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本に載らない現場のノウハウ 〜中小企業の人事制度〜
【第29回】給与制度に関する話(4)

2014年07月10日

■「配分」と「水準」の話

 給与について考えるとき、「水準」に関する観点と「配分」に関する観点という二つの観点があります。

 「水準」というのは、俗にいう給与水準、同業他社や世間一般との給与水準の相対比較の話で、要は給与原資の話になります。全社の業績そのものの話と言ってよく、業績によって「水準」は変わりますし、自分たちの力だけではコントロールできない部分もあります。

 これに対して「配分」というのは、給与原資という決められたパイの中で、部門成果、個人成果などを加味してそれをどのように分けるかという観点になります。
給与制度などはまさにこの話で、自社の考え方に基づき、自社の都合で決めることになります。
 
 こんなところから、給与制度はあくまで「配分」に関する検討をすることだけに集中しがちになりますが、その結果として、実際に制度を運用する段階になって、

「メリハリをつけるという制度だが、配分する原資がない」
「賞与の最低保証を決めたが履行できない」
「給与原資の算出方法を決めたが、経営的に難しくなった」

 などなど、実は決めた通りに運用できないという事態が出てくることがあります。


 中小企業の給与に関わる部分というのは、経営者の一存に任されていたり、ブラックボックス化したりしていることが意外に多く、このあたりを制度化しようという話は必ず出てくるものです。
 経営者との綱引きが繰り広げられるような場面も見てきましたが、給与制度という「配分」の観点だけで取り組むには、やはり無理があります。どうしても「水準」の話が関わってきますし、「水準」は自分たちの力だけではコントロールできない部分があるので、この部分に縛りを設けるには、相応の企業体力も必要です。中小企業ではなかなか難しいところがあるでしょう。


 制度上で縛りを設けていても実際の運用が難しい場合は、その場面に応じて調整していくことになりますが、このあたりは初めからある程度の想定しておくこともできます。
 状況に応じた弾力性を持った基準の設定、妥当性のチェック機能などがあれば、ブラックボックス化のような問題は緩和することができます。
 給与制度の検討にあたっては、少なくとも「水準」と「配分」の二つの観点があることは意識しておくと良いでしょう。


■移行方法を考慮した議論を

 以前に述べた通り、給与制度は基本的な労働条件そのものであり、特に減額という形での急変には様々な制約があります。また法的には問題がなくても、社員のモチベーション、さらには生活そのものにも多大な影響を及ぼします。
 こんなことから、給与制度はその制度移行についても詳細に詰めておく必要があります。
 しかし実際には、あまり重視されないことが多い部分でもあります。

 移行方法に向けた手法を、俗な表現では短期間で一気に移行を完了してしまうハードランディング、時間をかけて少しずつ移行していくソフトランディングというような言い方をします。

 一般的な進め方としては、数年の時間をかけて徐々に移行を進めるソフトランディングが主流ですが、移行のために余分に給与原資が必要になったり、時間がかかることは悪平等との考え方があったりして、最近は多少の軋轢や争いを生んだり、モチベーションに影響があっても構わないとばかりに、ハードランディングで一気に制度を変えてしまう企業もあります。激変緩和の移行措置は考えないということです。


 制度移行に関しては、どんな方法をとったとしても何らかの不満は出てきますが、あくまで私の経験では、あまり急いでことを進めると、人材の流出傾向が増えてくるという感覚があります。これは制度移行に伴って不利益を被る人だけでなく、特に影響がなかった人やどちらかといえば恩恵があった人まで様々です。

 当事者にいろいろ話を聞いていくと、「こういうやり方をしてしまうんだ......」「いつかは自分かも......」というように、会社と社員の間の信頼関係が緩やかですが少しずつ崩れていってしまっている印象でした。

 人の心はお金だけでは動きませんが、お金の恨みということも確かにあります。移行方法についてはどんな方法を取るにしても、社員感情などを良く考えて、慎重にストーリーを検討しておくことをお勧めします。


次回からは、中小企業の人事制度について、まとめのお話をさせて頂きたいと思います。

小笠原 隆夫
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