなり、結果として売上は早期に計上されます。東芝はこの仕組みを濫用し、見積工事原価総額を実態よりも過小に設定することで工事進行度を過大に算定し、実態以上の売上を計上していました。

また、受注金額以上に工事原価の発生が見込まれる工事に対して、見積工事原価総額を見直さなかったため、実態は赤字である工事に対して、工事完成前の年度に工事利益を計上していました。


2.負の組織風土

外部からの強いガバナンスが期待される指名委員会等設置会社で、内部統制も適切に整備運用されていると思われた東芝において不正会計が発生した背景には、経営陣が醸成する負の組織風土が関係していると考えられます。これは、東芝第三者委員会調査報告書でも直接的な原因として指摘されています。

経営陣の価値観が組織の行動に強く影響

経営陣は、グループ各社及び事業部に対して「チャレンジ」と呼ばれる厳しい必達目標を課していました。「チャレンジ」の多くは、当年度または当四半期のいわゆる目先の利益獲得を要請するものでした。
目標未達による経営陣からの厳しい叱責を回避するため、グループ各社及び事業部は目標達成を装う不正会計を行わざるを得ない状況にまで心理的に追い込まれ、経営陣はそれを黙認する組織風土が醸成されていたことが推察されます。

内部統制は経営陣によって構築されるため、経営陣自身に対して機能しにくいと言われており、本件でも内部統制は機能しなかったことが伺えます。また、各取締役による経営陣の監視も十分に機能せず、指名委員会等設置会社であっても不正会計を許さない組織風土が醸成されない場合、その機能は大きく減殺されることが伺えます。
利益至上主義のもと不正会計さえも黙認するという経営陣の価値観が、負の組織風土を醸成し、今回の巨額な不正会計の最も大きな原因になったと考えられます。


3.不正会計防止に向けて会社ができること

不正会計の防止には、負の組織風土を発生させないこと、発生した負の組織風土の芽を早期に摘んでいくことが重要です。

【負の組織風土の発生を防止する方策】

負の組織風土は、負の価値観を持つ経営陣によっても醸成されますので、そのような人物を経営に参画させない観点から、株主総会の監視機能を利用する方策として以下が考えられます。
 ・就任期間が長い役員の重任案の否決
 ・金融機関やファンド等「もの言う」株主の参画


経営陣の新陳代謝を促し、仮に負の価値観を持ってしまった経営者がいても、長期的な影響を制度的に排除するため、会社内規を利用する方策として以下が考えられます。
 ・重任回数の制限規定の導入
 ・役員定年制度の導入

経営陣と臆せず意見交換できる人物の登用により取締役相互及び監査役の監視機能を有効に利用する方策として以下が考えられます。
 ・経営陣と同格以上の経験を有する社外取締役及び監査役の参画
 ・法務や経理と言った専門分野に強い監査役の参画

【発生した負の組織風土の芽を早期に摘む方策】

負の組織風土の影響は、何らかの形で財務数値に表れてきますので、財務数値と業務実態を比較し合理的な関連性を分析することは、負の組織風土に気付くための有効な方策です。多くは合理的な原因が存在しますが、一般的に、以下のような事項には留意が必要とされています。
 ・販売現場における販売状況と不整合な売上
 ・異常な利益率(高い・低い、毎期一定)の売上
 ・長期間滞留している棚卸資産や売上債権の存在
 ・異常に高額な無形物(ロイヤリティやソフトウェア等)への支払
 ・事業関連性の薄い取引業者への支払
 ・経営陣からの直接の指示により実施された会計処理
 ・その他

ただし、本稿の主な読者である総務や経理のご担当者様は日常業務対応で多くの時間を割かれているとともに、財務数値の分析自体を得意としている方は少数と思われますので、状況に応じて専門家の利用を検討することが有効です。

その他、不正会計が長期間にわたり発覚しない多くの原因は、不正会計を実行している担当者が長期間異動せず経営陣の指示のもと秘密裡に裏工作を進められる環境があることが挙げられます。定期的な人事異動を厳格に実施していくことで、前任者の不正会計は後任者によって発覚することとなるため、不正会計の芽を早期に摘むことが期待されるほか、後任者からの発覚を恐れ、不正会計の実施自体の牽制効果が期待できます。

一方で、仮に不正会計に気付いても社内の立場上、自ら公言にすることを躊躇し結果として不正会計を黙認する負の組織風土の醸成につながることもよく聞かれるところです。これについては、通報制度の設置が効果的です。社内通報制度のみならず、外部弁護士等が窓口となる外部通報制度を整備することが重要なポイントと考えられます。多くの不正会計は通報制度の利用により通報を受けた外部者によって発覚しています。


最後に

不正会計の手口は複数あるものの実際に利用される手口は単純なものも多く、社員の多くは不正会計であることに気付きつつ、負の組織風土に支配され、改善の機会を失している実態が浮き彫りになりました。しかし、不正会計発覚によって蒙った会社の損害は、あまりにも甚大であり、信用の失墜は会社の存続を含め今後の経営に大きな制約となります。永続する会社であるために不正会計を許容する負の組織風土は即座に排除することが必要であり、本稿が不正会計を防止する取組みのきっかけになれば幸甚です。


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