コラム

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本に載らない現場のノウハウ 〜中小企業の人事制度〜
【第26回】給与制度に関する話(1)

2014年05月08日

 今回からは、人事制度の柱で最後に残ったテーマの「給与制度」について、検討する上での注意点や留意点を私の経験なども交えて解説していきたいと思います。


■立場で差がある「給与額」と「モチベーション」の相関性の捉え方

 人事制度の中で、特に「評価」と「給与」は密接につながっていることが多いものです。「評価制度」に基づいて評価して、その結果が「給与制度」と結びついて、毎月の給与やボーナスの金額を決めるのが一般的でしょう。

 私がいろいろな会社で給与制度を議論する中で、人の立場によってずいぶん違いがあると感じることに、「給与額」と「モチベーション」の相関性の捉え方があります。

 私の感覚では、経営者や上位の管理者など給与を払う側、金額を決める側の人たちは、この相関性が比較的高いと捉える傾向があり、逆に現場に近い人たちや一般社員クラスでは、必ずしも相関性が高いとは捉えていないという傾向です。「どうせ最後は金だろ!」なんておっしゃる社長さんは今でも結構いらっしゃいますが、一方で「お金だけじゃない!」という社員さんがたくさんいます。

 実際にはもう少し複雑で、どちらの立場の人も総論では、"社員のやる気につなげるため"には「適正な金額で報いるべき」「メリハリをつけるべき」などと言いますが、では自分はそれで"やる気"が出るのかと問いかけると「必ずしもそうではない」と言います。もちろんお金は大事だし大きな要素のひとつではあるのはみんなそうだろうけれども、自分個人はそれがすべてではないという言い方です。

 これもあくまで私の感覚ですが、経営者や管理者(ビジネス的には成功者?)の方がお金に執着する度合いが高く、現場に近い人や一般社員(言ってしまえば普通の人?)の方が、お金だけじゃないという度合いが高いと感じます。

 このあたりについては、支払う側ともらう側の感覚の違いが大きいように思います。経営者としては、人を雇用することは大変なことですし、給料についても相当な苦労の上で支払っているという意識があります。成果と対価が見合わないことは許せません。

 一方もらう側からすれば、給料は自分が働いた結果、労働の対価ですから当然の権利であると思っています。もらって当たり前の意識が強いということです。

 給与制度というのは、こんな認識ギャップがある前提で考えなければなりません。


■意外に動機づけになりづらい「給与制度」

 経営者の皆さんから良く聞く話として、「給料が下がったならともかく、上がっている社員まで不満や文句を言う」ということがあります。社員に頑張ってもらおうと原資を増やしたり、成果を上げた人に配慮して配分したりしているのに、反応はいまいちということも多いのではないでしょうか。

 このあたりを説明する一つの例として、心理学や行動経済学といわれる分野に「プロスペクト理論」というものがあります。

 簡単に言うと「実際の損得とその感じ方が異なるということを説明した理論」ですが、この中では、例えば「損失回避性」といって、同じ額でも「利益」より「損失」の方が強く印象に残り、それを回避しようとする行動をとるということ、また「感応度逓減性」といって、損失、利益ともに額が大きくなるほどその感覚が鈍ってくるということが、実験などを通じて示されています。

 これを給与に置き換えてみると、収入が増えるのはうれしいし、収入が減るのは嫌だが、金額の多寡はそれとは必ずしも比例しない、ということになります。

 一度昇給した時はうれしいが、次はその昇給額を基準に考えるようになり、その額と比較して「前より上がらない(イコール損失)」という感覚になります。一度大きく給与アップしても、それ以降で同等以上のアップが続かないと、逆に不満になってしまいます。給与ダウンは嫌に決まっていますが、何度も繰り返されるよりは一度ですんだ方が良いということもいえます。

 また、動機づけの手法として「外発的動機づけ」「内発的動機づけ」という2つのタイプがあり、「外発的動機づけ」は、アメとムチを使い分けて人を動機づけること、「内発的動機づけ」は外的な報酬が無くても、行動することで得られる楽しさや満足感による動機づけをいいます。

 給与アップはまさに「外発的動機づけ」ということになりますが、これは有効性が短期的で、常にアメやムチを与え続けなければ、行動しなくなっていくといわれています。このあたりが、組織における動機づけは行動することで得られる達成感など報酬とする「内発的動機づけ」を主体にしていくべき、と言われるゆえんですし、一般の会社で社員に対して、金銭でインセンティブを与え続けることは経営的にもほぼ不可能ですから、給与に関しては不満が出てくる要素の方が強く、持続的なモチベーションにつなげづらいということは理解しておくべきです。

 給与制度を組み立てるにあたっては、こんな部分も意識ながら取り組んでいく必要があるでしょう。

小笠原 隆夫
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