コラム

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本に載らない現場のノウハウ 〜中小企業の人事制度〜
【第27回】給与制度に関する話(2)

2014年05月22日

■検討メンバーでは認識しづらい支払い能力や給与原資の問題

 給与制度を議論する際によく感じるのは、「評価が高い人により多く配分する」というようなインセンティブの話題が中心になってしまい、自社における実際の支払い能力についてはあまり考慮していない場合が結構多いということです。もちろんそれぞれの会社によって社内の共有認識は違うので一概には言えませんが、個々の給与額のメリハリのつけ方に関する話題が中心になっているように思います。

 特に現場のマネージャークラスなどと議論すると、「優秀な人材をつなぎとめるためには年収アップが必要で、世間相場を考えると自社の○○クラスは○○円くらいの上乗せが必要だ」などという話が出てきますが、そこには"自社の支払い能力"や"給与原資"という視点はあまり出てきません。

 はっきり言って、給与原資が同じであれば、急に大きな変化はできません。そんな中で「できた人に多く配分する」ということはイコール「できなかった人から削る」ということですが、そのあたりはあまり視野に入っていないことが多いと感じます。実際に制度を運用する上でも、上げたい人はいっぱいいても、下げることはそこまではできないことがほとんどです。

 ただ、こういう認識不足にはやむを得ない面もあります。例えば給与の総額や過去からの昇給率といった全体がわかる情報を、社員に向けて細かく開示しているケースは一般的には少なく、全社の給与実態を把握しているのは、経営者、役員、人事部門など、一部の人間だけであることがほとんどです。他の社員には、実態把握できるだけの情報がないわけですから、意識しろということにも無理があります。

 そうはいっても、給与制度を検討する上で"現状の給与支払い状況"を把握しておくことは、絶対に必要なことです。何でもかんでもオープンにできる情報ではありませんが、検討メンバーの中では、少なくとも給与制度の現状を把握できる材料を、人事部門などが主導して提供してできるだけ認識共有を図った上で、より全体状況を把握している経営者、役員、人事部門などが議論をリードしていくことが必要になってくるでしょう。

 また私の経験では、本来は全体状況を一番理解しているはずの経営者が、支払い能力を過小に見たり(単なるケチ?自分の財布感覚?)、過大に見たり(社員に対する見栄?業績見込みの甘さ?)ということもありました。

 まずは、自社の支払い能力に見合った仕組みでなければ意味がないということは、心得ておくべきでしょう。


■法律的な観点も意識しておくこと

 給与制度は、人事制度の他の柱である等級制度や評価制度などとは少し異なった捉え方が必要です。それは給与が"基本的な労働条件そのもの"だということです。手当類の定義、時間外単価の算出方法、最低賃金、その他法律上の縛りがいろいろあります。給与が減るということについても、客観的な基準に基づく評価によるものなどでなければ、賃金不払いのトラブルになる可能性もあります。

 ただ、給与制度を検討する上では、この法律に関する観点もついつい置き去りにされがちなところです。特に中小企業の場合、労働法規に関する意識が希薄なことが往々にして見受けられ、中には残業代の算出が法律に合致していなかっていたり、客観性がない評価で給与額を決められていたりということがまだまだあります。そしてその現状をベースにインセンティブや評価による配分方法の議論をしてしまうので、法的な不備がそのまま温存されてしまうこともあります。

 評価反映、インセンティブの議論の前に、法律を守った上での仕組みでなければならないことを、しっかり意識した上で検討を進めることが必要です。このあたりも人事部門などが法律を踏まえて検討をリードしていくことが必要であろうと思います。

小笠原 隆夫
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