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総務の知的財産戦略 第3回

2016年11月17日

 こんにちは。ブランシェ国際知的財産事務所の弁理士 高松孝行です。

 前回予告したとおり、今回は職務発明(※1)について解説いたします。

■ 職務発明における企業のリスク

 職務発明については、2000年代に入ってから、青色発光ダイオード事件のように、元従業員からその対価を巡って、所属していた企業に対する訴訟が多数提起され、多額の賠償金が認められるようになってきました。これは企業にとって大きなリスクと考えられるようになったことから、2004年に改正が行われました。

 しかし、この法改正では、(1)会社がはじめから特許を受ける権利を持つことができない、(2)職務発明に対する「相当の対価」を柔軟に設定できない、(3)「相当の対価」の決め方(手続き)が明確でない、という問題点がありました。これらの問題点に対し、昨年(2015年)の特許法改正により、次のように改正されました。

 (1) 従業員等が行った職務発明について、あらかじめ会社に特許を受ける権利(※2)を取得させることを契約等に定めることにより、その特許を受ける権利をその発生時から会社が持つことができるようになりました。

 (2) 職務発明の対価を金銭に限定せずに、金銭以外の経済上の利益とすることができるようになりました。

 (3) 職務発明の対価を算定する際の参考になるガイドライン(※3)を公表し、「相当の対価」の決め方(手続き)を明確にしました。

 (1)については、職務発明規定を改定しないと、従前の職務発明と同様に、発明者である従業員が特許を受ける権利を持つことになります。その場合には、特許を受ける権利を会社に帰属させるために、従業員との間で譲渡契約等を締結する必要があります。もしこの譲渡契約等を締結していなかった場合には、後に職務発明に関する訴訟等の問題になる可能性があります。
 
 このようなリスクを回避するためにも、あらかじめ会社に特許を受ける権利を取得させるように就業規則等を修正しましょう。これは、総務部の本来業務の一つだと思います。

 (2)については、今回の法改正で導入されたもので、ガイドラインには、金銭以外の相当の利益の付与としては次のようなものが挙げられています。

 ・a 使用者等負担による留学の機会の付与
 ・b ストックオプションの付与
 ・c 金銭的処遇の向上を伴う昇進又は昇格
 ・d 法令及び就業規則所定の日数・期間を超える有給休暇の付与
 ・e 職務発明に係る特許権についての専用実施権の設定又は通常実施権の許諾

 ただし、これは特許庁が例示したものですので、これに限定されるものではありません。実際に、研究・開発を行っている人は、上記のようなものを望んでいないかもしれません。
 
 そこで、前回のコラムに書きましたように、開発部に「金銭以外の経済上の利益としてどのようなものが良いか」と相談してみてはどうでしょうか?


■ 開発部に喜ばれるアイデアを出すには

 開発部としても、自分たちの考えが会社の規定に反映されたとしたら、モチベーションも上がりますし、会社へのロイヤルティも向上すると思います。そして何より、自分たちの意見を採用してくれた総務部へのイメージが変わると思います。一方、総務部としても、開発部と信頼関係を構築できれば、開発部からの情報も入りやすくなると思いますし、開発部に相談しやすくなるなど、今後の仕事がやりやすくなると思います。

 ただし、開発部が規定等の取り扱いに慣れていないようでしたら、いきなり相談されても困ってしまうかもしれません。その時は、弁理士(特許事務所)を活用してみてください!
 弁理士には、企業の研究所や開発部出身の者も大勢いますので、開発部に喜ばれるアイデアを出してくれるかもしれません。

 たとえば、「経済上の利益」として、「学位(博士号)取得の機会の付与」というようなアイデアもあると思います。具体的には、博士課程社会人コースがある大学への入学ということになります。留学と比較して費用がそれほどかかりませんし、開発部のほかの人にあまり負担をかけずに会社の業務をそのまま続けることができるかもしれません。さらに、大学院では最新の技術の情報を得ることができるので、会社としてもメリットがあると思います。
 
 そして、このようなアイデアをいくつか提案してから、開発部の意見を聞くようにすれば、開発部との話がスムーズに進むようになるかもしれません。

 次回は、(3)の「相当の対価」の決め方(手続き)について、ガイドラインに記載された手続を含めて解説したいと思います。


※1 職務発明とは、会社の従業員等が職務上行った発明をいう。通常、職務発明規定を作成し、使用者等が特許権等を取得した場合の権利やその対価(報酬)の取り扱いに定めておくことが多い。
※2 特許を受ける権利とは、発明が完成した時に発生する権利であり、国に対して特許権の付与を請求することができる請求権(公権)としての性質と、譲渡可能な財産権(私権)としての性質をもつ。
※3 特許法第35条第6項の指針(https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm

高松 孝行
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